不可視の暗殺者
それに気が付けたのは本当に偶然のことだった。
配信開始から5日目の今日、前回の最終到達階層の845層を抜けて857層目にてマーダーマリオネットの群れとしか表現が出来ないモンスターの波になんとか対応しようと必死になっていた。
マーダーマリオネットは個々では前回苦戦したキマイラと比べてもそこまで強くはないのだが、とにかく群れる。
ゴブリン系と同じく人間のようなパーティを組んで出現するのでパーティ学をしっかり受講して最優秀の成績で単位を納めたオレは相手のパーティに対応出来ているが、どいつもこいつも深層ダンジョン特有の多彩な装備で個体差を出してくるせいで厄介だ。
タンク職のマーダーマリオネットとかフルプレートメイルで盾まで構えてるし、魔法職のマーダーマリオネットは杖、ローブ、帽子の魔法職三点セットを揃えてる。50階層ボスよりも装備が潤沢な雑魚とかうざすぎる。
どいつもこいつもオレを嘲笑うかのようにパーティで出てきて素晴らしい連携攻撃を披露してくれる訳だが、何故かとても力がみなぎるので殲滅速度はむしろ上がった。
次々と後続が現れるしぶち抜き型のダンジョンだからと【生命探知】も使わずに五感での反応だけで現れたモンスターと戦っていたのが逆に良かったのかもしれない。
何も気配は感じないのに、何か居る。
首筋辺りに感じる圧倒的な危機感に無様にも体勢を崩して前転した。
前転後無理矢理身体を捻って元いた位置を見たが何も居ない。
「…………」
先程まで大分勢いよく殲滅したおかけで湧きが抑制されて一息ついたタイミングだった。
チリチリと炙られるような肌のざわつきが止まらない。
何かに見られている。
そこに何も居ない筈なのに、確かに居るという矛盾した感覚。
この手の感覚を無視するとろくな事にならないのはS級探索者ならなんとなく分かると思う。
今度は足元への違和感。
刈り取られると踏んだオレはその場でバク宙して距離を取る。腕は最悪一度くらい切られても良いが、足を切られたらポーションで再生するまでの時間が稼げない。そう思ってしたバク宙だったが、微かに刃が空を切るような音がした。
やはり何か居る。
このダンジョンで初めて【生命探知】を使用する。
「……やべーな、これ」
現在地から広範囲に広がる1つの灯火。
灯火があまりに大きく生命探知がろくに位置情報として機能していない。
この手のパターンは初めてだ。
素直に姿が見えないハイド系モンスターであって欲しかった。
一体どれだけの異常進化を重ねればこんな化け物になるのか……少なくとも以前発生直後に報告された仲間殺しのジョヴィアックは表面的な異常進化は進んでいたが【生命探知】で視ても大きく他のモンスターとの違いはなかった。
ピリピリと感じる敵意にまだ敵とのエンカウントは解除されていない事を知る。
この手の姿を消して一撃当てるタイプのモンスターは一撃離脱が多いというのに【生命探知】で見ても逃げる素振りがない。
今までの経験上、姿が見えないモンスターもそこそこ戦ってきたが、出現タイプと隠蔽タイプの2パターンに別れる。
どちらがより厄介かと聞かれればそれは当然攻撃の瞬間だけその場に出現する出現タイプだ。
しかし今回は出現タイプの条件(フィールド全体がそのモンスターのテリトリー化していること)を満たしていないので隠蔽タイプと思われる。
実態があって且つ完全に姿を消すのは階層深度的に海外でも報告されていたレアモンスターのインビジブルストーカーあたりか。
日本にも居たのか、というのが素直な感想だ。
この手のモンスターは発見のハードルがとにかく高いので居ることの証明が難しい。
倒すことが出来ればドロップアイテムの鑑定で存在を確定させることが出来るのだが、そもそも見えない敵を倒すということが難しい。
普通なら【生命探知】で不可視の存在でも大まかな位置を探れるが、今回の敵には通用しない。
これは……かなりまずい。
何が一番まずいって、こんなモンスターを放置したらどんどん異常進化を重ねていくだろう事が簡単に想像できるからだ。
完全なステルス性能を持った
こんなの適当なバックアタックだけでいくらでも稼げてしまうだろう。
オレが今まで襲われなかったのは相手パーティのど真ん中に突っ込みまくっていたからで、もし順当に相手をしようとしていたら背後からの一撃でお陀仏だったんだろうな……。
こんな異常進化をしているであろうモンスター相手に養分になるなんて絶対に許されない。
不意の一撃で倒されないようにアイテムボックスから【身代わり人形】を取り出した。
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