【1-26】 開戦

【第1章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801

【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249

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 ヴァーガル河の下流では、帝国軍後詰とヴァナヘイム軍最左翼が河を挟んで対陣していた。


【11月8日5時】ヴァーガル河の戦い 地図④

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330669249829133



 睨みあうこと3度目の夜明けを迎えようとした時である。


 11月10日早朝、両軍の砲弾交換が遂に始まった。


 前夜から急激に気温が落ち、この日は未明から川面からもやがたちはじめていた。次第に靄はきりへと変わっていく。


 帝国・ブレギア双方の奏でる爆音は、白霧と黒煙とに包まれていった。


 対岸の帝国陣から霧越しにチカチカと光がまたたいた途端、轟音に次いで砲弾が乳白色のとばりを突き破り飛来する。


 ブレギア軍最左翼・ブイク、ナトフランタル両将軍の部隊は、合わせても5,000に過ぎない。10倍以上の帝国軍を相手にしては、当然のことながら火力において撃ち負かされていく。



 ブレギア軍の砲声が厚みを失うと、帝国側はただちに渡河に移りはじめる。こぶねいかだと思わしきおびただしい影が、一斉に進水していく。


 鮮やかな帝国軍の動きを前に、ブレギアの宿将たちは舌を巻いた。


 感心ばかりしておれぬと、ブレギア歩兵は迎撃する。河岸の土手向こうで腹這いになって河中に向けて小銃を次々と発砲していく。ところが射撃を繰り返すも、霧のなかのため手ごたえを得られない。



 一方、帝国兵も必死だった。


 霧の合間から銃弾が数多飛来するなか、歯を食いしばり筏を対岸へ進めていく。


 帝国軍といえども、この戦場に小型の動力は持ち合わせていない。筏を操るのは数本の竿さおのみであった。


「どこに向かっているんだッ」

 不器用なのものは、たちまち進路を失うや、下流へと流されていく。


 そこへ甲高い飛来音とともに、河面に無数の水滴が跳ね上がる。


 筏の前面に並べた防弾盾も次々と被弾し、そこかしこで金属音が上がり火花が混じった。押しのけられた船頭役の兵も、進路を取り戻そうと竿を奪った兵も、等しく跳弾を浴び、次々と水中に没していく。



 古今、迎撃側が有利とされる水際戦においても、ブレギア軍最左翼には「数的不利」の四文字が重くのしかかった。


 帝国軍は河中に少なくない犠牲を出そうとも、数を頼りに一挙に押し寄せてくる。


 迎え撃とうにも、ブレギア側の歩兵は数が足りず、群がり渡ってくる帝国兵を撃ち尽くすことができない。


 如何いかんせん、霧が邪魔で帝国兵に照準が定められないのだ。


 なるほど、帝国軍後詰が迂回運動に成功しながら、即座に河向こうから攻め寄せて来なかったのは、霧の発生を待っていたためなのか。




 ヴァーガル河の下流に砂塵が巻き上がる頃になって、ブレギア軍総司令部の御親類衆も、ようやく見立てが誤りであったことを認めた。


 帝国増援軍は、旧都・ノーアトゥーンに引き揚げてなどいなかった。まんまと迂回に成功し、ブレギア最左翼に襲いかかっている。


 ウテカ=ホーンスキンが、舌打ちとともにブルカン隊をはじめとする右翼各隊を左翼に振り向けようとした時だった。それまで、対岸で鳴りを潜めていた帝国軍が、突如としてヴァーガル河のほとりに前進し、砲撃を開始したのである。


【11月10日6時】ヴァーガル河の戦い 地図⑤

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330669274412940



 ブレギア軍は、河沿いに細長く陣を敷いていた。対岸の帝国敗残軍のみを押し包むのであれば、この繊細で優美な布陣は理にかなっていた。


 だが、押し包む対象が増えたとあっては、話が別だ。


 まして、その対象の数が包もうとしていた側を上回ったとあっては、話以前の問題であろう。


 観戦武官や記者たちに「芸術的」と評されていたブレギアの陣形も、改めて見直してみれば、実に頼りないものであった。


【1-18】 形勢逆転 上

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661504959713



 となったブレギア陣形は、そこから一部を割いて、最左翼に回すことができない。下手にを動かそうとすれば、正面対岸の帝国軍によって狙い撃ちにされるだろう。


 そればかりか、羽根が抜けた落ちた穴に向けて、敵部隊に渡河までも許しかねない。



 ブレギア優勢だったはずの局面が、わずか数日で帝国優勢に変わっていた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ブレギア軍は、帝国軍が合流する前に叩いておくべきだったな、と悔やまれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「河岸の攻防」お楽しみに。

ブレギアの騎兵が躍動します!


騎翔隊第1・2陣は霧を割き、土手を駆け下りる。途上、帝国に向けて馬上一斉射を数度見舞うや、そのまま河原を斜めに走り抜けていく。


帝国兵・下士官は、胸や頭を撃ち抜かれ、もんどり打って倒れる。


ブレギアの騎兵たちは銃を両手で構えながらも、襲歩全速力の馬を股と両足だけで楽々と繰る。射撃と馬蹄の織り成すリズムに狂いはない。

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