第278話 悪意 の 噴出
「おめでとうございます。リヴァイアスの慶事ですな」
「…………」
試験監督の人がなんか言ってるが微妙すぎる。そこ光るのか。
前世だったら髪が光ってると言われると嬉しかったよ。髪にこだわる妹推薦のシャンプーとコンディショナーとリンス使って髪が艶めいて「天使の輪出来てる」なんて言われて凄い嬉しかったよ……。
だけどこれはビカビカ光ってるし、アホ毛発生で髪が無くなる可能性を思い出して―――――……またハゲてしまう可能性を思い出してしまって、精神がゴリゴリ削られてしまう。
なんか周りからお祝いとか言われた気もするが何をしたか覚えてない。シャルルからもお祝いがされると通達があったが知ったことではない。アホ毛以外がもしも失くなったら…………絶対リヴァイアスに帰る。即刻帰って引きこもってかつら作ってもらう。
まだ適性検査や試験もある予定だったが精霊からの恩寵ということで水の宮に戻ってベッドで寝る。以前もアホ毛が出来たときにはよく寝たし、いきなり体調が変わる可能性もあるもんね。
うん、もう寝る。だけど夜になってもなぜか暗くならない。
――――――――スイッチどこよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝起きると光は消えていた。
試験抜けちゃったなーとか頭をよぎったがなんか試験全てが停止してるらしい。
まだ試験の項目はたくさんあるが……試験の採点が間に合っていないから時間を作りたいそうだ。え?私のお祝いもあるからって?シャルルが止めた?私の髪がなくなってたら絶対に参加しなかったけどね。
そして筆記試験や実技試験と違って採点のゆるい「掃除」をすることになった。
「この部屋の清掃をするように。おい、門を開けろ」
「へい」
私を憎々しげに見てくる娘がいる。そんな令嬢と一緒のグループで掃除することになった。エール先生たちはいない。
貴族とはいえ掃除ぐらいする。
貴族でも精霊教の神殿の雑草引きを自ら行うこともある。特に精霊を奉る祭壇の掃除なんかは特別で名誉ある仕事と見られ、その土地の精霊と契約しているような高位貴族が率先して行う。
同じく王家に嫁入りした人間は王の寝所や王の私物、更には国にとって重要な魔導具の管理や掃除を仕事としてすることもあるそうだ。
本来であれば王家の人間にしか任せられない掃除の仕事だが――――政争によって王家の人間自体が減ったし、王家に養子に入ったディア様も他家に嫁いだため決まりから掃除してはいけなかった…………そのため、後回しと言うか、ずっと封印されている部屋がいくつもあるそうだ。
鍵のかかった特別な宝物庫はずっと締め切られたままだった。だが、この際だから「王家に嫁入りする人間を試すためなら」と理由をつけて掃除することになった。説明を受けたときはありがたがっている子もいたが……仕事を押し付けられただけな気もする。
王宮の中には掃除しないといけない場所も多くあるためいくつものグループにも別れて掃除をする。まとめてやると採点しにくいのかもしれない。
いくつも重厚な鋼鉄の扉の並ぶ通路。その黒光りする扉の一つ一つに多彩な装飾がされていて何箇所にも鍵穴がある。そのロックの解除には手順があるのか専門の人間が説明書を読みながら扉の様々な箇所に触れていく。
しばらくすると鈍くギギギと金属が錆びた音がしてやっと扉が開いた。
「ゴホッ、これは、強烈ですな。小官は失礼します」
鍵を開ける専門の人は開けた瞬間の埃を吸ってしまったらしく、ゴホゴホと咳き込んでいなくなってしまった。
中はとてつもなく埃っぽい。奥までは学生向けアパートぐらいしか無い。様々な美術品や魔導具が壁一面の棚に並んでいる。中央の机には高価そうな壺やよくわからない魔導具がある。
「おぉ!……こほん、なんでもない」
騎士の一人が何かを手にとって目を輝かせた。なにか特別なものとかかもしれない。
掃除をするだけだが……真ん中の壺とか美術品とか国宝っぽいし触りたくない。中央の掃除に集中すれば周りの令嬢が「おっと失礼」とぶつかってきたりしてガシャーンってしそう。いや、物が壊れるのは問題ないかもしれないが、派閥のトップのためにドスぐりぃ!!してくる可能性が怖い。武装解除はされてるはずだけど。
まぁ騎士が三人もいるし、私には杖がある。彼女らは武装解除されている。直接叩かれたりする範囲にいなければ何の危険もないはず。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
無言で部屋の掃除をしていく。部屋の奥の棚も汚れが目立ったので率先して掃除していく。
心配のし過ぎだろうか?グループを集められたときに聞いたが全員別の派閥の人間である。…………これも「別の派閥の人間に寛容か」とか見られているのだろうか?ジュリオンが別の派閥の人に威圧してないといいけど。
大事そうな部屋の中央の壺とかは彼女らに任せて私は部屋の奥の棚から掃除する。
集められたときは誰も何も話さなかったし問題なさそうだったが……何かコソコソ話しているようだ。私が彼女らを見ると目を逸らされる。
感じが悪いがシャルルの近衛騎士が三人も横で待機してるし大丈夫だろう。
他のグループでは一人か二人の騎士なのに私の近くはいつも三人から五人はいる。今日は少ないほうだが……なんだろう、フリムちゃんを相当な危険人物に貴族たちは思っているのかもしれない。
「これ運ぶの手伝ってくださいー」
後ろで片付けていた令嬢の一人が騎士に声をかけた。
汚れたよくわからない大玉のスイカのような工芸品に見えるが高級家具の猫足のような支えがいくつもあって机との間には汚れが溜まっている。結構な重さもありそうだ。
「仕方ないか……わかった。どうすれば良い?」
「一度外で汚れを落とそうと思います。これ自体も大分汚れていますし」
「では運ぼう。ここは任せるがいいか?」
「あぁ」
埃の積もったそれを外に運ぶ騎士の一人、それについて行った令嬢二人。
掃除に集中したいところだが、彼女らの態度がちょっと不安。
一応襲われないようにできるだけ視界に収めたり警戒はしているのだが彼女らがこちらを見つつ何かを話している。内容は聞こえない……風の属性なのかな?杖なしでも会話を聞かれないように散らすことはできるはず。
残った令嬢二人がこちらを見てニヤリとした後に持っていた壺を振りかざし、壺を叩き割った。
「いたっ!?ちょっと!」
「ごめんごめん、でもこれもフレーミスのせいにすればいいわよ!兄さんやっちゃって、私たちはゆっくり水汲みに行ってくるからその間に!」
壺は横にいた令嬢に破片が当たったらしい。それより……何事だろう、これは?兄と呼ばれた騎士が部屋に入ってきて、令嬢たちはその後ろに回った。
――――まさか、騎士が敵に回るなんて……。
「おう、だが、ちょっと遊んでもいいか?」
「趣味が悪いわよ兄さん……だから婚期を逃すのよ」
「うるせー!さっさと行けって!」
「はぁい。まぁそれもありか――――ふふ、行きましょ」
令嬢たちは部屋を出ていって大きな扉が閉められた。
ガチャガチャと大きな音がして、鋼鉄製の門の――――厳重なロックがされていくのがわかる。
いやらしい視線を向けてくる騎士が一人、部屋に入ってきた騎士が一人。三人いたうちのもう一人は物を運んで出ていった。
この狭い部屋に、私含めて三人。それも私に敵対する戦闘のプロが二人…………。
「な、何をする気ですか?」
相手は完全武装。それも戦闘のプロだ。
それにここには逃げ場も、頼れる仲間もいない。息が詰まる。
「あぁ、俺が手籠めにする。うまくいきゃあ俺がリヴァイアス侯爵だ」
「……させませんよ?」
舐めるように見つめられて気持ち悪い。――――そして状況が悪い。
「趣味が悪いぞ?」
展示されていた四角い立方体の工芸品らしきものと手のひらサイズの小さな鳥の模型を手に取った騎士が声をかけた。こちらの騎士は積極的に襲ってくるわけじゃない……のかな?
「黙ってろ!」
「はいはい。これも予定通りではあるか……しばらくは誰も来ないはずだが、あまり時間をかけるなよ?」
ニヤつく男がこちらから目を離さずもう一人の騎士と話している。
「もちろんだ、すぐ済む!」
これは……計画的か?わからないが、息がしにくい。
壺が置かれていた机を挟んで……男を睨みつける。
「わかってるとは思うが俺は目撃者として証言するだけだ」
「それで良い!そこで待ってろ!!」
よだれを垂らさんばかりの騎士。私を見るその視線から情欲が見て取れる。
幼女趣味の変態かこいつ。
「――――――…………抵抗するならここで事故死よ!」
【書籍化決定✨】水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? mono-zo @mono-zo
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