閑話 6

 今日で指導終わるっていうのに、私の親友はハチマキ忘れてきたりしてないよね? あっ、でも後ろで怒鳴られてない。良かったぁ。 


 桜には辛い思いして欲しくないなぁ。そういえば中二の夏休みだったっけな。突然桜がバドミントンラケットを持ったまま暗い顔して訪ねてきて、「逃げたい」って呟いたの。 


 桜はその時可哀想なぐらい、というか私だったら耐えられないくらい色々あって憔悴してた。それに加えて、バドミントン部が色々とヤバくて、その事実を知ってた私は「逃げよう!」って叫んだっけ。


 そのまま桜のラケットを奪い取ってうちの玄関に放り投げて、貰ったばかりのお小遣いが入ってる財布を持って桜の手を引いて走り出した。


 青春だったなぁ……。ひたすら困惑する桜と一緒に、とりあえず近くの駅に行ってどこ行くかわかんないまま切符を買ってそのまま電車に乗った。


 行先はまじで決めてなかった。とにかく桜を困らせるものから逃げられるのならなんでもよかった。


 電車の中で桜がこの旅の目的を訊いてきた。私は確か、現実から逃げるため! って答えた。


 辿り着いたのは海でちょっとびっくりした。桜と愚痴とか世間話とか沢山お喋りしながら乗ってたから、終点まで来ていたことに気づかなかった。


 でも桜は笑ってくれたし、海で波打ち際の濡れるか濡れないかチキンレースとかして楽しかったからもうなんでもいい。


 この体験が楽しくて忘れられなかった私たちは、この旅のことを「現実逃避行」と呼んで、今もたまにどこかに逃げてる。普通の人が「今日遊ぶ?」とか言うところを私たちは「今日逃げる?」って言うんだ。なんか合言葉みたいですごく気に入ってる。


 そしてこれがすごく楽しい。誰かにおすすめしたい。でも二人だけの秘密にしたい。葛藤したまんま高校生になっちゃった。


 で、バドミントン部は部停になった。その日は桜とお菓子パーティーをしてた。


 それから桜は最難関校の第五高校を目指して勉強を始めた。正直、桜の成績なら普通に何もしなくても受かると思った。だって桜は自他ともに認める天才だし百合さん数学教師だから日頃から数学は教えてもらえるし。私も教えてもらってるし。


 でも私の親友は努力した。もともと努力家で、一生懸命な人だからその成績は揺らぐことがなくなった。ただ、読解問題は克服できてなかったけど……。


 私は第五に行く気はなかったしそんな頭もなかったから、あー……離れちゃうのかー……。まぁ私親友だし大丈夫だろって思ってた。内心不安だったけど、桜の進む道と私の進む道はいつか別々になるってわかってたし。


 内心すごく嫌だったけど。すごくついて行きたかったけど。


 私は制服が好みかつ学力が近かったこの学園を受けることにした。桜も滑り止めでこの学園を受けるって聞いたから受けたってのはちょっと内緒。せめて受験する会場までは一緒に居たかったから。


 一緒に入学するつもりはなかった。でも桜は落ちてしまった。


 忘れ物に、人生が狂わされたって泣いてたっけなぁ。私は桜に救われたから、私も桜を救う義務がある。


 きっと桜にこのことを言ったら、義務なんてないんだよって言うかな。じゃあ私には桜を救う権利があるからめっちゃ行使する。言い方がおかしい……。なんか色々と支離滅裂な語り口だけど、誰も聞いてないしいいよね。聞かれてたら恥ずかしくて泣いちゃう内容だし。たまーに自分の脳内が全世界に広まってたらどうしようって想像することがあるけど、わかる人っているのかな?


 まぁとにかく、桜の学校生活をめっちゃいいものにするんだ。一緒に青春するんだ。この指導が終わったら!! この指導が終わったら!!!



 わっ、すごくタイミングいい! 黙想!!



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