さらばギルティ:急②
またしても北島さんは、メニューに悩むことで、ご尊顔を降臨させていた。全く、俺を何度尊死させるおつもりなのか。
「んー、……よし。決まりました。佐田さんどうぞ。」
メニュー決めるの早すぎません?ってツッコむ暇すら俺に与えず、注文用のタッチパネルを渡してくる。もうちょい、さらさら流麗な黒髪を眺めていたかった。なんならずっと見ていたい。髪を拝借した後に頭なでなでしたい。……んん、思いを馳せてしまったが、つくづく自分が汚物の化身に思えてくる。自首すべきなのだろう。
バカなことを考えつつもタッチパネルを受け取り、さくっと何頼むかを決める。珈琲の一番でっかいサイズが適当だろう。話が途切れてしまったとき、珈琲を飲んでごまかしたいのだ。でっかいサイズなら何と返答すべきか考える時間も必然的に増えるだろう。……我ながら相変わらず臆病で意気地なしで情けない。
「あ、あの!実は佐田さんに謝りたいことがあって、今日呼んだのです!」
相変わらずの自分の臆病さに嫌気が差し、うんざりしていると北島さんからなにやら大事な話があるとのこと。覚悟を決めて応答する。
「……えっと、なんでしょう。」
「実は、私、生徒会長は許嫁のファンで、ラノベの特典集めるのに大好きで、それで、えっと……。今までずっと自分の分だけ、特典をおコメブックスに取り置きしてもらっていたんです。だから特典が売り切れた直後にいつも来てくださる佐田さんに申し訳なかったんです。自分がずるして手に入れた色紙を譲れないのかって。……佐田さんはいつも息を切らしながら来て、特典が手に入らなくて、本当に辛そうな表情をしていて。だから。本当にごめんなさい。」
「……」
衝撃すぎて言葉が出てこなかった。ポカンとしている俺に彼女はさらに続ける。
「佐田さんは私に告白してくれたけれど、私はあなたが思っているイメージとは全く違いますよ。強欲なんです。佐田さんがあんなに辛そうなのに、色紙を譲らずに励ましに言葉を平然とかける、そんな人間なんです。本当にさっきの話のまんまですね、私。」
「その話って本当……?」
「はい、だから私、佐田さんに嫌われる覚悟は出来ています。といっても、罪滅ぼしも何ももう遅いので……」
「これは急展開すぎるだろ。やばい、嬉しすぎる…。」
「え、、、」
「あ、すまん、話遮ってしまって。北島さん、生徒会長は許嫁ファンなんでしょ。まさか同志であるとは……。最高だよ。」
「え。んん、え。……えっと佐田さんは、怒らないんですか。」
「いやー、そもそも間に合わなかった自分が悪いですし、むしろそんな俺のことを気にかけてくださってこちらが嬉しいくらいですよ。いいじゃないですか、自分の分を取り置きするの。何事も貪欲に行かないと上手く行きませんよ。」
「で、でも……」
「まあそりゃ以前は特典が手に入らなくて、とても悲しかったけど、北島さんの言葉で前向きになれたし、むしろ、その……。励ましてくれるおかげで、北島さんに会いたくてわざわざおコメブックス通っていた節もあるので、気にしなくていいすよ。」
「……そうなんですか。」
どうも彼女は自分自身を責めすぎに感じる。しかし、悲しませてしまったのは自分だと感じているから納得できていないのだろう。ごめんな、むしろ最近は北島さんに会えて興奮しちまっている節が多々あるのだよ。※変態警報発令
ならば、卑劣ではあるが、こんなのはどうだろうか。
「んんっ。じゃあ、北島さんの色紙を一度見せてもらえませんか。実物見て、写真取れたら、感無量すよ。それで気まずさはチャラで。……どうです?」
「……そんなことでいいのですか。」
「もちろん!その後、生徒会長は許嫁トークしません?同じファンだったことに驚きが隠せないすよ。」
「分かりました、じゃあ、この後、私の家に行きませんか?色紙置いてあるので。」
「……」
……それはあまりにも急展開すぎないだろうか。
ラノベの特典に付いてきたのは美少女でした 与田リクト @ziguzakukki
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