第8話

「……委員長。これ、どういう事?」

「し、知らないわよ!? あ、あたしは知らない!? ていうかあたし、外でこいつを見張ってたから教室には戻ってないのよ!?」


 蒼白になった小町が大河を指さし、必死に容疑を否認する。


「そんなの、盗んだ時に隠しちゃえばいいだけの話じゃん」

「だから、そんな時間なかったんだってば! あたしがこいつを見張ってたって事は、あたしもアリバイあるって事でしょ!?」

「だからグルなんでしょ」

「もしそうなら、わざわざ持ち物検査しようだなんて言わねぇよ」


 冷静に大河が言い返す。


「……でも、現に委員長の机にあーしのブラ入ってたんだけど?」

「だからって小町が犯人とは限らねぇだろ。別の奴が盗んでつっこんだのかもしれねぇ」

「なんの為に?」


 大河は困った顔で頭を掻くと小町を一瞥し。


「……そりゃ、こいつに罪を擦り付ける為だろ」


 言いづらそうに告げた。


「な、なんでよ!? そんなの、意味不明でしょ……」


 言葉とは裏腹に、小町は心当たりがある様子だった。


(……まぁ、予想はつくよな)


 げんなりと、大河は内心で溜息をつく。

 悪い言い方をすれば、小町は融通の利かない真面目ちゃんだ。

 大河に対する対応などで、快く思っていない女子もいた事だろう。

 その証拠に、教室には小町ならそんな事をされても仕方がないという雰囲気が漂っていた。


「どうしてよ……。あたしはただ、みんなの為を思って頑張ってただけなのに……」

「そんなの誰も頼んでないし。そーいうのが鬱陶しかったんじゃないの?」

「――ッ!?」


 泣き顔を見られたくなかったのだろう。

 小町は顔を隠して教室を飛び出した。


「……追わないんだ?」

「まぁ、言われても仕方ねぇしな」


 苦笑いで大河は肩をすくめた。

 大河は楽しんでいたが、他の生徒からすれば、小町の言動に行き過ぎた部分があった事は否めない。


「……それはちょっと冷たくない? あんたのせいでこうなったんだよ?」

「それもその通りなんだよなぁ~」


 がしがしと頭を掻くと、大河は「はぁ~」と盛大に溜息をつき。

 ドガン!

 いきなり自分の机を蹴り倒した。

 突然の事に、一組の面々が騒然とする。


「な、なに、いきなり……」

「ムカつくぜ。こーいうの、俺ぁ大嫌いだよ」


 顔を上げると、大河は別人のように怖い顔で怒っていた。


「あ、あーし言わないでよ!?」

「わーってるよ。だから俺は、この中にいる卑怯なクソッタレ野郎に言ってるんだ」

「「「ひぃっ!?」」」


 大河がギロリと教室を見渡すと、あちこちで引き攣った悲鳴が上がった。


「小町にも悪い所はあった。俺もそうだ。けど、こんなやり方はねぇだろ! 文句があるなら直接言えよ! コソコソ隠れて小細工しやがって! 人として恥ずかしくねぇのかよ!」


 大声で怒鳴ると、大河はあっさり怒りを収めた。


「つーわけで、俺ぁ小町を慰めに行くからよ。昼休みが終わっても戻らなかったらセンセーによろしく言っといてくれや」

「よろしくって……そんな事言われても困るんだけど!?」


 大河が出ていくと、途端に教室が騒がしくなった。

 残されたリサはギュッと下唇を噛み、ぽつりと呟く。


「……バッカじゃないの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

今年から共学になった九割女子の元女子校に進学したらめちゃくちゃモテた話 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ