エピローグ
花物語
むかしむかし、あるところに花の咲き乱れる楽園がありました。
そこは慈愛に満ちて、悲しい思いをする子がだれもいない、みんなで愛を分かち合う、たったひとりきりの楽園でした。
かつて、楽園ができる以前は人間の国があったといいます。人間たちの国では争いが起こり、たくさんの人々が傷付き、けして満たされることはありませんでした。しかし、あるとき、人間たちの国を素敵なあまい香りが包み込んでいったのです。すると、どうしたことでしょうか。人々は気持ちを抑えなくてもよいのだと気が付きました。なににも縛られず、邪魔されず、愛を実行する。人々は自由をてにいれたのです。
一輪のお花が、人々にささやいたのでした。
お花はしあわせのひみつを教えてくれたのです。
人々はたくさん愛し合いました。
たくさん、たくさん、愛し合いました。
ふたりがひとりに溶けあうまで愛し合いました。
彼らはいちばん素晴らしいやり方を教えられたのです。みんなが不満を持つことなく、悲しむことなく、心から分かち合うことができる方法でした。
とてもやさしく、みんなを包み込むあいでした。
お花はみんなを包み込んで、おおきくおおきく咲きました。
お花は伝えます。風に香りをのせて、愛のひみつを囁きます。たくさんのひとに伝えて、かなしいきもちがなくなってくれるように願いをこめて。
いまでも時折、旅人たちは噂します。失われた楽園の場所を探すには花の香りをたどっていけと教えます。ただし気を付けろ、と旅人たちは警告します。探しに行って帰ってきたものはいません。楽園はいまでも生きている、と。感情をもたぬ石になれ、と。
愛はだれの心にもあるものです。
きっと気付かず種のままなのです。
枯れ木に花を咲かせましょう。
あなたに愛をあげましょう。
お花は待っています。ずっと、ずっと待っています。
愛しいあなたがくることを。
花失致死 志村麦穂 @baku-shimura
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