第277話 謎 の 光


まともな問題はみな解けるのが楽しいのだろう。重苦しい空気が少しマシになった気がする。


しかし、それも僅かな間だった。……問題の出題者もこりてないのか科目が終わるごとに新たに追加される問題に酷い出題が復活した。


落ち着いたところにまた酷い問題が来るものだからたまに令嬢も令息も試験中にブチギレて帰る人までいる始末。案を出したのは私のはずだが……過去の悪役令嬢フリムちゃんがふはははって高笑いしてる気がする……はぁ。



「これは婚約者や婚姻の見合いのための試験なのに不倫の指南が書かれているのはよろしく無い。問題から削れ」


「エンカテイナー学園長、確認させてもらっても?」


「うむ、その間儂は休憩させてもらおう」


「わかった。その手に持っているものは何だ?」


「ちょっと色のついた水だ。気にするでない」



私と話すよりも数段偉そうなフィレーが堂々と酒を持って退室した。呑みたかったのかもしれない。


試験監督が途中で冊子を配ったのだが冊子の大半が「不倫の賢いやり方」とか「奴隷の値切り方」「上位貴族に睨まれたと思ったときの素早い謝罪方法」とかあまりにもな内容である。


問題の要点は多分『問題発生時における相談先が「王宮」「王」「大臣」「担当部署」「派閥の当主」などの何処であるか?また戦力をどこに移動するか?』というもののはず。……うん、冊子がほぼ日記だから色んな意味で大変よろしくない。問題を作るのは紙も印刷も大変だと思うのだが印刷はそんなに簡単なのだろうか?


まともな問題が多くなったのに、新たな科目の問題にはまた「いい加減にしろ!」と言いたくもなるような問題がでてくる。誰かを告発するような疲労させて思考力を鈍らせて書かせようという考えなのだろうか?前よりはマシになったが……ストレステストの続きかもしれない。誰だこんな提案したのは?………………私だけど。



「もうやだぁ」

「精霊よ、なぜこんな苦難を」

「何なんだよこの問題!クソがっ!!<火よ!燃やしつくゴッ……」


「またか、さっさと運ぶぞ」



あらかじめ知っている私でもげんなりしてるのだ。周りの反応は当然といってもいいだろう。机にベッタリと突っ伏したりする姿も見えてきた。また一人制圧されて連れて行かれたのを遠目に見る。杖なしでも魔法使える貴族も多いしね……。


会場を見渡してみるとポヨ令嬢は堂々と寝てるし、リュビリーナさんは私と目があって目をそらすし、セルティーさんは……取り巻きで見れないな。ラズリーさんは研究器具と薬品を何処かから持ち出して連れ出されたのでいない。エルストラさんは相変わらずの無表情である。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





数日もすれば筆記問題も終わって次の段階に進めた。


ここからは体力測定や礼儀作法、魔法の強さや性格の診断…………それに詩や刺繍などもする。個人の能力を調べるものだが、順番が違う気がする。


しかし、なんとなく理解する。会場を見ると最初期に比べると少し人が減った。


筆記試験の途中で出ていったり魔法を使う人もいた。試験の場にいたが全く参加しない人もいた。途中で婚姻が決まっていなくなったものもいる。


篩にかけられていくことから参加者は徐々に減っていく。あの酷すぎる問題は先に不正をあぶり出すことを優先したのだろう。何の役にも絶たない問題もあったのは思考力を低下させる目的があったはず……後にまともな問題がほとんどだった中にもそういった問題があったのもなにか意味があるはず。


不正問題だけは答えないような人材もいるから?いや、不正に関与する家なら答えられない問題もあるはずだから書いても書かなくてもあぶり出そうとしている?


問題を考えたのは……やはり、レージリア宰相辺りだろうか?レージリア宰相は一緒に仕事をすることもないし筋肉の印象が強すぎるが……『宰相』の座に居続けられているということはそれだけの能力があると推測できる。普通に考えたら「将軍」とか「切り込み隊長」のほうが適性があるはずだもんね。



「……体力は子どもだな」

「転ければいいのに」

「おい、やめとけってほら」

「行くぞ」


「リヴァイアス侯は体を動かす項目はよろしくないな。ヴェルダース兄弟のようには馬鹿な真似はしィッ?!――――ゴホン、年相応だ……です、ね」


「はぁ……はぁ…………まぁ、そうですね」



杖を使わない体力の測定はボロボロだ。聞こえる陰口が聞こえてきたが試験監督の人が話しかけてきた。素直に採点がよくないのはわかっているが、横で息を切らしている私に向かってなにか言いそうになったところに補助の人に靴を踏みつけられて言い直した。


年齢から伯父上たちの知り合いなのだろうか?多分参加者の陰口から助けてくれたことはわかるし何も言うまい。


体を動かす項目は年齢的な面もあってどうしようもない。


しかし、目立っている。会場全体でものすごーく目立っている。なぜなら他の人と違って浮いている杖がついてくるからである。不得意な分野でそういう注目はいらないのだが。


私の「うまく出来ない部分」を他の派閥の人は嘲っている。特にリュビリーナさんのいる辺りからはチラチラこちらを見ての高笑いすら聞こえる。


感じ悪いなぁと思っていたのだがミリーが爆速で移動して空気を変えてくれた。



「見てた?私多分一番速いよ!」


「凄いですよミリー!」


「……へへっ!ありがとうっ!!」



褒めると何故か男の子のように照れたミリー。本来魔法無しの測定だが自然に使える分には問題ないようだ。他にも魔力で身体強化できている人もいるがミリーの爆速は桁が違う。


ミリーは光の属性持ちとなって学園に入学した。その適性から将来光の治癒魔法が使えるように求められていて練習もしているようだが……体を動かすほうが明らかに成果が出ている。


続いてエール先生やイリアも、こう、走り方がかっこいい。そして速い。ほぼ警備目的で参加しているジュリオンも速いが……ちょっと怖い。質量もあるから多分建物にぶつかったら建物ごと破壊できる。


走ったり重いものを持ち上げたりする項目は全然だった。


しかし次の「土の柱に向かって武器を使って攻撃する」といった試験項目では大半は短剣でドスぐりぃっ!!だがうちの人間はちょっと異色だった。


ジュリオンは素手で殴り壊した。



「どうです!?」


「派手ですね。手は大丈夫ですか?」


「問題ありません!ふふん!」



ジュリオンを褒めるとジュリオンはドヤ顔でうちの人間を見渡した。


体力測定で上位グループだった人から順に行ったのだがミリーは大剣でぶった切った。



「どう!?」


「凄い!」


「でしょー!」



あれ?なんか対抗心燃やしてる?



「むっ……では私も」



エール先生はムチを当てて当たった部分がどんどん削れた。イリアは人の形を穂先で描いて頭に向かって槍を投げ刺した。ミキキシカはすぐに柱が直される前に矢で目の位置を射抜いた。


一人一人が破壊に対してちらっと私を見てくるので私は褒めるマシーンになっていた。凄いよ。うん、私には出来ないことばかりである。


別の柱を攻撃している男性陣を見るとローガンがヒーローになっていた。雷を体に纏ってド派手にメイスで柱を殴っていた。高身長かつ肉付きも良くなったトルニーは体に巻いていた黒いゴム包帯と石を合体して分銅のようにぶん回して……よくわからないが破壊力抜群に土の柱を爆散させていた。皆終わるたびにこっち見て頭を下げるので微妙な気分である。モーモスは別のグループなのか見当たらない。もう終わったのかも?


しかし……優雅な作法でナイフを使う人も多い中、うちの人間に貴族的優雅さはなかった。


ドスグリを披露してくれたリーズに聞くと優雅さも見られている事を考えたそうだ。基本的に魔法は無しの試験だがミリーやローガンを見るに詠唱なしの身体強化はありっぽい。しかし……うーん、水をまとって殴りつけるのは流石に反則だろうし、周りに習ってドスグリを行った。いや、グリッは出来なかった、ちょっと手首を痛めた。


……あれ?伯父上がブルドーザーみたいに突進してきた時、頑丈になってたのも水の魔法なら私もできるのかも?



「ちょっと離れて魔法の練習してきますね!良いでしょうか?」


「あ?あぁ、好きにすると良い」



近くにいた監視……じゃない。護衛の騎士の人に許可を取って少しひらけた場所に行く。騎士はシャルル配下のエリートで毎日違う人が担当する。今日の担当さんは疲れているのかやる気がなさそうだ。


国中から集められたお見合い参加者は結構な数がいるし試験ごとに無意味な時間がある。他にも身体強化を使って練習している人もいるし、どうせなので魔法の練習でもしよう。



「<ルカリム。出来る?>」


「…………」



ルカリムはよくわかっていなさそうだ。


自分の番は終わったし少し離れてひらけた会場の隅で練習する。


というかあれって魔法なのかな?伯父上みたいに体が光って頑丈になるような水の魔法は聞いたことがない。



「えーと、体を強化できます?」


「…………」



ルカリムはこちらを覗き込んでくるだけ。伝わってるのかな?


土の柱もないし、杖を振ってみる。もともと浮いているし軽いが力が強くなれば振るのも速くなるだろう。


身体強化は属性関係なく適性があれば使える人もいる。違いは「魔力の操作の差」や「肉体の資質が関係ある」なんて説もある。


ただ魔力が関係しているのは推察できる。


賭場の宝物部屋の引き戸は超重量の岩製だったが……あれを動かせる人間は限られている。用心深い親分さんの部屋には護衛が何人もいたが、隣に宝物部屋があるのに部下の人たちは裏切って金を持ち逃げしようとはしなかった。きっと魔法を使える人もいなかったから何人でも出来ないのだろう。


魔力を使える人は常人以上の身体能力を持つ人がいる。更にミリーなんて目で追えないようなスピードを出せる。


そう言えば今日は見ていないがクラルス先生も石を握り砕いていた。クラルス先生の属性は詳しくは知らないが、その父であるレージリア宰相は光と樹が関係していて長命かつ筋肉の化身のようになれる。



――――……つまり『純粋な魔力ほど、身体強化に役立つ』そう推察できる。



全身に魔力を漲らせて両手で長い杖を振る。


伯父上のような防御力や力が使えているかはよくわからない。伯父上の記憶では何か必ず詠唱していた。


……出来てるかわからないな。身体強化を私が使えるなら出来ることも増えるし命の危険は格段に減るはず。だけど出来てるかわからないな、これ。


大きな杖だし両手を使い、全身で縦に振るう。一振りずつ、魔力を全身に染み渡らせるようにしたり、放出するように動かしながら集中して。



「リ、リヴァイアス侯爵?な、なんで」



そもそも魔力をみなぎらせれば使えるものなのか?私に資質があるのか?ルカリムがなにかすれば使えるのか?


ん?なんか試験監督さんの声が聞こえたような?


頭上に杖を持ち上げた状態で声の方を見る。



「なんで、その、光ってるのでしょうか?」


「えっ?―――――――…………何なのこれっ!!いったぁっ?!」



試験監督さんの視線の方向は私よりも少し上を見ていた。


力任せに杖を振って魔力の操作を誤った。ドスグリで軽く痛めていた手首が更に痛くなった。



真面目に練習してたのに、筋力に効果はなかったのに……頭上のアホ毛がなんか光ってた。


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