第2話:才の片鱗と騎士
※※※
「娘の面倒を見て欲しい」
当主に呼び出されてそう言われた俺は驚いた。 今まで蝶よ花よと大事に育てていた娘だ。 クソ王子の意向もあって、男には一切接触させていなかったのに。
そもそも俺は戦士だ。
面倒を見るにしても、執事の方が適当だろう。
「剣を振りたいそうだ」
不幸があって部屋にこもっているという話はきいていた。
剣を振ってどうしたいのだろう。
ストレス発散もしくは一人で生きていく力を望むか。 はたまた王子に復讐でも考えているのか。
当主様の渋い表情を見るに、本人が強く希望していることは察せられた。
剣の道は長く険しい。
危険も伴うから半端な気持ちで立ち入るべきではないし、一生関わらないでいられるなら、それはとても幸せなことだ。
だから興味本意でも元気が出るきっかけの運動と思えば剣を振ることは確かに悪くないと思えた。
「承知しました」
だから俺はその時、軽い気持ちで了承した。
ーーザンッ
彼女、リリハルカ様の一振りを見て鳥肌が立った。
どう見てもただの清楚な令嬢。
鍛えている様子はない。 むしろ他で見かける方より浮世離れしていて、儚い印象であった。
そんな彼女の放ったのはまさしく斬撃。
これが真剣であれば、どれだけの威力であったか。
俺が初めて剣を握ったのは五歳の頃。
騎士だった父に憧れて、懸命に鍛練を重ね、武者修行のために旅をしたこともある。 そして騎士団に入団した。
これまで数多の天才たちと手合わせしては、届かない領域を見せ付けられ心を折られたこともあった。
その天才たちの振りと似た、刃を突き付けられているような圧迫感を俺は感じたのだ。
「素晴らしい」
素直な称賛だった。
「お世辞なんていらない」
しかし彼女はおきに召さなかったらしい。
「世辞ではありませんよ。 ほら続けましょう」
「言われなくともやる」
この震えは恐れかーーいや、きっと武者震いかもしれない。
新たな天才と会えた、そしてそれを己が育て上げてみたい。
そんな純粋で、自分勝手な俺の好奇心が心を奮わせていた。
※※※
剣を握ってから毎日が楽しくなった。
私は勉強をやめて、ほとんどの時間を剣を振ることに費やしている。
振れば振るだけ、剣筋は鋭くなっていく。
打ち合えば打ち合うだけ、体が軽くなってゆく。
『あなたには天才だ。 才能がある』
剣を握ったあの日、騎士団長はそう言った。
『どれくらい? ダンジョン攻略できるかな?』
『……できるかもしれません。 がこれはあくまで可能性の話であって、』
『そっか』
私はその言葉を聞いて久しぶりに心から笑えた気がした。 消えた明かりが再び灯ったようなそんな気分だった。
「あなたはどんな剣士になりたいですか?」
「どんな剣士……」
「何のために剣を振るうのか。 私であれば当主様やあなたを守るために剣を振るいます。 剣の道は一つではなく、様々な形があります。 ですから目的をーー」
彼が私の剣の先生になったのは、良いのだけど意外と理屈っぽいところが傷だ。
目的なんてない。
ただ気持ちよければそれでいいと私は思う。
「分かった」
「では素振りをしていきましょう……素晴らしい!」
何も考えていない一振りに彼は興奮したように手を叩いた。
(なにかに似てる気がする……あ、お猿さんか)
先生が彼で大丈夫だろうか、時々不安になるのは私が可笑しいのだろうか。 それとも剣士とは大抵こんなものなのか。
しかしそんな疑問も剣を振れば、
(ああ、もっともっと強く)
(早く、長く振っていたい)
全部ぜんぶ忘れられる。
私は今、最高に幸せだ。
世間知らずの妖精姫は婚約破棄されたので剣舞する~王子の婚約者だからと家に閉じ込められていたけど、試しに剣を振ったら才能があったので自分の力で悠々自適に生きていきます~ すー @K5511023
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