第23話 カンナ
「なんか今日はちゃきっとしてるね。桜、なんかずっと眠そうだったのに」
椿が何故か楽しそうに、少し若葉が見えてきた桜の下を歩く。
「まぁそうだね。よく眠れたからさ」
「それは何よりだけど、桜って最近忙しそうだよね。何かあるの?」
霧島君は店員になっちゃったけどこの際ツバキも巻き込んじゃおうか……? いやいや、無理無理。
「まぁ高校生だし。忙しいさねそりゃあ。あっ、そうだ。音楽に詳しい親友よ。壇っていう作詞家知ってる?」
「えー? 作詞家ー?」
椿はちょっと考えて、頭上の電球に光を灯した。何か閃いたらしい。
「当たり前じゃん! めっちゃ有名だし!」
おおおおおお! さすがだ椿!!
「檀一雄でしょ!? 無頼派の! 熱海事件の!太宰治の友達の! ってあれ? どうしたの桜。ガッカリしちゃって」
檀一雄の出身地はここじゃなくて山梨県です……。
三限目終了のチャイムが鳴る。だんだんと授業の進み方が分かってきた。中学校より明らかに早いけどついていけないほどじゃない。ただし古文が心配だな……。昔の人の心情なんてわかんないって。
「あの、宮城さん!」
「は、はい!! 宮城です!」
いきなり話しかけられてびっくりしてしまった。
見上げると髪の毛がボブでふんわりカーブしている女の子が立っている。目がでかい。椿とは別の系統の可愛さを持つ子だ。少女漫画のヒロインみたい。なんだなんだ。
「えと、その、要件があってきた訳じゃなくて、……応援歌覚えてきた?」
「え、あ、はい。覚えてきたよ。6曲もあるの大変だよね」
「そうなの! あたし、第二応援歌がどうしても覚えられなくってさぁ」
たぶん彼女は純粋に話しかけてくれただけなんだろうな。嬉しい。
「
こう言うと、葵ちゃんの表情がパッと夏の花のように、眩しいくらい明るくなった。
「あたしさ! 桜ちゃんと椿ちゃんと仲良くなりたくて! 私の名前、入れ替えると向日葵になるの! 同じ花の名前だから、親近感湧いてさ」
おお、親御さんネーミングセンスあるな。葵ちゃんは、名前通りの元気な女の子に見える。
「あー! 二人とも何話してるのー?」
トイレ帰りの椿がハンカチで手を拭きながらやってきた。椿と葵ちゃんはもう知り合いのみたいだ。昨日の部活体験かな?
「桜ちゃんにナンパしてたの! 昨日のアドバイス通りやったよ!」
「アドバイスなんてしてたの?」
「したした。そのまま突進すればいけるよ! って言っといた」
それアドバイスかなぁ……。なんにせよ友達ができるのはありがたい。
「葵ちゃんは何中から来たの?」
「おぉ、よくぞ聞いてくださいました。白鳥中だよ。ここって白鳥町でしょ?だからここからめっちゃ家近いの」
「どれくらい?」
「徒歩三分!」
「ちっっか!」
私たち四十分かかるのに……。神様って不公平だ。
「あっ、そろそろ授業始まるね。そろそろ戻んなきゃ。これからよろしくね!」
葵ちゃんは斜めちょっと前の席に戻った。事務連絡以外で椿以外と喋ったの初だな。いや霧島君がいるから二人目か。そういえば霧島君と壇さんのことについて話さなければ。
今霧島君は新しくできたであろう友達と喋っている。
──男子に話しかけるの難易度高くない……? よく私に話しかけたなぁ、霧島君……。
四時限目終了のチャイムが鳴る。
それは地獄の始まりを告げるチャイムでもある。
「ねー、さくらぁ……。なんか超怖いジェットコースターの列に並んでるような気分だよ……」
「違うよ椿。ジェットコースターに並んでる間はワクワクもあるでしょ。ワクワクしないじゃん」
「それはそう」
「桜ちゃん、椿ちゃん! 助けて! あたし第二応援歌が全く分からない!」
体育館に向かうと相変わらず先輩方が急げ並べと叫んでる。あれは私たちの命を救うためのものだったんだな。
昨日のようにめちゃくちゃ走って均等に並ぶ。
「まもなく応援団が来ます!! みんな!! お互いのハチマキがきちんとしてるか確認して!!早く!! 来ちゃうから!! まじで!! 急いで!!」
先輩方がすごい叫んでる。これから怪物が来るのかって言うぐらいの剣幕だ。いや怪物来るけど。
先輩方が勢いよく体育館から出ていく。私たちは昨日ボロボロ学ランに教えていただいた立ち姿勢で待つ。
あぁ、遠くから鉛の足音が聞こえてくる。
弾!! と、本日も盛大に太鼓の砲弾に撃たれた。
ボロボロ学ランは雄叫びをあげる。昨日今日で分かったけど、たぶん「押忍」って叫んでる。
「なんで押忍の発声できねぇんだよ! 昨日教えただろうが!! 太鼓の後に押忍って言えよ!!」
そんなの教えてもらったっけ……? 何言ってんのかわかんないから伝わらんって!
「第一応援歌!! 歌え!! せーのっ!!!」
「朝を迎」
「やめろ!!! お前らやめろ!!!」
もう少し歌わせてから判断してよ!!!!!
「お前ら! この調子じゃあ団長にお目通り叶わねぇぞ!!!」
ボロボロ学ランが壇上で叫ぶ。
まだ団長来てなかったの!?
またあちこちから誰かが倒れる音がする。霧島君大丈夫かな。倒れてないよね。よしよしよし。
「次! 第二応援歌! 歌え!! せーのっ!」
うわ葵ちゃん大丈夫かな。
「黎明に踊る第一の〜門を」
「やめろ!! お前らやめろ!! なんでこんなに歌詞覚えてねぇやつ多いんだよ!!!」
おっしゃる通りだけどもう少し歌わせてくれても良くない……?
ボロボロ学ランは私の後ろを通る。
すると私の腕を触り、上に動かされた。
「もう少し、上にあげて。そう、上手」
かなりのイケメンハスキーボイス。え、優しい。ギャップ……。
「お前ら!! できてねぇヤツが多すぎる!! ふざけんなよ!!! 放課後までに全部覚えてこい!!! 黙想!!!」
ボロボロ学ラン集団は雄叫びを上げて帰っていった。
椿が駆け寄ってくる。
「なんかめっちゃ声いい人いなかった……?」
「いた」
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