第4話 女子の反抗期が一番怖いよね。

「ただいま」


ドアを開くと、リビングの方からぴこぴことゲーム音が聞こえてきた。

その音の正体がなんなのかは⋯⋯まぁ、一目瞭然なのだけれど。毎年毎年この時期になると、うちの両親は仕事の都合でしばらく家にいない。そうなると必然的に妹の夢乃だけがこの家にいるわけで。あ、あと飼い犬のむーちゃん。

それにしてもまあ夢乃は置いといて、むーちゃんは飼い主が帰宅したってのにわんわん走ってお出迎えぐらいしてよ⋯⋯なんて一人寂しい思いになりながら、玄関で靴を脱ぎ、そのままリビングに直行。

そして、がちゃとリビングの扉を開くと、ここでようやくむーちゃんがお出迎えしてくれた。


「おっ、むー、ただいまぁ」


俺の足元でくるくる回ってはぴょんぴょん跳ねて抱っこ抱っことせがんでくるのが、うちの癒し犬ことむーの可愛いところ。うぅん、最高に癒される。

と、そんな飛びついてくるむーとは正反対に。


「あ、おかえりお兄ちゃん。帰ってたんだ」


ソファーに座ってゲーム画面を夢中に見つめながら、夢乃からなんてことなさそうなお帰りをいただき。


「⋯⋯夢乃。お前ここ最近、母さん父さんいないからってゲームばっかだな。ちゃんと勉強してんの? 今年受験生だろ?」


「っもー、受験受験うるさいなぁ。してるって勉強ぐらい」


「あそ。ならいいけど」


勉強してんの? っとか言える立場じゃないんだけどね、俺。ここ最近のテストの順位、下から数えたほうが見つけるの早かったし。ハハ。

と、そんな兄のくそプライドを捨てきれなかった俺は、一度荷物を置きに自分の部屋に戻って、着ていたブレザーをハンガーにかける。

そしてまたリビングへと戻っては、キッチンの冷蔵庫をばっと開ける。


「夢乃、今日何にする晩飯。なんか食いたいのあるか?」


「いや、とくに。っていうかお兄ちゃん、料理できないのになんで聞いてくるの? どうせ今日も冷凍食品でしょ」


「おいっ⋯⋯それは禁句だろ。一応これでも兄らしくしないとって思ってるんだぞ」


「はぁ? なに言ってるの意味わかんない。きもすぎ」


「⋯⋯⋯⋯可愛げのねぇ奴」


まぁ、これが俺と夢乃の日頃の会話で。でもこれって兄という立場だからこういう接し方なのかな? それとも逆に普通に距離感近いからこそこう、暴言吐かれてるのかな? あれぇ? でもどっちにしろあんま嬉しくない☆。

結局、晩飯は夢乃がなんでもいいと言うことで、冷凍庫に入っていた餃子とか唐揚げとか適当なお惣菜を皿に乗せて、そのまま皿ごと電子レンジにぶっ込む。

ちなみに、白米は夢乃が炊いてくれてたみたいで、そこは助かったぜ、サンキュー。


「なぁ夢乃。お前ってさ、告白されたことある?」


電子レンジのタイマーを三分ほどに設定し。

その間、暇ということもあって、俺はそんな中々にきもがられそうな質問を夢乃にしていた。


「えっ、なになにえ、無理無理きもいきもいきもすぎるからほんとに。この場から早く出てっていなくなってというか家から出てってお願いだから」


「おまえ⋯⋯」


案の定、これまでゲーム画面から一切動かなかった夢乃の目線は、一瞬にして俺の方へと移り変わり。

そして、夢乃は俺の方は見やると、不愉快極まりなさそうに眉間に皺を寄せて、すごいひどいことを早口で言う。

この子、本当に俺の家族だよね? 妹だよね?


「っていうかなに、そのきもい質問? お兄ちゃん告白でもされたの?」


「っえ、なんでわかったの」


「いやぁ⋯⋯わかるでしょ流石にそれは。もし仮に告白されてないでこんな質問妹にしてきたら、それこそ本物のきも男だよ」


「⋯⋯べつに告白されてなくてもこのくらいいいだろ」


「いーやぁ、ゆめは無理だね、うん、むり。考えるだけで鳥肌立つ⋯⋯」


うんっ! この子の感性、バグりすぎっ! 世の中の男、こういう女子もいるっていうこと、忘れないようにねっ! さもなくばこの俺のような痛い目に遭うぞっ!


「⋯⋯で、誰なの?」


「なにが?」


「お兄ちゃんに惹かれる要素なんてどこにもないのに罰ゲームか何かで告白した人」


「⋯⋯おい、それ俺に失礼じゃね」


というか罰ゲームとかいう恐怖心芽生えさせるワードやめて? 仮にそれが本当だったとしたら俺めっちゃクソイタイ奴になるじゃん? えっ、待って待ってどうしよう、怖くなってきたなぁ。罰ゲームとかじゃないよね? クソイタイ奴にならないよね俺っ⁉︎


「っで、誰なの? 告白してきた女子は」


独りよがりに恐々としている哀れで可哀想な兄の心境なんてどうでもいいっすといわんばかりに、夢乃がしつこくそう聞いてきて。

ただ「平山結衣っていうさ〜後輩がいてぇ〜その人からぁ〜」とかなんとか言っても、別に話が盛り上がるわけでもないし、むしろどうせまたキモがられるついでにからかわれるだけだと思い。

そして⋯⋯。


「やっぱりあれ告白されてない感じだねうん多分そうだ絶対そうだよねうんだからこの話は終わりねというかなかったことにしてうん」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」


俺の究極必殺奥義、ザ・適当脳死喋りには流石の夢乃も言葉を発するどころか、声すら出ていなかった。

この奥義はもうなんかよくわからんくなった時のみ発動可能な技。それゆえ、技の発動後は相手に中々の効果が期待できる。ついでに俺にも。適当に喋るということは人間の知能が備わっていないのではないかと相手に疑われるのがこの技の最大の弱点。だから発動者自らにもダメージがくる。⋯⋯しかし、俺はそんなことは気にしない、いや、気にするまでもないか⋯⋯ハハッ。

なんて、したり顔で意味不明なことを脳内でべらべらと語っていると、チンッと電子レンジの音が鳴った。


「っお、夢乃飯できたぞー早く席につけー」


「うるさいっ、聞こえてるっつーの」


キレ散らかしながら、夢乃はダイニングテーブルの椅子に座って、今度はゲーム機ではなくスマホの画面をカタカタと操作し始めた。

もぉ、最近の子ったらすぐ頭に血が上ってほんと怖いし電子機器ばっかり見てほんと困っちゃうわぁ⋯⋯と近所の口数多いおばさん気分で食材の乗った皿をダイニングテーブルに並べていく。


「そういえば風呂もう沸けてるの?」


「うん、さっき沸かした」


「あそ」


あら、なんだかんだいって米炊いてくれたり風呂洗って沸かしてくれたり、うちの妹まじ神ってるんですけど。頼りになるー、ずっとお家にいなね。口はあれだけど。


「飯食い終わったらどっちから先風呂入る? 俺今日早く寝たいから夢乃からだったら悪いんだけどできれば早めにで——」


「いや、今日ゆめ彼氏の家泊まるからあっちではいる。だから食べ終わったらお兄ちゃんがすぐ入りな」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぇ」


あら、空耳かしらね。やーね、歳とると不快になる幻聴も聞こえてくるなんて。あーほんとマジ勘弁。耳鼻科行こうかな。


「ゆめ食べ終わったらすぐ行くから、だから今日は早く寝れるね、やったねお兄ちゃん」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぉぅ」


夢乃はにこりと微笑んで、箸を手に取りぱくぱくと食事タイムにはいった。

どうやら、俺の耳は耳鼻科に行かなくていいらしい。空耳でも幻聴でもなんでもなかった。めっちゃ現実の声がしっかりと入ってきている。

⋯⋯でもなぜだろう、耳鼻科にも行く必要もなくて、妹から今日一の笑顔を向けられたのに⋯⋯なんだろう、この絶望に近い気持ちは⋯⋯。

そんな思いを胸に、俺も席に座って箸を手に取り、お食事タイムへ。

ちなみに、その日の晩飯の味は、微塵も覚えていなかった。ハハッ。



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可愛いくて不器用な彼女は、どうやら俺のことが好きみたい。 月摘史 @hasuuu

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