最終話 α-①
執務室の前に立つと扉が青白く発光して、私の身分確認を済ませた。
「アントニオ、入りたまえ」
部屋の中から長官の野太い声がすると共に扉がスッと開いた。
「今回はとんだ災難だったな、具合はどうだ?」
「おかげさまで、もうすっかり元通りですよ。早く次の任務がほしいです」
ヘンダースン長官は、笑いながら言葉を続ける。
「まあ、そう慌てるなアントン。事案は象に食べさせるくらいあるが、君達のチームに動いて貰うのは一週間後だ。まあ、立って無いでかけたまえ」
執務机の左に置かれた上品な応接椅子に目を向けて促した。
私が着席すると、ヘンダースン長官は続けた。
「アントン、お前幾つになる?」
「25歳です」
「早い物だな、もう四半世紀になるのか、一番小さかったお前さんが25歳とはな、、、」
私は長官の言葉を引き継ぐ。
「勿論、0歳の記憶は全くありませんが、物心付いた時は兄貴分のケンと姉と母の両方の役割をしてくれていたマダムの世話になって、日々訓練を受けていました」
「そうだったな、アントンお前達のグループは群を抜いて優秀だった。三人三様に見事に能力を使いこなしていた」
「マダムがヒーラーでクレアボイアンス、ケンがトランスフォーマーでテレキネシス、、、」
「そして、アントニオ。お前がタイムリーパーで平行世界のトラベラー。お前達は、昔から本当に素晴らしいチームだった。これまでもどれだけ多くの難事件を解決してくれた事か、、、」
「長官、今日はやけに持ち上げますね。俺を逆さにしても何も出ませんぜ」
「いやいや、アントニオお世辞では無いよ。ワシは幼い頃からお前達を見て来た。地球があんな事になり、孤児になってしまった皆んなをな、、、」
「長官、歴史の授業で習いましたよ。2022年にロシアのウクライナ侵略から始まった第三次世界大戦で地球は壊滅的なダメージを受けた。土地は荒れ果て生き残った僅かな人間も全て汚染されてしまった。彼等が私の祖父母の世代。そして我々、戦後第三世代は全員が特殊な能力を何かしら身につけて産まれて来た、それは生き延びる為に突然変異として誕生した超能力者集団だった、、、」
「そうだ、アントン、そして丁度そのタイミングで、この宇宙を破壊し続ける反宇宙分子生命体が暗躍し始めた、、、」
「そして、我々ミュータントが奴らを退治する為に組織化された、と云う訳けでしたね」
「ああ、中でもお前達のチームは抜群の成果を挙げ続けて、今や超能力者達の最高責任者だ!」
「身分なんて、どうでも良いんですよ長官。私達は育ての親、実の父親の様に思っている貴男の笑顔を見たかっただけですから、、、」
「おいおい、老いぼれを泣かすんじゃ無い。この頃、滅法涙腺が弱いんだ。正直、お前達を危険な任務に就かせるのが心底辛いんだ、、、」
ヘンダースンは鼻を啜りながら続けた。
「アントニオ、ケン、マダム。俺はお前達を本当の愛しい家族だと思っている。俺が若い頃は生物学で〈オパーリンの自然発生説〉と云うのが主流でな。『全ての生き物は、海で偶然に産まれたコアセルベートから全てが始まった』と習ったもんだ、、、」
ヘンダースンは、息を整えるとゆっくりと話を続けた。
「俺は、お前達を『海からの贈り物』だと思っているよ」
「長官、今日はやけに湿っぽいですね」
「茶化すな、アントンよ。今夜はケンもマダムも呼んで、久しぶりに四人で上手い酒でも飲もう。一週間後には、またお前達を危険な場所へと送り出さないといかんからな」
「勿論、異存はありませんよ」
私は幸福だ。
(第一話 『海からの贈り物』α-① 了)
海からの贈り物 薄神てつな @nana523
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