最終話 未来へ
「……あら?」
花の少女は小さく疑問の声を上げる。
サラサラと、末端から消えゆく体。
神のいたずらにより、世界と繋がって生まれ落ちた少女。
だが、奇跡的なバランスにより保たれていたその体は、世界との繋がりが断たれたことにより、行き場をなくした力によって崩壊していく。
キョトンとした顔で消えていく自らの手を眺めた花の少女は、少しつまらなそうな顔をしてこう言った。
「残念。もうおしまいなのね」
そして、かけがえのない妹へと満面の笑みを浮かべる。
「まぁいいわ。楽しかったわりんご、ありがとう」
その言葉を最後に、花の少女はこの世界から消え去った。
「う……あ……」
その笑みは自分に深く刻まれている。
何でもできる憧れのお姉ちゃん。
その笑みは自分に深く刻まれている。
自分を地獄へと突き落とした憎き仇。
「う……ああ……」
様々な想いが胸の内からあふれ出していく。
「ああああああああ」
想いは叫びとなり口からあふれ出した。
それは勝利の、そして別れの声だった。
★
「ふーん。久しぶりに来てみたけど、結構進んでるのねー」
あれから5年。
各国の協力により東京の復興は猛スピードで進んでいた。
りんごの視界には、人間に交じってちらほらとそれ以外の存在も見受けられる。
「そうですね。伊吹様のご協力もあってのことですけど」
5年の月日が過ぎ少し背の伸びたいちごは、少し困ったような笑みを浮かべそう言った。
「は? 何? あのバカ何かやったの?」
「いえいえ。伊吹様のご協力にはいくら感謝してもしたりません。ですがー、少し人間とのスケール感が……」
あはははとから笑いするいちごを見て、りんごはため息を吐く。
あの戦い、あの一刀。あれは自分の体が崩壊してもおかしくないものだった。
全世界の人間よりのバックアップを受けた一個の人間。それが今もこうして生きているのがどれだけ奇跡的な事かは自分が一番よく知っている。
だが、そのダメージは深刻なもので、今の今まで療養生活を続けていたという訳だ。
戦いに参加した残り。
茨城童子はどこかへふらりと消えていったという。まぁ彼女と付き合いの長い郎党が一切心配していなかったので問題は無いだろう。
なつめはそのままいちごのボディーガードと言う名のニート生活を満喫しているらしい。
江崎は相も変わらずただのジャーナリストとしてあちこち飛び回っているそうだ。
そして、いちごは――
「にしても、アンタが巫女さんになるとはねぇ?」
りんごはそう呟き、チラリと隣に立つ緋袴の少女を見る。
あの戦いの後、いちごは人間と妖怪の懸け橋として、表に出て来た伊吹大明神の巫女となり働いているのだそうだ。
「えへへへ。変……ですかね?」
いちごは照れくさそうに頬を染める。
「別にー。アンタがやりたいならそれでいいんじゃないの?」
そう、興味なさげに呟くりんごを見て、いちごはむぅと眉を寄せたあと。軽くため息を吐き、りんごの手を取った。
「ん? 何よ」
「何でもないでーす。さっ行きましょうりんごさん!」
そうしていちごはりんごの手を引き歩き出す。
新しい世界。まだ見ぬ明日へ向けて。
APPLE ー令和斬妖奇譚ー 完結
Appleー令和斬妖奇譚ー まさひろ @masahiro2017
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