配信3回目


 そろそろ3回目の配信をしなければと思うが気が重い。

 どうも、先日最強さんと出会った時にオレのちゃんねるに誘導していてくれたようで配信もしていないのに登録者数が700人を超えた。

 嬉しいといえば嬉しいのだが、最強さんから誘導されたということは実質暗黒騎士呼びがバレたということでもある。

 人前で暗黒騎士と呼ばれるのと配信で暗黒騎士で呼ばれるのなら断然後者の方が気が楽なのだが、それでもその……冒険者学校年代高校生には正直恥ずかしさが勝る。

 しかしあまり日をあけて既存の視聴者に飽きられてしまうのも申し訳ないのでついに3回目の配信を行うことにした。


 今回の配信はA級ダンジョンの名前付きネームドモンスター討伐依頼だ。

 名前付きネームドになるとダンジョンのランクから一段階以上上のモンスターへと変異するので適正レベルの探索者にとって危険なモンスターになる。

 A級ダンジョンで出現したということで高ランク者の中で普段から塩漬け依頼をしてギルド貢献度が高いオレに指名依頼が来たと言うわけだ。

 名前付きネームドモンスター討伐自体はそんなに不味い依頼ではない。

 討伐適正レベルでさえあれば通常ドロップしないようなレアドロップが期待出来るのでむしろ旨い部類だ。

 ただ、ダンジョン内で一体しか居ないモンスターを闇雲に探し続けるというこれまた時間のかかる作業ではある。


 目的のダンジョン旧東京8番ダンジョンは黎明期のダンジョンということもあり階層が合計30階層と深いのが厄介だ。

 リターンを持たないオレは確実に泊まり込みになるので今回も泊まり込み用の探索セットと食料をアイテムボックスに入れてきた。

 旧東京8番ダンジョンはごく普通の石壁迷宮型なので環境適応装備が不要なことだけが救いである。

 いつものようにダンジョンの入り口前での最終確認を終えると配信設定を行う。

 一人称視点、外見配信なし、音声オン、見所アラーム有効化で配信タイトルは「【討伐依頼】名前付きモンスター討伐まで」で決定。

 配信予約設定を確認したので先時代の高層ビルの入口にデカデカと主張する渦に足を踏み入れた。


「前回も見てくださっている方も今回からの方もこんにちは、塩漬けちゃんねるです」


 通知から来たであろう視聴者がポツポツとコメントをくれる。

 中には当然のように「暗黒騎士君キター!」のようなコメントも流れているが一切触れないスタンスで行く。

 塩漬けちゃんねるのリスナーが困惑をしているが、この手のコメントは触れてしまうと一生おもちゃにされることが確定してしまうのだと視聴者として知っているので心を鬼にして無視。


「今回の配信は、旧東京8番ダンジョンに湧いた名前付きネームドモンスターの討伐です。このちゃんねるにしては珍しく、不味くない依頼になります」


 旧東京8番ダンジョンのランクを知っている人も居るのだろう、A級ダンジョンの名前付きネームドモンスター討伐に驚くコメントも流れてきた。

 逆にあの暗黒騎士君なら余裕だろというスタンスなのは最強さんリスナーだろう。


「いつものテンプレになりますが、この依頼は旧東京ダンジョン管理ギルドからの指名依頼になります。といっても名前付きネームドモンスターの討伐は一般の方がされても大丈夫ですのでもし討伐したよという方がいらっしゃいましたらコメントで教えていただけると嬉しいです」


 思念入力で固定コメントに設定。

 お決まりの流れを一通り実施した頃にダンジョン侵入から時間が経った判定をされたようでポップしてきたハイリザードマンをいなしてモンスターの捜索に進む。

 旧東京8番ダンジョン自体は一度攻略したこともあるので勝手知ったるダンジョンである。

 ただ、名前付きネームドモンスターは【生命探知】で見ても解る場合と解らない場合があるので虱潰しに見ていくしかない。

 低階層にはあまり居ないことが多いので念のためになるが。


「今日は間違いなく長時間の配信になるので見きれないなと思った方は見所アラームだけ設定していって下さると助かります」


 目的の明確な時は使える配信設定、見所アラームは今回でいうなら名前付きネームドモンスターと接敵した時に通知が来るというものだ。

 見る側としてはとても便利なのだがこの設定を有効にしていると見所以外で視聴者が全く増えない事もあるらしいので常時オンにしている配信者は最強さん以外ほとんど居ない。

 30階層を虱潰しとなると流石にダレるし付けたほうが良いので今回は有効化した。


 案の定、何人か視聴者が減ったが仕方ない。

 A級名前付きネームドモンスターとなればそれなりに話題になると思うので見所のタイミングで視聴者が増えてくれるのを祈ろう。


「今回もかなりの作業配信になると思いますので配信を見続けてくださる皆様の為に……、ダンジョンでの泊まり込みについての話をしようと思います」


 あまりやる人がいないとはいえ、階層の深いダンジョンも存在するのでそれなりに実りのある話になるといい。

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