トルマリンの本音

蒼(あおい)

トルマリンの本音

赤、青、黄色、緑…。俺は、どんな色にでもなれる。


色んな色に変化(へんげ)できる。でも、本当の俺は何色なんだろう?


上書きされていく、色の記憶。


影響を受けすぎない様に、耐える日もあった。


俺が多彩に色を変えるのは、悪く言ってしまえば、個性が無いとも言えるのかもしれない…。





考えすぎだと、言う人もいるだろう。だが、ついつい、ネガティブな思考になってしまうんだ。


気づけば、俺は、正体がバレるのが怖くて、逃げるように色を変えていく。


暗がりを歩いていると、森の茂みの中から、三匹の猫が現れた。


毛色が一匹だけ違っていたが、その理由はすぐに分かった。


……この猫は、ただの猫ではない。…猫又だ。





寒さとは違う震えが止まらない。


正直、会いたくないとさえ思っている相手なんだ。


素性を知っている訳ではない。これは、俺の一方的な恐怖心だ。


先祖代々、語られてきた話がある。”我々は、翡翠(ひすい)の名を借りて力を得た“と。…つまり、本来の俺の力は、猫又の名を借りた、偽物の力に過ぎない。


そんな事が知られてしまったら…。俺は、その場から逃げるように





立ち去ろうとした時だった。猫又に呼び止められた。身体中の


力が抜けていくような感覚になりながら、恐る恐る、俺は猫又の前に座った。


つま先まで伝わって来る心音に、消えたい気持ちが何度も現れる…。


手が伸びてきた時、俺は”死“を覚悟した。…だが、その手は優しく俺の頭を撫で、こう言ったのだ。







『トルマ。君は何も恐れる事はない。むしろ、誇りに思うべきだ。』と…。







何故かと問うと、







『”真似る“というのは、容易ではない。人間が勘違いをする程の力を、君は既に身につけている。


抜け殻をいつまでも被っていてはいけない。我々は、君達の存在を認めているのだから。


願い続けろ。希望を持ち続けろ。稲妻の様に、光り輝くのだ…!』







励まされるかの様な言葉に、思わず、涙が零れた。


日陰で身を潜めて過ごしてきた俺の中に、その時、少しの変化が訪れた。


不思議な感覚…。今まで身体の中にあったモヤモヤした気持ちが、どこか遠くへ行ったような。


…安らかな気持ちになった。思いを打ち明けた途端、俺の身体は白へと変化(へんか)した。


本当の俺は、こんな色をしていたのか。…自分自身をも誤魔化しすぎて、いまの今まで、忘れてしまっていた。





緑色の綺麗な瞳が、変わっていく俺を見つめ、優しく笑った。


難しく考える必要はなかったのかもしれない。俺は、俺だ。猫又に感謝の言葉を伝え、


満面の笑みを浮かべて、その場を後にした。


…もう、何も怖い事などない。





やがて、周りも明るくなり、太陽が眩しく俺を照らす。


悠々と、その中を歩いて行く。しっかりと、前を向いて…。


淀(よど)んだ気持ちは、涙と共に流してきた。





落雷をこの身で受けたような衝撃を…。高ぶるこの感情を…。誰かに知ってもらいたい。


難しい理由なんて何処にもない。俺は今、とても幸せだ。


くるしかった日々が、まるで嘘かの様に、はれ渡っている。


この空のように…。何処までもひろがる、あの雲のように…。


俺は七色に、いや、それ以上の色に変化(へんげ)していける。





我が物顔で、己の能力の誇らしさを、これから生まれてくる子達に伝えよう。


……この俺が、トルマが、


カメレオンの素晴らしさを。


自信を持って、君達に………。



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トルマリンの本音 蒼(あおい) @aoi_voice

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