現代ファンタジー短編集

ぬやみうたくひ

小説を書かないと出られない部屋

ふぁ~あぁ。あ~よく寝た。トイレ行きて~。

って、ん?ここどこだ?え?は?どこ?

「おはようございます。山川様。」

ひっ!びっくりした。アナウンス?

「ここは小説を書かないと出られない部屋。そこにある紙とペンを使って、なんでもいいから小説を書いてください。文字数は5000文字以上です。時間の制限はありません。どうぞごゆっくり。」

ガシャンッ

ん?なんだ?ご飯が出てきた。それにトイレもある。手足は自由だ。枷も何もない。

でも監視カメラはあるな。

つまり小説を書かないと本気で出られない部屋ってことか。

でも俺、小説とか書いたことない!普段から読むタイプでもないし、そんな俺がどうやって小説書けばいいんだよ!

「悩んでおりますね、山川様。あなたの妄想をお話にすれば良いのです。ただそれだけなのです。」

またアナウンス!

俺の...妄想...。

美少女とデートしたりセックスしたりってことか?

そんなの書いてどうすんだよ!

いや、待てよ。それも書き方次第では小説になるんじゃないか?

よし!なんかやる気出てきたぞ!

とりあえず出てきた飯食うか!

でもこの飯食って平気か?毒とか薬物とか入ってるんじゃないのか?

ぐうぅぅぅ

...お腹すいたし食うか。いただきます。

おぉ!おいしいおいしい!

なんかパクチーみたいな風味があんな。

でもそれが独特で、この鶏肉の挽き肉を炒めたやつと合ってうめぇ!



ふ~、食った食った。

食器を戻して...

ガシャン

おお!食器が戻っていった!おもしれ~。

さて、小説を書くか。

俺の妄想...

黒髪ストレートの女子高校生が、駅で体調崩して、それを通りがかりの俺が助けて、女の子は俺のこと好きになっちゃって、付き合って、デートしたりキスしたりセックスしたりして、って、こんなつまらない話誰が読むんだよ。でも文字数満たして書けば内容は何でもいいんだろ?

とりあえず書くか。

えーと主人公と女の子の名前...名前考えるのって結構大変だな。

A男とA子にするか。

まずA男の職業は...俺と同じコンビニのアルバイトで...A子は高校生。

A子は駅で体調崩すんだよな...吐き気にしとくか。

それを通りがかった俺が助ける、と。

最初はA子に俺に対する不信感を持たせとくか。そりゃ、知らねえ男が突然話しかけてきたら誰だって怖くなるわ。

でもあまりにも優しいA男に、徐々に不信感は無くなり、吐き気も落ち着いてくるA子ちゃん。

別れ際に連絡先をA子が聞いて、二人は付き合うことに。

で、初デートだ。どこがいいかな~。やっぱり女の子だし、ショッピングモールとか?

ショッピングモールでお互いプレゼントしあうってのはどうだ?

うーん、何をプレゼントさせたらリアリティが出る?

てか俺、女の子と付き合ったことないからわかんねぇ~。

女の子がプレゼントするならハンカチとかか?男がプレゼントするならアクセサリーとかだろ。

じゃあA子にはA男にハンカチをプレゼントさせて、A男にはA子にネックレスをプレゼントさせよう。

ショッピングモールで二人とも手を繋ぎたくて、でも恥ずかしくて、そんなときA子の手がスルスルッと俺の指に絡んできて、ここで恋人繋ぎだ!

よし!ふぇーん、俺もこんなデートしてみたいよ~。

んんっ、切り替え切り替え。

で、キスか~。キスってどんな時にどんな風にするんだ?やっぱどっちの部屋か?それでそのままセックスすんのか?

俺の妄想、妄想を小説に...うーん。

まず、俺の部屋にA子が入ってくるA子は言う「ちょっと暑いね」と。

俺がクーラーの温度を下げようかというとA子は首を振って、服を脱ぎながらこちらに向かってくる。

それでキス!その流れでベッドにA子を押し倒し、セッセッセセセセックスってわけだ!

やべ、勃起した。小説書きながら勃起するとか。我ながら面白いな。

よし!ここまで書き終えたぞ!半分は残ってるな...。

どうする、どういう展開にする!?思い付かない!

そうだ!A子と結婚するのはどうだ!

結婚してからのストーリーをここに書くんだ!

まず、A子は子供を産む。それでA男はその子供にデレデレで、もう自分が産んだかのように可愛がるんだ。

A子とA男は喧嘩も少なく、子供も良い子で仲良く暮らす3人。

...流石の俺もわかる。この話はつまらん。なにかアクセント...。

うーん、嫌だが、子供が死ぬというのはどうだろう。

子供が死に、精神を病むA子。そこでA子を救う俺。

A子を休ませ、己は働き、子供を無くしたショックもあり、心も体もボロボロ。

A子を殺し、自殺する。

というわけだ。これならつまらなくない!多分!うん!多分!

文字数も越えたし、これなら良いだろう!

「よく頑張りましたね山川様。では、こちらの扉から出てください。」

うわっ扉が現れた!すげ~部屋。

よし!ようやく出られるぞ!何時間いたんだ?

とにかく待ってろ!俺のアルバイト人生!

ピカーーー!!!

くっまぶしっ!出るときってこんなまぶしいのか!

カシャッカシャッ

「山川さーん、こちらに目線くださーい。」

「山川さん、こちらにもー。」

え?は?なにここ。なにこのきらびやかな場所。

「山川さん、今回この小説で賞を受賞された感想をお聞かせください。」

「え?賞?何のことですか?」

「だから!山川さんの初めての小説『A子とA男』で大賞をとられた感想を!」

俺、は?なに?え?ん???

カシャッ

カシャッ

「えーと、ちょっと状況が理解できていないのですが、えーと、この小説は俺の妄想から産まれたもので、えっと、とにかく、自分には文才があったのかもな~なんてちょっと、はは、嬉しくなってます。

また小説書きたくなってきました。」
















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