found.

第9話

 彼女を、探す必要はなかった。

 急に、別れると言うこともない。会話も従順。作ったごはんをおいしそうに食べてから、ちゃんと身支度をして外に出ている。

 雨が、もうすぐ降り始める。任務の予定は入っていなかった。雨が降ったとしても、彼女の隣に寄り添っていられる。

 彼女の記憶。街の記憶。


「あ、傘忘れていったな」


 あれだけ入念に準備してたのに、傘を忘れるなんて。笑ってしまいそうになる感情を、抑え込みながら。彼女に傘を届けに、街を行く。


 雨。


 携帯端末。


『街の人間、全員の記憶の回復を確認した』


「そうか」


 彼女の記憶も、戻ったのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る