第24話 カンナ
拝啓、天国にいろお父さん。地獄には天からの蜘蛛の糸があるって本当なんですね。現在四回目の応援指導です。相変わらずボロボロ学ラン達が目の前を徘徊しておりますが、少しずつ余裕が出てきたのか、とても声が良いボロボロ学ランの方を見つけました。
なんだろう、なんて言えばいいか分かりませんが、すごくいい声です。中性的と言いますか、とにかくかっこいいです。顔はまだ見られていませんが、というか目が合ったら
「お前なんでよそ見してんの? 目が合うっておかしいからな?」
って言われるので見ませんが。今日は演? のうちの一つなるものを教わりました。応援歌に合わせて飛び跳ねるそうです。すごく疲れますよ。帰りたい。
新しくできた友達の葵ちゃんは五時限目と六時限目のコミュニケーション英語と論理国語を捨てて第二応援歌を覚えてました。おかげで覚えられたそうです。良かったね。
本日は木曜日ですが、明日も応援指導があり、来週の月曜日まで続くそうです。予定ではそうなっておりますが、延長指導があるかもしれません。
もし私がそっち側に行くことになったら優しくしてね。あっ、黙想の指示がでました。では失礼します。敬具。
「終わった〜!!!」
椿が掃除終了後に伸びをする。今日から本格的に授業が始まったので、今の時間は三時過ぎだ。火曜木曜は六時間授業で、それ以外は七時間授業らしい。
「今日はさすがに一緒に帰ってもらうよ桜ちゃん! それか部活見学に行ってもらうよ桜ちゃん! 分かったかね桜ちゃん!?」
昨日一昨日で断ってるからそろそろ一緒に帰らないとな……というか帰りたいな……。でも壇さんについて調査したい……。せめて霧島君に一言!
「帰る帰る! ただちょっと昇降口で待ってて。トイレ行ってから行くから」
「おうけい!じゃあ待ち合わせってことだね?よっしゃ!デートみたくかっこよく待ってるから!」
椿は階段へと走っていった。
さて、かっこよく待っているらしい椿を置いて、霧島君がいるであろう場所へ急ごうか。多分今掃除中のはずだ。掃除当番は出席番号順で霧島君は二班のはずだから……、トイレかな?
昨日霧島君が大変なことになっていたトイレへ向かう。予想通り、トイレから教室に戻る最中の霧島君がいた。
「いたいたいたいた、霧島君!」
「あっ宮城さ」
「ごめん急いでるから、後でお店集合で!じゃあまた!」
「えっ宮城さ」
霧島君は手を伸ばして呆然としている。ちょっと申し訳ないけどまぁ後で会うし。
昇降口へ行くと、多分かっこよく待ってるつもりであろう椿がいた。
足を組んで腕組んでも、その見た目じゃかっこよくなれないことに気づいて欲しい。
「ねーさくらー。なんで最近そんな忙しかったの?」
椿は私の隣を歩く。一緒に帰るのは久々な気がするけど、実は三日ぶりでしかない。今まで一緒に帰りすぎたせいで麻痺してた。
「いやぁ、まぁ色々あってさ。知り合いのおじいさんが入院してて、それのお見舞い行ったり」
嘘じゃない。嘘じゃない。椿には嘘をつきたくない。
「えー、なにそれ。まぁいっか。現に今、一緒に帰ってくれてるし。部活はやっぱり入らない?」
「入らない入らない。いろいろやりたいこととかあるしさ」
「そうなの? 私も入るつもりないけど。ねぇねぇ、今度一緒に遊びに行かない? 私が桜をフルメイクするよ! キバッタンのメイクを参考にして、いい感じのを思いついたの!」
椿はちょっとだけ寂しそうに言う。キバッタンって……。
「やっぱり、椿はキバッタンを見続けるんだね」
「そりゃあね。私の最推しだもん。関係ないさ」
「……そっか! どこに行く? またいつもの逃避行?」
「どこ行こうかなー! あっ! そうだ! 葵ちゃんも誘わない? 新しい友達大事だよ! 桜も休み時間勉強ばっかしてないで友達作りしなさーい!!」
「分かった! 分かったって! ほら! もう家ついたよ!」
椿の家がすぐそこに見える。だけど、椿は私の袖をつまんでピタッと止まった。
「椿?」
「ねぇ、桜。やっぱり最近ずっと忙しそうだけどさ。絶対何か隠してるよね?おじいさんのお見舞いだけじゃないよね?」
突然、椿は真剣な眼差しの目を私の目に合わせてくる。
やばい。不意を付かれた。表情できっとバレた。
椿はたまに人の心を読む。というか、感じ取れるんだろうな。だから人より繊細で、気配りができる。
「別にいいよ。隠し事したってなんの問題もない。私は桜の大親友ってわかってるから、全然信じてる。だけどさ、危ないこととかじゃないんだよね?それだけなんだ」
恐らく、いや、絶対に、ただ純粋に心配してくれてるだけだ。隠し事ですら私を丸ごと愛してくれる。
いい親友を持ったなぁ。
「大丈夫だよ椿。やっぱ鋭いね。たぶん、近いうちに秘密にしてること喋っちゃうと思う。でも、きっと危ないことじゃないから、心配しないで」
「そっか! ならいいんだ。じゃあその用事頑張ってね! バイバイ!」
椿は手を振りながら家の門を開けて姿を消した。
さぁ、アルバイト先に向かおう。多分霧島君は既に着いている。あとは私が忘れ物を探すだけだ。よし、生徒証がない! 図書館に忘れてきた!
そしてすぐにいつもの扉が現れた。ブロック塀が色とりどりのステンドグラスが嵌め込まれた扉に変わる。
丸い触り心地のいいドアノブを捻り、開けると、茶色のエプロンを装着した霧島君がいた。霧島君しかいなかった。
霧島君し!か!いなかった。
……店長は……?
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