第二新大陸〔異界大陸国レザリムス〕

楠本恵士

第ニ新大陸──大亀の背に乗るジュラ村【村立ジュラ学園 】

第1話・男の娘の嫁志願たちは、空気を読まない恐竜娘!

 異界大陸国レザリムス第ニ新大陸──巨大な一枚岩が大地に露出した、超巨大な陸ガメが徘徊する世界。


 地響きを轟かせて歩いていた巨大陸ガメは、ビルほどの高さがある、サボテンにくらいつく。


 海から上陸してそのまま進化した、陸ガメの手足には、まだヒレの形が残っている。

 移動生活をしている陸ガメの背中には、都市や町や村が土ごと乗っているカメもいて。

【ジュラ村】が乗っている陸ガメも、その一つだった。


 ジュラ村に住む女生徒の制服を着た男の……『ジュラ・光輝』は、階段坂の村道を『村立ジュラ学園』に向かって走り下りる。


 鎮守の森を過ぎて、空き地に放置されたままになっている、今はもう動かない戦闘機ゼロ戦の前を通りすぎた光輝は、道端に実っていたバナナを一本走りながら、もぎ取り食べる。


 タータンチェックのスカート、緑色の上着、エンジ色のリボンネクタイ。

 背中には、ひいひいおじいちゃんが戦時中に乗っていた戦闘機のプロペラを縛って作った、十字型の銀色のブーメランを背負い。

 片方の肩から斜めにかけた、学園指定の小さなボディバックをかけている。


 光輝の体には、尾骨から鳥の飾り羽根が生えていて、肘から脇にかけては短い羽毛が生えている。

 さらにかかと近くにも数本の羽毛が生えていた。

 光輝は恐竜を擬人化させたような姿の、男の娘だった。 


 十メートル程の水路の側溝を飛び越えた光輝に、近くで農作業をしていた村人が言った。

「おはよう、今日も元気だね……嫁選びはまだ続いているのかい?」

「一人に決め兼ねていて」

「そうかい、未来の村長候補も大変だな」


 学園に近づくに連れて、歩いている恐竜娘の女子生徒の姿も増えてきて、光輝は走るのをやめて歩きはじめた。

 女子生徒の大半は、恐竜の尻尾を生やした『オルニトレステス娘』だった。

 ジュラ村に男児である光輝が生まれたのは、珍しいコトだった。

 学園にいる男子生徒は光輝一人だけで、男子生徒の制服が間に合わなかったので、女子生徒の制服が支給され光輝は、そのまま着用を続けて本人も、それほど悪い気はしていない。


 光輝は前方を歩いている、見覚えがある女子生徒を発見して近づいて軽く肩を叩く。

「委員長、おはよう」

 気安く肩を叩かれたインテリ眼鏡のテリジノサウルス娘の委員長は、突出させた鋭い爪を、光輝の喉元に当てる。

「おはよう、光輝くん……何度言ったらわかるんですか、あたしは無防備な肩とか背中を、背後から触られるのが嫌なんです……と」

「ごめん、委員長……つい忘れていた」


 そう言いながら、光輝は委員長の背中に腕を回してツゥーッと指先でなぞる。

 のけ反って、変な声を出す委員長。

「ひゃあぁ」

 しゃがみ込んで背中を丸めて、爪の腕で自分の体を抱き締めて震えるテリジノサウルス委員長。

 光輝が、少し楽しんでいるような口調で言った。

「委員長って、背中が弱点なんだ」

 桜色に顔を染める委員長。

「ワザとでしょう! 今ワザと触ったでしょう!」

「だって、委員長って抱き締めたら、折れそうなくらい腰が細いんだから」

「なななななななっ、あたしを抱き締める?」

 真面目そうな外見とはギャップのある、意外と照れ屋な委員長であった。


 通学路の真ん中で、光輝と委員長が、そんなやり取りをしていると。

 盾を持った、ヨロイ竜の『アンキロサウルス娘』が控え目な口調で言った。

「あのぅ、通学路の真ん中で漫才されると、他の方の通学の邪魔なんですけれど……それに今朝は、学園の校庭で学園長の、朝礼がある日ですよ」


 朝礼と聞いて驚く、光輝と委員長。

「朝礼って明日じゃ?」

「学園長の都合で、一日早くなったんですよ……なんでも、今年はジュラ村で使っている太陰歴で一年が十三ヶ月ある年で、調べてみたら学園長の運勢が明日は最悪の日になると気づいて、急遽きゅうきょ


「また、学園長の都合? この間なんていきなり明日、三回目の運動会やるなんて言い出すし運勢を気にしすぎて、生徒を巻き込みすぎ」

 光輝と委員長は、慌てて村立の学園に向かった。


 小一時間語──校庭の隅に壊れた漁船や錆びて植物のつるに覆われた戦車や重機が放置されている【村立ジュラ学園】の校庭。

 村立と言っても、元々は四階建てコンクリートの建物を、再利用しているので破損している箇所もあるが立派な学校だ。


 その校庭に整列する生徒は、全員が女子生徒で八割が恐竜娘、残りが人間の女子生徒だった。

 男子は、光輝ただ一人。


 朝礼台に上がったアーケオプテリクス 始祖鳥を擬人化させたような、女性学園長がしゃべりはじめる。

「このジュラ村の成り立ちは、他の陸ガメ背中に乗っている市町村同様に、奇異な現象で」

 学園長が毎回朝礼で、繰り返し話す村の歴史に生徒たちは「また、その話し」といった顔をする。


「元々、ジュラ村はアチの世界〔現世界〕にあった村でした……それが、世界的な兵器実験の影響を受けて転移して第ニ新大陸の、巨大陸ガメの背中に乗ってしまい……」


 ジュラ村があったアチの世界で行われた『テスラ科学兵器実験』が、各地の磁場に影響を与える。コチの世界〔異世界〕の大ガメの背中に村ごと移動してしまった。

 その時、同時に戦時中の兵器や人間も時空を飛び越えて、ジュラ村と一緒に異世界転移した。


「最初は、戸惑っていた村人も次第に現実を受け入れて、自分たちが乗っている巨大陸ガメを『ジェラ吉』と名づけて生活をはじめました」


 やがて、ジュラ村で生まれてくる人間の中から。恐竜を擬人化させたような人間が生まれはじめた、最初は男女比が平均して生まれていたが……。


「恐竜擬人化人間がなぜ、生まれはじめたのかの原因は不明です……そして数年前から、恐竜擬人化人間は女子しか生まれなくなりました。

この原因も不明です……この数年で生まれた男子は一人だけ」


 女子生徒たちの視線が光輝に集まる。

 学園長は最後に、よけいな一言をつけ加えた。

「みなさん、光輝くんの心をつかむ、お嫁さんバトル頑張ってください」

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