第3話 こんな急な展開、俺知らないんですけど。
駅前の近くの住宅街の中にある質素な公園。時間は⋯⋯空模様的に、ざっと六時前くらいだろう。
人気も少なく、ちらほらと街灯がつき始めてきた頃合い。
そんな中、平山は公園のブランコに座ったまま、ぎこぎこと漕ぐわけでもなく、ただただ物静かに無言で俯いているだけで。
それを俺は、少し離れたところからぼんやりと見ていた。
平山は一体、俺に何を伝えたいのだろうか。ただその疑問だけを頭に浮かべて、平山からの言葉を待つこと数十秒が経ち。
そしてようやく、平山がブランコに座ったまま、ゆっくりと口を開いた。
「⋯⋯たっつー先輩、あの、お話いいですか」
「おっ、おう」
そう言う平山の声には、若干の震えが含まれていて。
それに俺も感染して、ちょっとばかし返答が遅れる。
すると、平山は一度、大きく息を吸ってから、ふぅーっと吐き、それから俺の方を見て。
「単刀直入に言っちゃうとですね⋯⋯そのっ、あたしたっつー先輩、いや、達也先輩のことが好きなんです。心の底から」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぇ」
勢いよくそう言われて、俺はどういう反応をすればいいのかわからなくなってしまい。
脳内パニック状態で、腑抜けた声しか出なくなって。
「ひっ、平山、それってどういう意味⋯⋯?」
「⋯⋯達也先輩が思ってる通りの意味ですよ」
「っえ、じゃあ、らっ、ラブのほう⋯⋯ってこと?」
「はい⋯⋯ラブのほう、です」
「らっ、ライクじゃなくて?」
「はい。ライクじゃなくてラブです。もぉ、何回言ったらわかるんですかぁ。あたしのこと、辱めようとしてます?」
「ああいや、そういうわけじゃないけど⋯⋯」
間違いない、今、平山の口からライクではなく、ラブだと告げられた。
あの平山からラブ? ラブだぞ、ラブ。それはもーラブすぎてラブだわ、いやまじでラブすぎ。
唐突の事態すぎて、意味無く心の中でぶつぶつとラブラブ連呼していると、平山がブランコから立ち上がり、じわじわと俺の方にゆっくりと歩み寄ってきて。
「それで、返事は、いつしてくれるんですか⋯⋯⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ」
そして、平山は顔に息がかかりそうなほどに、顔も体も近づけてきて。
胸の中心辺りに、平山の胸があたり、そこから平山の心臓の鼓動が、徐々に徐々に早くなっていくのが伝わり。
それに俺はもう、平山からの質問に答えない限り身動きできない呪いをかけられたみたいに固まってしまって。
「っわ、わからないっ。いつとかそういうの、とか。どうすればいいかっ⋯⋯」
もう何もかもわからなすぎて、弱音みたくそう言うと、平山がぽしょりぽしょりと小声で囁く。
「それじゃあ困ります。知っての通り、あたし、意外と我慢強くないんです。だから、そんな何日も何日も待たせるんだったら、あたしから強引にしたいこと⋯⋯しちゃいますよぉ⋯⋯?」
「しっ、したいことって⋯⋯そんな、冗談、でしょ⋯⋯?」
「⋯⋯あたしはいつでも本気ですっ」
俺の焦り気味な言葉に、にこっと可愛らしく微笑んで軽やかに答える平山。
もう、何を言っても平山の暴走は止まらない、そう俺は踏ん切りをつけて、一度深呼吸し、俺の腰に回った平山の手をゆっくりと解いて。
「⋯⋯わかった、わかったよ、平山の気持ちは」
「ほんとですかっ!」
「うん。だけど、ほんともう少しだけ待ってくれ。その、色々と考えたいことあるから⋯⋯」
ようやく素直な気持ちを伝えられると、平山はその俺の本気の気持ちを受け止めてくれたのか、さっきまでのからかい混じりな話し方ではなくなり。
「⋯⋯わかりました、達也先輩がそう言うんだったら、あたし、待ちます」
言いながら、平山は後ろに手を組んで、柔らかく微笑む。
「ごめん、ありがとう」
「いえ⋯⋯」
そして、平山はてくてくとまたブランコの方へとカバンを取りに戻り。
「それじゃあ、お返事、いつでも待ってますねっ! たっつーせんぱぃ」
手を振りながらそう言い、平山はそのまま公園を去っていく。
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