兄が残した日記

2030年のある日。掃除をするため久々に実家に帰ってきた私は、亡くなった兄の日記を物置部屋の中で見つけた。

ところどころ擦り切れており、ほこりもかぶっていた。


兄が亡くなったのは今から13年前、10歳での若すぎる死だった。

母によると兄は私が産まれる1年前のある日、バスに轢かれて亡くなったらしい。だから私は兄の事をほとんど覚えていない。

だが、この日記を読めば少しは兄の事を知れると思い遺品である日記に目を通した。


日記の1ページ目には兄が死んだ日のちょうど101日前の日付が記されていた。

日記の文字はとても丁寧に書かれており兄の人柄がなんとなく読み取れた。


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2016年10月3日

父さんが行方不明になって今日でちょうど3年が過ぎた。

どこへ行ってしまったのだろう。

会いたいよ........父さん。

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父は兄が死ぬ3年前、つまり9年前に東京出張中に行方不明になってしまったらしい。私も父の顔は見た事がない。

私はページをめくった。


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2016年10月24日

今日は母さんの機嫌があまり良くなかった。

父さんがいなくなってから母さんは機嫌の悪い日が増えたような気がする。すごく怖い。


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2016年11月14日


今日は母さんが僕にプレゼントを買ってきてくれた。

凄くカッコいい飛行機だ!

お父さんに見せてあげたい。

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2016年12月2日


スーツを着た知らないオジサンと母さんがリビングで話していた。

何を話しているのかさっぱり分からないぐらい難しい話だった。

オジサンが僕を見てにっこり微笑んでくれた。

飛行機を見せるとカッコいいねと褒めてくれた。


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2016年12月24日


今日は夜まで一人でお留守番。

サンタさんが来るまで頑張って起きてられるかな。


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2016年12月25日

僕って悪い子なのかな?

サンタさんは来てくれなかった。

母さんは僕が良い子にしてればサンタさんは来年来てくれるって言ってたけど、それって今年の僕は悪い子だったってこと?

母さんも夜ご飯までに帰ってきてくれなかったし........

クリスマスなんて嫌いだ。

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このページは紙に少しシワが入っていた。

兄はもしかすると一人で、さみしく泣いていたのかもしれない........

私は兄の気持ちを勝手に想像しながら日記を読み続けた。

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2017年1月3日


今日は母さんに少し遠くにある公園まで連れて行ってもらった。

ブランコに乗っていると母さんとなぜかはぐれちゃったけれど、優しいおばさんが家まで連れて行ってくれた。

母さんに「はぐれてごめんなさい」と謝った。

母さんは笑って許してくれた。


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2017年1月5日


母さんがあのスーツのおじさんに何か紙を渡されていた。

なんだろう。気になって聞いてみたけれど母さんは僕には見せてくれなかった。どうしても見たくて母さんの部屋に入ったらすごく怒られた。

どうしても気になったから........


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日記はいつのまにか最後のページになっていた。

兄が事故で死ぬ前日が最後のページには記されていた。

私は恐る恐るページをめくった。

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2011年1月6日


母さんは僕を捨てちゃうのかな。

スーツのおじさんじゃない知らない男の人と僕の事を話してた。

会話の内容を少しだけ聞いたら、捨てる、とか置いて行く、とかの言葉が聞こえた。怖いよ。母さんに置いて行かれちゃう。


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日記はそのページで終わっていた。

私は日記を読み終えると同時に勢いよく閉じた。

知ってはいけない事を知ってしまったような気がしたからだ。


その時、1階から母の声が聞こえた。


「加里奈ー!掃除終わった~?」


「あ、うん!」

私は慌てて返事をして日記を元あった場所に片付けた。


そして昔と変わらない自分の部屋のベッドの布団の中に潜った。



あの日記は間違いなく兄のもの。

兄は母に捨てられるかもと怯えていた。

そして何より兄の日記に書いてあった知らない男っていうのは誰?

嫌な予感がする。

今になって気づいた。

私と兄は本当に兄妹きょうだいなの?


今まで何の疑問も持っていなかった過去の自分の頭を殴ってやりたい気分だった。

が行方不明になったのが本当に兄の自己死の3年前だとするのならば私は母の胎内に少なくとも4年はいた事になる。流石にそれはありえない。だから、こう仮定すれば全て辻褄が合う———————

————————私の父と兄の父は別人だったのだと.........

たくさんの疑問が次々と浮かび上がってきた。


私は昔、学校で学んだ民法を必死に思い出した。

確かパートナーが3年以上、生死不明ならば離婚が可能になったはず.........

そして女性の離婚してからの結婚禁止期間は100日間。

それらをつなぎ合わせて考えると.......

私が結論に達した瞬間、部屋の扉が不気味な音をたてて開いた。


「加里奈........あの日記を読んだの?」

扉から顔をのぞかせたのは母だった。


自分の心臓の鼓動が耳にまで届いた。

私は金縛りにかかったように動けなくなった.......


母の手に握られた包丁が太陽の光でキラキラと反射していた。

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夢のまた夢~短編集〜 夢のまた夢 @hamburger721

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