第25話 カンナ
「あっ! 宮城さん来た!」
「霧島君……、店長は?」
「店番は任せたってどっか行っちゃった」
またあの人は……。多分漫画本やらラノベやらを借りに行ったりしてるんだろうな。
「ねぇ、結局この店ってなんなの? 扉が二つあるけど……。なんで?」
「あー、えーとね。まぁ店長から説明してもらった方がいいけど、お客さんは異世界人じゃないけど現実にはいないって言うか……」
霧島君は首を傾げる。私は説明が下手くそだからなぁ。
カランッと鈴が鳴った。
「あっ桜さんだ! ようこそ〜」
店長がやはり椿が昔読んでいた少女漫画雑誌を抱えて入ってくる。
「店長、霧島君に色々説明してください。私から説明するのはハードルが高すぎて無理です」
店長はウィンクしながらグッドサインを作った。
「それを乗り越えてこその人生ですよっ!」
「うるせぇです!!」
店長は少女漫画雑誌をカウンターの下にしまう。店側に立って見るとカウンターの中が丸見えだ。主に漫画とお菓子しかない。
店長が手をパンッと打ち鳴らした。
「僕も説明するのちょっとだるくなってきました。ここはもう! 自分で解明してもらいましょう! 大丈夫、壇さんの未練を解決すれば分かりますよ!」
店長が握りこぶしを前に突き出す。え、いま
「未練……?」
霧島君が呟く。店長はやっちまったと顔が固まる。私は店長の説明が始まる気がしたので静かに椅子に座った。
「えーと……、えーと?」
「だーかーらぁー! この世には此岸と彼岸があって! 此岸が生者! 彼岸が死者! ここは彼岸と此岸を繋ぐ船! で! 僕は! 死者!! 左が彼岸で右が此岸!! わかった!?」
店長がもうヤケクソに説明している。これは仕方ない。店長が悪い。霧島君は飲み込めてない。飲み込める方がおかしい。
「驚かないんですねぇって言わせてください!」
店長がカウンターを握りこぶしで叩いた。荒ぶっておる。
「え? 店長さん、生きてないんですか?」
「そう言ってるじゃないですか!!」
「嘘だろ?えー、フィクションじゃん……。」
「ノン! フィクションです!!」
荒ぶっておるなぁ。でも霧島君の反応はだいぶマシだと思う。だって私が何日かかけて教えてもらった情報を一気に浴びてんだもん。
「で、ここは生者の悩みと死者の未練を解決する店で、壇さんの未練は作詞した歌を思い出すこと……ってことですか?」
なぜか突然頭が冴える霧島君。いや多分これが彼のデフォルトなんだろうな。
店長は唖然としてらっしゃる。ハッとしてやれやれと首を横に振った。
「そうですそうです。分かればよろしい」
「えー……、宮城さんはいつ知ったの?」
「初日。お客さんのおばあさんの家に行ったら、その人の家族からもうこの世にいないって言われた」
「やばぁ、よく気絶しなかったね」
「それなぁ。なんで私無事だったんだろ。店長、新入りの店員のためにマニュアルとか作った方がいいですよ」
店長はなぜか少女漫画を取り出しながら喋る。
「いや生者を働かせてる店なんて僕見たことないですし……。まぁ働いてって言ったの僕ですけど。彼岸の職業は二つに分けられる、っていつか言った気がしますが、そもそも此岸と彼岸を繋ぐ店っていうのが少ないんですよ」
「そうなんですか?」
「そうですよ。この忘れ物屋って、だいぶイレギュラーだと思いますよ。ちょっと前まで彼岸をあんまり見て回らなかったので、他のお店をあんまり知りませんけど」
パラパラと捲っておる。真面目に仕事して欲しい。
「店って選べるんですか? 俺はまだ彼岸に死者が働く店があるってのがまず信じられないけど」
「選べません。いや、企業みたいなでかいとこで働くか、個人でいくかは選べますけど、個人で働くのを選んだ場合、なんか割り当てられます。突然ここに行けって窓口に言われました、僕」
窓口って結局なんなんだろう...?やっぱり神様とかそのへんなのかな。神はいるって言われても今更驚けない。
「あ、そうそう。彼岸には未練の部屋っていう物がありまして、扉をくぐってない人全員に割り当てられてます。確か、未練を具体的に表した部屋で、晴らしたら崩れるんだっけ……?」
「あやふやだなぁ」
「仕方ないじゃないですか。僕らだって正確な情報教えてもらってないんです。経験談とかから引っ張ってくるしかないんですよ」
「店長さんの未練の部屋ってどこなんですか?」
「ここ……ですかね? この辺のアンティークなやつらは僕の趣味ですし。未練の部屋とは言いますが、未練というものが主軸の、その人の人生や好みやこだわりとかを反映した部屋って感じです。未練を晴らすために存在します。これは確かな情報ですよ」
少女漫画を読みながらも真剣な眼差しで教えてくれる。少女漫画を読みながらも。
にしても店長なかなかオシャレな趣味をしている。この店の雰囲気の中で店長が本を読むとものすごく絵になる。例えそれが少女漫画であっても。でも純文学を読め。
店長は少女漫画をパタンと閉じて宣言した。
「はい!!! 説明おしまい!! 細かいことはおいおいってことで!あとは壇さんについて考えといてください!」
店長はそう言って次の少女漫画に手を出した。
……こいつ……。
「あぁそうだそうだ。俺割と頑張って調べてきたんだよね。でも結局見つからなかったよ」
「私もネットとか図書館行って調べたけど見つからなくて。もう少し情報ありませんか? そして話を聞いてます? 店長」
「聞いてます聞いてます。壇さんって初めてのお客さんなので、あんまり情報ないんですよね。彼岸に来たのも最近らしくて、僕の特別顧客ファイルに載ってません」
店長はひらひらと手を横に振る。どうしろと言うんだ。
「この辺に住んでたってことが分かるってことは、彼岸にも場所とか区切られてるんですか?とある県で亡くなった人はそこの県の彼岸に行くとか」
霧島君は冷静に聞く。さっきまであんなに取り乱していたのに。
「だいたいは自分が死亡した場所ですかね……? 最も思い入れがある場所とも聞いたことがあります。正確なのはわかりません」
「壇さんに直接聞くのは? 呼び出せないんですか?」
「まぁまぁ、あなた達ならたぶん解決できますよ。腕試しだと思って頑張ってください。あっ、彼の名前は壇特春さんです。特別の特に季節の春で特春です。珍しいですよね」
自分から雇ったくせに腕試しさせるの……? なんかおかしくない?
「じゃっ、二人で頑張ってください。」
店長はパチンと星を飛ばすようにウィンクして、少女漫画に向き直った。霧島君は店長が読む漫画を覗き込む。君も!?
「ちょっと! 霧島君はこっちの人でしょ!? ほら、こっちでとりあえず次の作戦会議とかするよ!」
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