第1-3話 上村と花と器

生け花なんてもう何年ぶりだろうか


高校時代、週に1度1時間、ろくに顧問も来ない中、藺草の香りのする部屋で茶華道を学校司書の先生から教わった日を思い出しながら、花を生けてみた


数年ぶりに生けた花は、華々しく、華奢で可憐な姿になり、部屋の一端を彩った


...翌朝になり気づいた

なぜ私は家で花を生けたのだ...


重い花器と荷物を持ち車の助手席に載せ、仕事へ向かった


普段なら荷物を持ち職員室へ向かう所、今日は荷物を後回しに花器を持って担当クラスの教室へ足を運ぶ

悲しいことに教室は3階のほぼ真ん中に存在している


重い足取りで教室に入ると生徒達は物珍しそうに花を見つめる

それもそうだろう、現代っ子といわず私の代でも華道や生け花はおよそ馴染み深いとは言えないものだったのだ


もう定時頃かと錯覚するような体の疲れを持ったまま、車から荷物を取り、少し逸れた位置にある自動販売機でフルーツオレを買った私は、職員室の自らの座席に腰を下ろした

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憂う人 土と手 @tqnuk13

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