配信タイトル「最強になるまで」
配信開始 14年7ヶ月12日7時間34分前
「さてさて、そろそろ最強への一歩をまた進めるとしますか!」
旧東京ギルドにて今日の分の依頼を受けた男、通称最強さんこと鈴木雅也は近くに誰も居ないというのにハキハキと虚空に宣言した。
根本がすっかり黒くなった金髪をそのままに軽く縛れるほど伸ばしている。薄っすらと白い燐光を放つ甲冑を身に着け腰に刀を履く姿はまさにこれからダンジョンに入ると言わんばかりの格好だ。
近くに誰も居ないと言ってもそれはあくまで現実の話でありダンチューブの配信画面では常に5000人を超える視聴者が彼の動向を全て見守っているので完全に一人という訳では無い。
「今日は久しぶりに死に戻り覚悟でS級ダンジョン行くで!」
最強装備ではなく一段階下の装備を身にまとっていた理由に薄々察していた視聴者が喜びのコメントを打つ。
人生をコンテンツとして配信している彼は常にダンジョンを潜るわけではないので常駐している視聴者自体はそこまで多くないが、高難易度ダンジョンへのダンジョンアタック宣言に視聴者数はじわじわと伸びていく。
「S級なってからちょっと停滞気味やったからな。ここらでもう1段階殻破って最強になるで!」
最強になるという曖昧な目標を立ててしまったせいで配信が切れなくなったのが全ての始まりだった。
途中アップデートが入り配信中止も出来るようになったが逃げるようで気に食わなかったので配信を続けた。
私生活を全部晒されながらも徐々に実力をつけて洗礼受けたてのE級の学生から始まった男がついに
一応ランク的には確かに最強と言えるかもしれないが、S級以上を振り分けるランクが存在しないせいでS級内でも実力にばらつきがあるのは公然の秘密だった。
現に、未だに配信終了ボタンを押すことはできない。
最終ランクになって終わりではなくそこから始まる真の最強へと至る道は目に見えた成果がない分モチベーションにも大きな影響があった。
何度か自分以外のS級にも何人か会ったことはあったが、方向性は違えどそこまで自分と実力差があるとも思えなかったことも大きい。
しかし、ある日ついに本物の
S級向けの強制依頼、旧東京1番ダンジョンの草刈り任務にて自分より明らかに若い少年が居たときの驚きを今も鮮明に覚えている。
探索者を初めて一年足らずでS級に至る圧倒的強さと才能は同時突入後分かれるまでの僅かな時間でも身に沁みて解るほどだった。
こいつより強くならなくては、最強ではない。
そう思わせてくれる
今日もその特訓の一環として高難易度ダンジョンへと潜る。
視聴者へと向けた説明があらかた終わった頃、噂をすれば影がさすというわけではないがギルドに新しい来客が現れた。
「おっ、暗黒騎士君やん」
「……その呼び方本当に恥ずかしいので辞めてほしいんですけど」
いつものように薄着の手ぶらでまるで近所のコンビニでも向かうような格好で近隣に高難易度ダンジョンしかない旧東京のギルドに来るのは一人だけだ。
本人はまだ若く、職業探索者になるかも決めていないと言っていたので姿形が鈴木の配信に映らないように日常的に容姿を非表示にするオプションをオンにしている。
人生を配信している鈴木は望まない相手を特定できるような情報を出さないために必ずあだ名をつけるようにしている。
なので暗黒騎士君こと、
僅かに見た戦闘スタイルからつけたあだ名は割と見たまんまなのだがそういうお年頃の子供にはどうも恥ずかしく感じるらしい。
「ゆーて暗黒騎士君他に希望の呼び方なんてないやろ?せやから仕方ないんや」
「……なんか売名みたいで嫌なんですけど、今後は塩漬けって呼んでください。頼むから暗黒騎士だけはマジで勘弁してください」
「おっ!?もしかして配信始めたんかぁ!?今日からこっちでもライバルってことやなぁ!」
「嫌、ホント最強さんとは比較もできないんでそういうのはいいです。では……」
元々依頼を受けにギルドに来ていたのだろう。
話し込む体制に入る前立ち去られてしまった。
「かーっ相変わらずの塩対応!塩漬けってぴったりな呼び方やないか。視聴者のみんな!後であいつのちゃんねる見つけたらこっそり俺に教えてな!」
売名行為をしたくて名乗った訳では無いと思うがあの秘密主義の暗黒騎士君がダンチューブを始めるなんて何か事情があるのだろうと思った鈴木はさり気なく視聴者を誘導した。
「さて、若い子に絡んどったら一日があっちゅうまに終わってまうからそろそろ行こか!一日一最強!千里の道も一歩からってな」
いつか、正規の手段で配信終了をするために鍛え続けるのが最強さんこと鈴木雅也である。
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