第2話・ジュラ吉発情期……ついでに恐竜娘たちも発情期

朝礼が終わり、午前の授業が終わりジュラ学園は、お昼休みになった。

 早めの朝食を済ませて、陸上トラックを周回している陸上部の鳥脚類で走るのが早い『ヒプシロフォドン娘』たちを、屋上から眺めている光輝が呟く。

「ヒプシロフォドン娘の陸上部キャプテンは、走るのも早いけれど蹴りワザもスゴいんだって」

 光輝の近くに立っている、テリジノサウルス委員長が冷ややかな口調で言った。

「ふ~ん、光輝くんはああいう娘がタイプなんだ……ふ~ん」

「別にタイプってコトはないけれど」

「優柔不断」


 その時──工事用ヘルメットをかぶった小柄で無邪気な恐竜娘が、光輝に抱きついてきた。

「光輝ぃ、委員長となにやっているのぅ?」

 ジュラ村寺の住職の娘

パキケファサウルス娘の通称『パキ』だった、必殺ワザは強烈な頭突きだ。


 委員長がパキケファサウルス娘を、光輝から引き離す。 

「パキ、光輝くんから離れなさい……あなたは、少し光輝くんと距離が近すぎ」

「だって、未来のジュラ村長の光輝はまだ恐竜娘の誰を嫁にするのか決めてないから……あたしにだってチャンスはあるもん……光輝には、うちの寺を継いでもらって剃髪して、ツルツル坊主になってもらうんだもん」

 光輝の家系は、ジュラ村が異世界転移してきた時から、代々村長を務めている。

「光輝くんを巡っての、嫁アピールバトルをしているのは、あなただけじゃないんだからね……ジュラ村一番の野菜農家の娘、野菜ばっかり食べている大人しい草食イグアノドン娘の『イグ』でさえ、手製の木製棍棒を持って登校するようになったんだから」


 そこに、おっとりとした雰囲気で首にトゲを生やした恐竜娘──村に一件だけある写真館を兼用する時計修理店の娘、アマンガサウルス娘の『アマン』が。

「おやおや、みなさん賑やかなコトで」と、やって来た。

 アマンは、中国武器の縄鏢じょうひょうみたいな、忍具のクナイに縄をつけたような武器を扱う。


 委員長が放送委員をしているアマンに訊ねる。 

「なんの用?」

「たいした用事じゃないんですけれど……放送機器の電力が安定しないから、直接伝えた方がいいと思いまして」

 ジュラ村は、ジュラ吉から発生する生体電流を取り出して増幅して使っている。

 ちなみに、軽トラックや農耕機の動力の油も、ジュラ吉の甲羅に亀裂を作って、そこから染み出してくる油分を精製して利用している。


「ジュラ吉の、生体電流の流れが不安定になって

いて……生物部の話しだと、ジュラ吉は年に一度の発情期に突入したみたいで……あらあら、若くて元気なカメさんですわ」


 赤面する委員長。

「は、発情期ぃ! それじゃあ、また例のアレが!」

「あらあら……ジュラ吉が移動している大地の前方に、メスの巨大陸ガメを発見してメスに向かって接近中ですわ……今夜、遅くか明日の明け方には最接近して合体……生徒には学園町から帰宅指示が……では他の生徒にも伝えないといけないので」


 アマンが、光輝たちの前から去り、屋上でいつも睨み合っている。

 洋服仕立て屋の洋品店の娘で、三叉槍さんさそうを持った『トリケラトプス娘』と。

 村内でジビエ肉を加工販売している肉屋の娘で、プロレス好きな『ティラノサウルス娘』のところに歩いていくのを眺める光輝たちの耳に。

 どこからか、ピアノの演奏に合わせて歌う、合唱部の『パラサウロロフス娘』たちの歌声が聞こえてきた。



 その夜──ジュラ吉は、土砂山だけが背中に乗っていて誰も住んでいない、メスの巨大陸ガメの背に背後から乗っかって交尾をはじめた。

 ジュラ村は、ジュラ吉が転倒しない限り平行を保つようになっている。


 微弱な規則性のある揺れがジュラ村に広がる。

 ジュラ村の家の中で、今は使われていない、天井から下がっている裸電球の揺れを見上げながら、お茶をすする老夫婦が言った。

「おじいさん、元気ですねジュラ吉は……若いっていいですね。あたしの方まで体が火照ってきましたよ」

「そうさのぅ……久しぶりに、儂もたぎってきたわい……思い出すのう、ばあさんとの、若さゆえの過ちを」


 ジュラ吉の発情は村人にも影響を与える、ジュラ村全体が発情する……恐竜娘たちも同様に、その結果……光輝に対する嫁アピールも激しくなる。


 昼休みに屋上にいた、光輝、委員長、パキ娘のところにやって来た。

 顔を桜色に染めた、古武術のはかま姿で薙刀なぎなたを持った、駐在所巡査を兼任する消防団長を父に持つ恐竜娘。

 背中に帆ヒレが生えた『スピノサウルス娘』が一礼してから、パキに向かって言った。

「パキケファサウルスさん、すみませんが発情してしまったので……光輝さまに嫁アピールをするための、お手合わせ願えませんか」

 サンドウィッチを食べ終わったパキが言った。

「うん、いいよ……頭突きで吹っ飛ばしちゃうよ」

 パキケファサウルス娘と、スピノサウルス娘の嫁アピール戦がはじまった。


 少し離れた場所では、

ゴム製のサバイバルナイフを持った『ヴェロキラプトル娘』たちが、人間の女子生徒を集団で襲って、光輝に自己アピールしていた。


「光輝くん……なんか、あたしの体も変」

 テリジノサウルスの委員長も、鋭い爪の腕で自分の体を抱き締め震えながら、必死に欲情している自分の体を抑えている。


 ジュラ吉の発情とシンクロ同調してしまい、少し変になっている委員長に光輝が言った。

「ジュラ吉の交尾は三日間は続くからね……委員長も体調が悪くなったらムリしないで」

「こ、こ、こ、交尾? あたしの足の下で交尾が行われている……交尾ぃ、あははははっ」

 真面目な委員長の両目が虚ろになる。

 光輝は、委員長の手を握ると。

「しかたがないなぁ……ちょっと、こっちに来て」


 そう言って、委員長を屋上にある、人目が無い給水室の後ろに連れていくと。

 委員長を抱き締めて、いきなりキスをした。

 驚くテリジノサウルス の委員長。

(???)

 唇が離れると、茫然としている委員長の唇の端から、薄い黄色をした粘り気のある液体が滴る。

 得体の知れない液体を、口から口に注ぎ込んだ光輝が言った。

「どう? 少しは落ち着いた? 糖質は少ないけれど栄養価は高いよ」

 唇から垂れた濃厚な薄黄色の液体を、指先で拭って震えながら眺める委員長。


「今、あたしに何をしたの……何を口移しで出したの……まさか、これって例の? ハトが子育てする時に口から出すっていう」

「『ピジョンミルク』……三日前から急に出せるようになった、ジュラ吉が発情期に突入した影響かな?」


 その時、パキケファサウルス娘のパキと、パキと戦っていたスピノサウルス娘の『スピノ』が、ひょいと給水室の裏側にいる、光輝と委員長を指差して言った。


「あーっ、姿が見えないと思ったら。二人で変なコトしている、いいな、いいな」

「光輝さま、ちゃんとあたしの嫁アピールを見ていてくださいよ……あたしにも、濃厚なピジョンミルクを飲ませてください」

「パキにも、飲ませて」


 苦笑しながら、呟く光輝。

「今日のピジョンミルクは、委員長に飲ませた分で終わり。また、明日」

「え────っ」


 ジュラ村の光輝に対する恐竜娘たちの嫁アピールは、まだまだ続きそうであった。


第ニ新大陸・大亀の背に乗るジュラ村【村立ジュラ学園】〔完〕

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第二新大陸〔異界大陸国レザリムス〕 楠本恵士 @67853-_-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ