毎日小説No.35 双子星
五月雨前線
1話完結
双子の宇宙飛行士が誕生したのは、今から5年前のことだった。
世界初の双子の宇宙飛行士、しかも両方イケメン、ということで二人は注目を浴びた。双子は宇宙飛行士として確かな実力を有しており、二人で様々な任務をどんどんこなしていった。
宇宙飛行士デビューから5年が経ち、日本一の宇宙飛行士として名を馳せていた二人の元に、ある星の調査依頼が舞い込んできた。
殆ど同じ外見の恒星二つが、回転しながら軌道運動をして引かれあっている星、通称『双子星』。その星の調査を依頼された2人は、早速宇宙船に乗り込んでその星に向かった。
特殊なガスか何かによって望遠鏡による観察が妨害され、謎に包まれていた双子星。ぶあつい雲を抜けて星の地表に辿り着いた二人は、眼前に地球とほぼ変わらない光景が広がっていることに愕然とした。分厚い雲に覆われているために気付かなかったが、こんなにも美しい星だったとは。
生命体の存在を確認するべく星の表面に降り立った2人の前に、スライム上の奇妙な物体が出現した。その物体は光を発しながら変形したかと思うと、なんと2人と全く同じ宇宙服を纏った人型の存在に変身してしまった。
驚く2人の前で、新たに現れた物体が変形して姿がコピーされ、また新たに物体が現れてコピーされ……という奇怪な現象が続いた結果、2人の見た目にそっくりな物体が何百、何千と目の前に並ぶ異常事態になってしまった。
双子の内の兄の方が事態を危惧し、弟を連れて一度星から脱出しようとしたその時。弟の姿が無いことに気づいた。
どこだ? どこに行った? まさか、あの謎の物体の中に紛れ込んでしまったのか……? 全く同じ宇宙服がずらりと並んでひしめき合っているため、いくら双子といえど片割れを探すのは容易ではなかった。混乱する兄は物体に囲まれ、物体に少しずつ体を溶かされていき、やがて絶命した。
宇宙飛行士の外見をした物体は、やがて双子が乗ってきた宇宙船に視線を移した。そして物体は宇宙船に乗り込むと、そのまま地球へと向かったのであった……。
***
かつて地球という名で呼ばれていたその恒星は、今や『双子星』という名前で呼ばれている。しかし、普通の双子星の様に二つの恒星が引かれあっているわけではない。地球は一つの恒星ながら、『双子星』と呼ばれているのである。
生命に富んでいた過去の地球は消滅し、今や地球上はたった一種類の生命体に占拠されてしまっている。
生命体には当初名前はなかった。しかし、地球から旅立った双子の宇宙飛行士と物体が遭遇し、物体がコピー能力を用いて双子を殺害、さらに宇宙船を乗っ取って地球に移動しコピー能力によって地球上の侵略を開始、400年程で人類の淘汰に成功……、という悲惨な歴史から生命体には『双子』という渾名がつけられ、『双子』に支配された地球は『双子星』として恐れられているというわけだ。
『双子』の仲間は今でも宇宙空間を浮遊していて、気ままに星を滅ぼしているらしい。くわばらくわばら。
……おっと。くわばらなんて言っている内に、どうやら我が星にも『双子』が侵略してきたようだ。時折姿を変形させながら、宇宙服の大群が街を侵略していく様子は見ていて寒気がしてくる。
私はこの星の宇宙防衛隊の一員なのだが、正直命を賭けて星のために戦うつもりは毛頭無い。何故なら命が惜しいからだ。恐らくこの星はあと1ヶ月程で『双子』に支配されてしまうだろう。その前にとっととこの星から退散しよう。逃げるが勝ちだ。
……! 目の前にいるのは……私だ。いや、違う、私のコピーだ。ここはメガロポリスの上層に位置する超高層ビルだぞ? まさかこんなにも早く『双子』が侵攻してくるとは……。落ち着け、私なら逃げ切れる。まずは退路の確保を
血飛沫で所々が赤く染まった日記は、ここで途絶えている。
完
毎日小説No.35 双子星 五月雨前線 @am3160
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