ハインリヒ
森の中
土砂降りの雨。
小さな洞窟にカエルと女の子が居る。
カエル
「今日は最高だなぁ。」
女の子
「んなワケ無いでしょ。何も出来ないじゃない。」
カエル
「蛙にとっちゃあ、最高なの。」
カエル、女の子に皮膚を見せる。
女の子
「うわ、ヌルヌル。キモっ!」
カエル
「まぁ、人間だった頃は考えられん感覚ではあるな。」
女の子
「いつも言うけど、それ嘘でしょ。」
カエル
「本当だから。王子だから。」
女の子
「ブヨブヨの?」
カエル
「呪いってのはね、美しければ美しい程、醜くなんの。」
女の子
「ふぅぅうぅうん。」
カエル
「あんたは呪いじゃないから不憫だな。」
女の子
「何でよ。」
カエル
「人間にこんな小っこいのは居ない。」
女の子
「可愛い可愛いって育てられて来たのよ。花から産まれたんだから。」
カエル
「キモっ!」
女の子
「あんたに言われたくない。」
女の子、横になる。
カエル
「あんたは雨の日も風の日も晴れの日も、ぐうたらだな。」
女の子
「あんただって特に何もやってないじゃない。」
カエル
「木の実取ったり、周りの奴らと協定結んだり、呪いの解読やってみたり、色々と忙しいが?」
女の子
「ふぅーん。」
カエル、空を見上げる。
雨がカエルを包む。
カエル
「俺はそろそろ出るぞ。」
女の子
「どの位で帰って来るの? 夕方とか?」
カエル
「ここには戻らん。」
女の子
「え?」
カエル
「まあまあ楽しかったよ。」
女の子
「攫っておいて置いてく気?」
カエル
「鳥から落っこちて来ただけだろ?」
女の子
「私、引く手数多の美少女よ?」
カエル
「じゃ大丈夫だな。生きていける。」
女の子
「こんな可憐な乙女を放っておいて……。」
カエル
「何処がだ。」
女の子
「見る目ないわぁ。」
カエル
「働かない上に大飯食らい。その上、自信家と来たもんだ。一体何処にメリットがあんのさ?」
女の子
「……言ってくれるわね。」
カエル
「まぁ、退屈はしなかったな。」
女の子
「……戻って来なさいよ。」
カエル
「いつか気が向いたら。」
女の子、自分がしていた髪飾りを渡す。
女の子
「待ってるから。」
カエル
「男に二言は無いさ。」
女の子
「……。」
カエル
「達者でな。」
女の子
「運命の相手かもよ?」
カエル
「他に居るさ。」
女の子
「私より劣ってる。」
カエル
「俺、一目惚れタイプだから。多分。」
女の子
「……。」
カエル
「あばよ。」
ピョンと洞窟を出るカエル。
女の子、黙ってカエルの背中を追う。
カエル、一度も振り向かず雨の中へ消えて行く。
洞窟で一人、壁を見ながら過ごす女の子。
雨が止む。
淡い光が差す。
そこへネズミが現れる。
ネズミ
「カエルが居なくなった今、ここは親分の領土だ。お前は親分の嫁になれ。」
女の子
「嫌よ、小汚い。」
ネズミ
「ネズミもカエルも変わらんだろうが。」
女の子
「…‥卑しいわ。」
ネズミ
「捨てられたお前を拾ってやろうってんのに何だ?」
女の子
「捨てられた? ふざけないで。こっちから捨ててやったのよ。」
ネズミ
「そうか。俺は別にどっちでも良い。」
女の子
「……。」
ネズミ
「来ないなら、お前は独りだな。」
女の子
「別に良いわ。」
ネズミ
「取り敢えず、こっから出でけ。」
女の子
「嫌よ。」
ネズミ
「ここは親分の領土だ。」
女の子
「知ったこっちゃないわ。」
ネズミ
「今の内だぞ。花は枯れたら役に立たん。」
女の子
「私は枯れたりなんかしない。」
ネズミ
「俺は警告したからな。後は知らん。」
ネズミ、去る。
女の子、三角座りをして蹲る。
柔らかい陽が女の子の影を照らす。
(終わり)
寓話 @yuzu_dora
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。寓話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます