第12話:魔導書庫

「はぁ、主様は相変わらず無茶ばかりなさりますね」


「そんなことないわよ。出来るからやっただけよ?」


「だからって…!はぁ、もういいですから動かないでください」


 子供二人が泣いている間、セバスはブルーメが抉り取った左目を治療していた。


「はい、終わりました」


「包帯はちょっと大げさじゃない?」


「大袈裟ではありません!傷は塞ぎましたが、まだ完治してないんですから」


「そ、そう」


 無事にブルーメの左目の傷は塞がり、その上から左目を隠すように包帯が顔にまかれた。少々大袈裟ではと思ったブルーメであったが、セバスの有無を言わさない圧に屈した。


『鍵の生成が完了しました』


 そうこうしているうちに、台座から鍵の生成が完了したという報告が入り、ブルーメは台座の上にある鍵を手に取った


「ふーん、これが鍵ねぇ。不思議な感じね」


 鍵の見た目はぱっと見は青い球体にしか見えないが、よく見ると細い線がびっしりと刻み込まれていた。


(んー、やはり思い出せんな。そもそも鍵なんぞなかった気もするし。まぁえぇか。伝え忘れかもしれんしの)


「リッター様、本日は娘を助けていただきありがとうございます」


 ある程度場が落ち着いたところで、リヒット男爵はブルーメにお礼をいいにきた。


「あら、いいのよ気にしなくて。警備に穴があったことに気が付かなかった私が悪いんだもの。気にしなくて大丈夫よ。ってあら、もう眠っちゃったのね。今日は泊ってきなさい。警備は厳重にするから安心してね」


 シュティは気を張りっぱなしで疲れたのか、リヒット男爵の背中でスヤスヤと眠っていた。


「あ、ありがとうございます。では私たちはこれで」


「えぇ、ゆっくり休みなさい」


 そう言ってリヒット一家は一足先に帰っていった。


「サンディも帰っていいのよ?」


「魔導書庫開けるんじゃないの?私も見たい!」


「そうねぇ。開けるだけ開けましょうか。でも、中を探索するのは明日以降になるわ。もう夜も遅いもの」


「はーい」


「魔導書庫を開けるわ」


『了。魔導書庫開錠――開錠成功――転送を開始します――』


 ブルーメが魔導書庫を開けるというと、台座から部屋全体に向けて虹色の無数の線が伸び始める。眼には見えるのに触れない不思議なその線は部屋を全体を覆いつくした後、眩い光が放たれ目の前が真っ白になった。


「うっ!」


「きゃぁっ!」


 そして光が治まり、目を開けるとそこには巨大な書庫が広がっていた。


「すごいわね……」


「おおー!!すごーい!!」


 ドーム状の巨大な空間に、本がびっしりと詰まった本棚が大量に設置されていた。

今いる場所を中心に、緩やかで広い階段が壁まで伸びていた。更に二人の頭上には空中回廊があり、その回廊にも本棚が置かれているのが見えた。書庫というより図書館という広さ、そして美しい光景に二人は見惚れていた。


『魔導書庫へようこそ。そして初めまして。当機は魔導書庫を管理する魔導機具です。司書、副司書が未登録となっていたため、ブルーメ・リッターを当魔導書庫の司書として登録。その血縁に当たるアレクサンドラ・リッターを副司書に登録しております。現状、当魔導書庫に入場できるのは先の二名のみとなっております。不明点等あれば気軽に御申しつけください』


 そこへどこからともなく球体がやってきて、よくわからない説明を二人にした。


「一つだけ聞かせて。またここに来たいとなったら、あの台座の所まで行く必要があるのかしら?」


『一部肯定。鍵の保有者であるブルーメ・リッターが、鍵に魔力を通して魔導書庫に行きたいと念じれば、自動で転送されます。ただし、同行者がいる場合は先ほどの門まで行く必要があります。また、ここに繋がる門はあの場以外にも複数ありますので、必ずしもあの場でなければならないというわけではありません』


「その門というのは、増やそうと思えば増やせるものなの?」


『肯定。相応の魔力と素材を必要としますが、作成することは可能です。ただし、一度設置すると移動させることは出来ないためご注意ください』


「なるほどねー」


(うんうん、これよな。儂のしる魔導書庫と同じじゃな。あの門とか言うのは知らなかったが、龍の眼に何か細工でもしておったのかもしれんのぉ。確か儂の母、先々代はリッター家の魔力にしか反応しないとか言っておったし、空間魔法の使い手でもあったからのぉ。まぁ何にせよ、無事にブルーメをここに連れてくることが出来てよかったわい。これで色々な問題が片付くことじゃろう)


 ブルーメが魔導書庫について確認している間、アレクサンドラは魔導書庫が自分の知るそれと同じであることに一安心したようだ。


「色々と気になることはあるけど、もう夜も遅いことだし今日はもう帰るわ。出るときはどうすればいいのかしら?」


『後ろにある扉から元いた場所に戻ることが可能です』


「あら、そうなのね。わかったわ。ありがとう」


『お疲れ様でした』


 そして二人は扉から外に出た。すると先ほどまでいた場所に戻り、そこではセバスと衛兵たちがあたふたしていた。


「あ、主様!どこに行ってたんですか!?」


「どこって、魔導書庫だけど?そういえばあなたたちは入れなかったのね」


「確か龍の血族?以外は入れないとかいってたような気がする」


「そうなのね。まぁその辺は後で説明するわ。さっさと戻りましょう。今日は疲れたわ」


「はぁ、ちゃんと説明してくださいね」


「はいはい、わかってるわよ。サンディ、帰るわよ」


「はーい」


 


 


 







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娘の娘として産まれました。折角なので魔法の道を歩むことにしました。 雪乃大福 @naritarou_sinnabe

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