カウントゼロになったら。
時計の秒数を見ると、一秒一秒過ぎていくたびに、俺の命も一秒一秒減っていく気がする。
健康だったときは、そんなの思ったこともなかったのにな。
映画を観るのも、時間が過ぎていくのが気になってしまう。
たった二時間なのに、俺にとっては、たった限りのある時間の二時間なんだと。
早戻しはテレビの中では出来るけど、俺には出来ない。
ずっと、進んでいくしかないんだ。
だから、俺は決めたんだ。
もう過去は振り返らない。
嫌なことで思い出して嫌な気持ちになってる時間が勿体ない。
俺には、生きていく時間が貴重なんだ。
だから、振り返るのなら、いい思い出だけにする。
嫌なことは振り返らない。
素敵な時間だけ、いい思い出だけを振り返ることにする。
過ごしていくことも、いいことだけを見ていたい。
愛する家族との時間を大切に生きていきたい。
前だけを向いて生きていきたい。
命の時間を考えたことはあるか?
俺は、病気になるまで、考えたこともなかった。
身勝手なことは、考えたことはあったが…。
命に限りがあると気がついてから、変だよな。
もっと生きていたい。って思うのは。
まだまだ、やりたいこともあるのにな。
それと、言っておくがな、
親孝行は早くやっておいた方がいいぞ。
案外、親孝行出来ずにって事もあるからな。
ただ、一緒にご飯を食べるのも良し、どこかに連れていくのも良し、両親が初めてデートしたところに連れていくのも良し。
いろいろ出来ることはあるぞ。
好きなことをするのも良し。
ライブとか、舞台とか観に行くのも良し。
花を育てるのも良し。
家庭菜園も意外と楽しいものだぞ。
季節によって育てられる野菜も違うし、収穫できた時の喜びはうれしいものだぞ。
そういえば、若い男の人は、花に興味が無いと聞く。
でも、年を取ったら、花が綺麗と思うらしい。
花を買って育てたりもするらしい。
俺も…そういう人生歩んでみたかったな。
きっと、今生きている人は必死だろう。
きっと、辛いこともあるだろう。
でも、きっと、必ず楽しいことはあるから、
俺の分まで、一秒でも長く生きてはくれないか。
過去を振り返るのは、素敵な思い出だけで、
一日一回は、笑おうぜ。
そして、花を眺めるんだ。
家に花が無ければ、少し歩いて花が咲いているところを見つけてみたらどうだ。
きっと、落ち着くと思う。
そして、好きな食べ物を食べるんだ。
珈琲を豆から挽いても良し。
お店に行って、少しの話をするのも良し。
ひとりを好きになるのも良し。
夢を追うのも良し。
人を好きになるのも良し。
ひとつ、言いたいことは
本当に自分が楽しすぎて幸せで死んでもいいって思えるくらいの、満足した人生を過ごしてくれ。
俺の分まで。
約束だ。
お前は、ひとりじゃない。
俺もいる。
俺は、もっと、愛する家族と過ごしたかった。
子供の成長を見たかった。
でも、これが現実なんだ。
思い返せば、愛する妻と子供と過ごした日々は、今でも楽しいことしか思い出せない。
きっと、家族には、悲しませてしまうだろう。
でも、前を向いて生きてくれ。
過ごしてきた日々は幸せだった。
もしも、俺の命のカウントダウンがゼロになったら、
俺の好きなチューリップを植えてくれないか。
花壇に。
出来れば、色とりどりのチューリップがいいな。
きっと、遠くからでも鮮やかに見えるから。
それに、チューリップって家族に似てないか。
球根から花が咲いて、枯れて、球根が増えて、また花が咲いてって。
家族が増えるんだ。
俺は、ひとりじゃない。
愛する家族と今見てる人達がいるからな。
ただ、元気に今日を過ごしてくれ。
そして、前だけを向いて生きてくれ。
幸せだと感じて生きてくれ。
チューリップが満開に咲く頃、俺は見に来るからな。
――――――終わり――――――
俺の人生って何だったんだ…カウントゼロになったら。 rinna @rinna_
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★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
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