第二十八話 元締
「……ここがウェスタ王国の端にあるっていう文化都市オルゴか〜」
泰久は周囲を見渡す。
「この前寄った都市よりずっと大きいでしょ?ね?ここはウェスタ東部では最大の歳だからねっ!!」
泰久に背負われながらリファは声を弾ませる。
「それでねそれでね、この街ってものすごく特徴的な部分が有ってね……なんと、ヤクザさんがいるの!!!」
「ヤクザさん?」
泰久はリファを傾けながら聞く。
「そうなんだよ!なんか知らないけど、昔からこわ〜いヤクザさんが街の経済を取り仕切ってるんだって。もしかしたら私達も目ぇつけられちゃうかも……」
ぷるぷると震えながらリファは言う。
「へぇ〜……そんな人達が居るんだ……怖いから出来るだけ近寄らないでいよっか」
「そだね〜」
背負っているリファを揺する。
「じゃあ、僕たちはどこに行こっか?」
泰久が聞く。
「えっとね……カジノ!!カジノに行こ!!」
リファは背中でキャッキャと騒ぐ。
「カジノかぁ……僕未成年なんだけど、大丈夫なのかな……?」
泰久が心配そうに聞く。
「あ、そっかぁ……泰久まだ15歳だったもんね……カジノはダメかも……」
リファの声のトーンが少し下がる。
「うん。こっちでは成人って何歳なの?」
泰久が背中のリファに聞く。
「確か……十六歳……だったっけ?多分そうだと思う」
「十六かぁ……。地球でも稀にそういう地域はあったらしいけど……僕の想像とは全然違うなぁ……」
そこで泰久はあることに気が付く。
(そういえば、僕ってリファに年齢とか言ったっけ?)
思い返すが、心当たりが全く無い。
「……ま、いっか」
(リファに知られて困るものでも無いしね)
談笑しながら二人で歩いていると、リファが
「あ、ちょっと待って」
と、ある建物を指さした。
泰久が立ち止まる。
「ここなの?」
「うん。この地下……だったはず」
そう言ってリファが泰久の方を見る。
「ちょっと?!!何やってるの泰久!!」
泰久の口の端からはダラダラと血が流れていた。
「ふぇ?ふぁ、ふぉんふぉら」
泰久は呂律が回らないままそう言った。
(……?喋れない……舌が、無いのかな?)
痛みに耐えながらも泰久は考える。
「ほら!口開けて!はい!」
そんな中、リファが泰久の口をこじ開ける。
「こんなの飲んじゃ、ってもう舌噛み切っちゃってるじゃん……どうしよ……」
口の中を見て呆れたようにボヤいた。
「ふ〜ん……ふぁんふぁ、ほふぁふぁふひふぇふぇ」
「え?お腹空いてたの?じゃあ言ってくれれば良かったのに!」
リファが泰久の口元をハンカチで拭く。
「ふぇ〜?ふぇも、にゃんかわるいにゃって」
泰久にはまだ舌が無く、上手く喋れないようだった。
「悪い、って……あのね、私言ったよね?泰久の望みなら何でも叶えたい、って」
泰久はコクリと頷く。
「だから、私に何も相談せずに勝手に解決しようとするのは止めて。何でも良いから私に伝えて」
「……ん」
すっかり治った歯と舌を使って、泰久は返した。
「じゃあ、先に何か食べる?お腹すいてるみたいだし、そっちの方が良いんじゃない?」
「うん。そうしよっか」
泰久は肯定し、リファを連れて食べ物の屋台を探す。
「串焼き?かな、美味しそうだね」
「ホントだね〜」
串焼きを十本以上買い、口に突っ込む。
「それにしても、どうにかしてこの対策考えないとな……あんまりリファに迷惑かけるのも嫌だし……携行食とか持ち歩こうかな?」
「私は別に良いんだけど……携行食って美味しいの?泰久としてはそればっかり食べるのは辛くない?」
リファの言葉に泰久は少し詰まる。
「ってことでさ、『圧縮解凍技術』を使ったバッグを買お?」
「ああ、例の……」
泰久が何かを思い返すように答えた。
「あれを使えばどんな料理でも暖かいまま持ち運べるんじゃない?」
「……確かに」
リファが泰久の頬をつつく。
「じゃあさじゃあさ、買っちゃおうよ。お金は私が払うからさ!」
「う〜ん……でもこれ以上リファに負担をかけるのは……」
泰久は目を迷わせる。
「大丈夫だって。私のお金は泰久に使うためにあるから」
それを聞いて泰久は暫く固まる。
「……そーゆーのはダメだよ、リファ。やっぱりちょっと考え直そ?」
「分かった!泰久の言う通りにするね!」
リファは背中でニコニコしながら肯定する。
「じゃ、まずバッグ買おっか。あっちのお店に売ってるみたいだよ」
――――――――――――――――――
「もうお腹いっぱい?」
「うん……流石にお腹いっぱいかな……」
二人はカジノの建物の前に戻ってきてそう言う。
「じゃ、そろそろ行こっか」
二人は足を踏み出し、建物の中に入る。
「すみません。このお店の地下にあるカジノに来たんですけど……」
次の瞬間、黒服の男が泰久を後ろから取り押さえる。
「え?!ちょ、ちょっと!」
「な、何するんですか?!!」
後ろからリファの声が聞こえる。
「こっちへ来い」
そのまま奥の部屋に連れて行かれる。
「あの、どういうことですか?!何でもこうも暴力的に……リファには触るな!!!」
部屋に入れられた泰久は後ろの男に怒鳴る。
「静かにしろ。詳しく話を聞きたい」
「いいから。先にリファから離れて」
視線が交錯する。
「……ほら、早く座れ」
黒服の男はリファを突き飛ばし、泰久に向き直る。
泰久は男を睨みながらリファを席に座らせ、自分も席についた。
「ここに何をしに来た?」
「?カジノがあるって聞いたんだけど……」
頭に銃口を突きつけられる。
「どこでその情報を仕入れた?誰に紹介された?」
「リファから話を聞いたよ。ただし、今からリファに銃口を向けたら君を殺すからね」
泰久は優しく問いかける。
「……ならこのままそちらの女に話を聞くとしよう。お前の頭に
「……ま、それならいっか」
泰久は小さく漏らす。
「ではお前だ。お前は
男がリファの方を向く。
「えっとね、私は話を聞いて……誰から聞いたのかは分かんないけど……なんか聞こえてきたの!」
泰久の頭に付き蹴られた銃の引き金に指がかかる。
「答えろ。どうやって情報を手に入れた?」
「リファの言葉を疑う気?」
体の向きは変えないまま、首だけをぐるりと回して男とリファを見る。
「何故俺達がこいつの言葉を信じる?」
「いや、信じるでしょ普通」
互いに相手が何を考えているのか分かっていないような顔で向き合う。
「……まあいい。どの道情報の元は吐いてもらわないと困る。どこでその情報を手に入れた?」
「どこって……昔同じ場所にカジノがあった気がしたし、それに歩いてたらそう聞こえてきたし……」
(歩いてきたら……ああ)
泰久の何かを理解したような顔を横目に男は問い詰める。
「どういうことだ?何が言いたい?」
「だからね、私の頭の中に入ってきたの。普通に歩いてたら【最近あっちの方にあるカジノで負けが込んでてさ〜】っていう感じの声?が聞こえてきて……」
「声……か」
泰久がじっと男を見つめる。
「……分かったよ。俺達が思っているような事態じゃ無かったみたいだな。だが、お前達をこの店に入れる訳にはいかない」
「え?なんで?」
リファが不安そうな顔で男の方を見る。
「いやいや、そんな顔されても無理なモンは無理なんだよ。
「あ、ここ常連さん限定だったんですね……どうしよ……」
リファが俯く。
「申し訳ねぇが、また紹介をもら
壁が、壊れる。
「よぉ。ウチのシマで随分と好き勝手やってくれたみたいじゃねぇか」
――――――――――――――――――――
「ぁ……が……」
「これで構成員は、全員か?答えろ!!」
店の一番奥に居た、派手な格好をした女を殴りながらスーツの男が聞く。
「ほんとに……ほんとにこれで全部で……」
「他にも居るだろ!!答えろ!!
殴りながら男は聞く。
「……雰囲気悪いね」
「ち……ちがうの。わたっ、私、別にこんな雰囲気の所に泰久を連れてきたかった訳じゃなくて……」
泣きそうな目をしたリファの弁明を泰久は黙って聞く。
「だからね……ほんとに、その、本当に違うの……私じゃなくて……」
「うん、大丈夫。分かってるよ。リファのせいじゃない。ここで暴れた人のせいだ」
背中を擦ってリファを宥める。
(あの人の拳……燃えてたよね?)
記憶を呼び起こす。
泰久の脳内に浮かぶ男の拳は間違いなく燃えていた。
(まあ、それは置いておいて……)
「あのっ!今日、僕たちデートなんですけど……」
泰久が声を絞り出す。
「ん?お前等はここの客なのか?何しに来た?」
男が泰久達の方を向く。
「はい。この建物にカジノが有るって聞いて……ね、リファ」
「うん。泰久と一緒に来たら楽しめるかな、って……私なら多分負けないし……」
リファの言葉に男は怪訝な顔をする。
「負けない……まあ、お前がそう思うなら大丈夫だが……」
「まあ、俺が気にしているのはそこじゃない。お前等がこのカジノに賭博目的で来た……ってとこだ」
お前、ウチの組に喧嘩売ってんのか?
「……?」
「……?」
二人は、立ち尽くす。
「この街の賭博は全部ウチの組が預かってる。この店はその掟を破った。じゃあ、その店に
「はい!見逃されます!!」
「……もういい。喋る価値は無さそうだな」
リファの顔面に炎が迫る。
しかし、それがリファに届くことは無かった。
「何で殴るの?」
泰久の掌に炎が燃え移る。
「っ!!!」
「いやだからさ……何で殴るの?リファって殴られる程悪いことした?」
男はすぐさま手を引っ込める。
「そんな……!泰久、私のためにそこまでしなくても……」
火傷した泰久の手を見て、リファが少しニヤつく。
泰久はリファに向かってニッコリと笑った後、表情を険しくして男に向かう。
(……気色悪ぃな)
「あの……殴るの、止めてくれません?」
泰久は男に一歩近付きながら言う。
「……さぁな。そいつはお前次第だ」
次の瞬間、男の拳が泰久の鳩尾に突き刺さった。
Glustny(グラストニー) さむほーん @sanhon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Glustny(グラストニー)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます