第八話 王都トレドへ5
テラはあの時の恐怖が蘇り震えた。
「あの時はあなたの勇気に私とお父さんは助けられたのよ」
エルサは柔らかい声と手で、テラを優しく撫で、包み込んでくれる。
「でも、今回は大丈夫よ。強い傭兵さん達が私たちを守ってくれるからね。見たでしょ、あの強そうな人たちを…
一体どうやったらあんな身体になれるのかしら?お父さんもあれくらい鍛えてもらわなきゃね!!」
エルサは愉しそうに言う。
「うん?何か言ったか?」
アヴァンが御者台から振り向いて訊く。
「なんでもないわ。あなたは運転に集中してちょうだい」
エルサは可笑しそうに笑った。
テラもクスッと笑った。恐怖で凍りついた心がお湯にといたように少しずつ溶解していくのを感じる。
エルサは改めて両腕でテラを優しく包み込んでくれた。まだ不安に駆られていることは、母にはお見通しなのだろう。
テラはふぅっと息をつき眼を瞑った。
母の暖かさが背中を通じて流れ込む。
──母は強くて優しい……。母のような女性になりたい。
あの時、私は二人のことをただ窓の中から見守ることしかできなかった……。
稲妻の中に浮かび上がる自分の小さな影。狼と対峙する父と母の大きな背中。
テラはもう何度目になるかわからない想いを心に浮かべながら意識を眠りの中に落ちていった。涙の跡が頰に残る。
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