第十九話 ルミナス騎士団5
ジェイスが急に上体を起こす。普段は腰に佩いているはずの自らの剣を手探りしながら、グランドウルフは?と訊く。
「安心してください。あの後ルミナス騎士団の方が駆けつけてくれて倒してくれました……。──ジェイスさんの剣はあちらに預けてありますよ」
ルイは答える。
「倒したと言っても、グランドウルフは手負いだった……。貴方の健闘のおかげで倒すことができました。ありがとうございます」
そう言って従騎士ヴァイオレットが頭を下げた。ヴァイオレットは巨躯ザナックの制止を振り切って、ジェイスの傍に来たようだ。
ジェイスはヴァイオレットの方へ顔を向ける。
「いくら手負いとはいえあの化け物を倒すとは、噂に違わぬ強さだな。エーテル・アーツは伊達ではない……」
ジェイスは口角を上げてニヤリと笑う。
エーテル・アーツ……?
テラは聞きなれない単語に首を傾げた。
ヴァイオレットは改めて深く敬礼をし、小隊を引き連れてカトラ村へと発った。
「ルイ……、俺以外に、けが人はいなかったか?」
「ローレンスさんが少し右脚を負傷されています。あと、副隊長のガントさんが全身打撲していますが、命に別状はありません。その他は軽症でした。ジェイスさんが一番、重傷でしたよ……」
ルイは安堵からしたからか、両眼に涙を浮かべてジェイスを見つめる。
「そうか、それならいい……」
ジェイスは目を瞑ったかと思うと、上体から力が抜け倒れ込むように深い眠りについた。
「俺の意識は過去に戻っていたんだ……」
ジェイスは唐突に話し始めた。
ジェイスが再び目醒めたのは、あれから二日後のことだった──。
ジェイスが目醒めるまでルイはジェイスの布団を換えたり、水を飲ませたりとつきっきりで世話をしていた。
「俺はリヴァイア帝国の剣闘士だったんだ……」
今、ジェイスとルイはローレンスの大きい馬車の一室にいる。普段は無口なジェイスは妙に話をしたい気分だった。ローレンス以外に語ったことがない自らの過去を語り始める。
剣闘士ジェイド──。
その剣闘士の名は帝国中に知れ渡っていた。ジェイド──今のジェイス──は親の顔を覚えていない。親は貧しかったのだろう、俺は幼い頃から剣闘士になるべく闘技場に預けられた。それから日夜闘い続けてきた。本当に闘うことしか知らなかったんだ。
闘技場で戦い続けて、気がづいたら俺と同じように小さい頃から戦っている奴らは、ほとんど死んでいた──。残ったのは俺と名のない男だけだった。俺もその頃は名前なんてなかった。ただ自分を示す四桁の番号が与えられているだけ。そいつに対して特に何かの感情を抱いているわけじゃなかったが、アイツが大獅子ネメアに殺されちまったとき、頬を何か熱いものが伝わる感覚があった。
「涙……」
ジェイドは頰を拭って驚いた。自分の拭った甲が涙で光っていたのだ。
戦士が涙なんて……。
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