found.

 絵。

 道路脇。目の前に飾ってある。のざらし。

 雨。ほんの少し、降ってきていた。このままだと、この絵は雨に濡れて。絵ではなくなる。ただの、色のにじんだ四角になる。


 円い時計の絵だった。 針がない。時刻表示もない。数字もない。それでも、わたしには分かった。これは、時計。動き続けているけど、誰にも気づかれなくて、それでも時を見つけ続けている、時計。


 雨。少しずつ強くなってくる。


 わたしは、この絵を知っている。だから、何度も、何度も描いてきた。それでも、まだ。思い出せない。この時計が、何なのか。なぜ、わたしはこの絵を描いたのか。そして、この絵を初めて描いたとき、わたしはどんな気持ちだったのか。

 分からないから、いつも。雨の日になると、ここに来て。同じ絵を描いている。


「傘、忘れていったな」


 彼氏が来た。


「うん」


 彼が、わたしに傘をかける。


 雨。


 ゆっくりと、絵が。雨に融けていく。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

found. (Hi-Sensibility) 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る