第10話 二人の兄の死

 1536年 3月 16日


 まだまだ寒いある日、僕は軽やかな足取りで廊下をスキップしていた。何の歌か忘れたけど下手くそな鼻歌を口ずさんでいると、すれ違う人に変な目で見られた。まぁ今は気分がいいから見逃して上げよう、なんてね。


 と言うのも今日は道場を使える日だからだ。いつもは外の簡素な稽古場で竹刀を振るっているのだが、裸足だと足の裏が痛いしなにより設備がぼろい。それに引き換え、室内の道場は設備がかなり良い。予約制だから一人静かな場所で稽古ができるのも良いポイントだ。

 

 道場に着くと残念ながら既に一人竹刀を振っていた。まぁ一人くらいならいいだろう。僕は軽く一礼し道場に足を踏み入れると、中の人が僕に気が付いたようで振っている竹刀の手を止めこちらに顔を向けてきた。

 そこにいたのは承芳さんのお兄さんの恵探さんだった。よりによって恵探さんか。表向きは普通に接しているけど、やはり皆警戒している。それもそのはず、この人承芳さんを殺そうとしているんだもんな。まぁ雪斎さんの口ぶりだと主導しているのは正成さんっぽいから、この人が何を考えているかは不明だ。


 「其方は承芳の供の関介殿ではないか。其方も道場で稽古を?」


 「そうですね、外だと設備もあまり良くないので。折角空いているならと思って」


 「結構なことだ。承芳を守るためには、その華奢な身体を鍛えねばならんからな」


 そう言いながら口を開けて豪快に笑った。この人どういう気持ちで喋ってるんだろう。僕は慎重に恵探さんの出方を伺う。何も考えていないようで、実は小脇に刀を携帯しているかもしれない。それくらい戦国時代ならありそうだ。

 ただ意外に恵探さんは特に怪しい仕草をするでもなく、自分の稽古に戻った。もしかしたら僕の心配しすぎなのかもしれない。


 裏から竹刀を持ってくると、恵探さんから少し離れた場所につく。よし、此処からは自分の世界に集中しよう。


 「関介殿、少し話さないか?」


 危く竹刀を投げ飛ばしそうになった。急に話しかけてこないでくれよ。ジトっと湿った視線を向けると、恵探さんは申し訳なさそうに手を合わせた。ったく、承芳さんなら竹刀を投げつけていただろう。


 「すまんな、邪魔なら結構だ」


 「いいですけど、なにか?」


 「む、無理に合わせずともよい!」


 不機嫌な僕に慌てて言葉を返す。なら最初から話しかけてくんなよと、心の中で愚痴りつつ恵探さんの方を向く。まぁ此処で無視を決め込むのは流石に意地が悪すぎだろう。


 「手短にお願いしますよ」


 「ははっ、関介殿は誰にでも同じ態度をとるのだな」


 苦笑いする恵探さんへ、僕は気にせずぶっきらぼうに返した。


 「承芳さんはそっちの方が良いと言ってました」


 「そうか、いかにも承芳らしいな」


 僕は横耳で聞きながら剣を振る。ただ適当にあしらいつつも、もしかしたら恵探さんは僕の事、そして承芳の事で何か探っている可能性がある。雪斎さんも言っていた、素直すぎは命取りだ。気をつけよう。

 まぁこのあほそうな人だから、そんな難しい事はしてこないかもだけど。


 「私はな、出来れば承芳と争いたくないのだ」


 竹刀が手から離れ、数メートル先まで吹き飛んでいった。言葉に詰まり返事が出来ず、あっけらかんと恵探さんの顔を見た。


 「なのに正成は、承芳を討つと言って止まらんのだ。関介殿、かような事を敵に相談するなど武士の恥は重々承知の上で頼む、どうか共に正成を止めてくれ!」


 恵探さんはその場で膝をつき、おでこが床に着くまで頭を下げた。大男の土下座は迫力がすさまじく、一歩二歩後ろへたじろいでしまう。この人あほと言うより愚直という言葉が似あう。彼の真っすぐな言葉には少なくとも誠意は感じ取れた。こうなってしまっては無下にできないのが僕のさがだ。


 「ちょっ、頭を上げてください! 何もそこまでしなくてもいいですよ。大丈夫です、僕も恵探さんと同じ気持ちですし、きっと承芳さんも同じです。僕で良ければ恵探さんの力に……」


 その時道場の入り口付近で物音がした。反射的に振り向くと、数名の人影がささっと消えていった。良く見えなかったけど、その影の手に何か巻物みたいなものが見えた。もしかして僕の会話を……。

 恵探さんに振り返る。そこには頭を下げたままの恵探さんの姿があった。だけど、僕にはその全てが白々しく見えた。


 「恵探さん……顔を上げて下さい」


 「私の気持ちが分かってくれたか? 関介殿」


 顔を上げる恵探さんの表情からは、勿論嘘偽りは全く感じ取れない。自分の顔がくしゃっと歪むのを感じた。もう一度雪斎さんの言葉を思い出す。戦国時代では素直さは命取りになると。なるほど、あの人の言った意味が少し分かった気がする。


 「貴方の気持ちは僕も同じです。ですが僕は承芳さんの味方で、貴方は承芳さんの敵です」


 呆然と見つめる恵探さんを置いて、僕は足早に道場を出た。戦国時代、馬鹿正直物は殺される。胸に刻もう。僕が迷ったらいざという時に承芳さんを助けられない。敵にも味方にも絆されてはだめだ。どんな時でも僕は承芳さんの味方でいなくちゃ。


 1536年 3月 17日


 僕の安眠は部屋の外の喧騒で妨げられた。さっきまでパンケーキの上で寝転んでいたはずなんだけど。くそっ、あと少しで食べられたのに。

 乾いた目を擦りながら体を起こして横を見ると、そこに承芳さんの姿はなかった。以前にも同じ体験をした気がする。ただあの時は良い目覚めだったのに対し、今日の目覚めは最悪だ。寝ぼけた頭で部屋の外を見やる。何だかうるさいけど、僕には関係ないかな。もう一度夢の世界へ。


 「おい関介、今二度寝しようとしただろ」


 「んにゃっ、にゃんのことれす?」


 呂律が全く回らないせいで猫みたいな喋り方になってしまった。恥ずかしいにゃ。

 部屋のすぐ外には、いつの間にか承芳さんが立っていた。呆れた様子でやれやれと手を振る。だったら自分が起きる時一緒に起こしてくれればいいのに。ただそんな事より今一番気になるのは、何故か騒がしい部屋の外だ。


 「あの、なんか騒がしい気がするんですけど、何かあったんですか?」


 「あぁ……まぁな」


 目線を下に落として弱弱しい声で呟いた。その様子を見て、流石の僕でも察しがついた。僕はあえて目線を外して、布団に向かって呟き返した。


 「そう……ですか。最期にお声は聴けました?」


 気の利いた返しのできない自分が少し悔しい。


 「いや、私が着いたときには既にこと切れていたよ。分かっていたことだ、いずれ人が死ぬことくらい。それは誰にも避けられぬ運命なんだ。それが早いか遅いかの話しなだけだ」

 

 「…………んっ」

 

 僕は承芳さんに向かって両手を広げる。気の利いた事は言えないけど、慰めるくらいはしてあげられる。今思えば両親が死んだとき、一番辛かったのは一人だったことだ。まぁあの師範が慰めてくれるとは思っていもいなかったけど。それでもやっぱり、誰かに居て欲しかったと思う。


 「なんだ関介、別に私に慰めなど」


 「…………んっ!」


 ごちゃごちゃうるさいな。そんな泣きそうな目で言われても、ちっとも説得力がない。


 「ふふっ、仕方がない。ならば少し関介の胸を借りるとしようか」


 承芳さんは力なく倒れてきた。かっこよく迎えられれば良かったけど、僕は承芳さんの重さを受け止めきれず、覆いかぶさるように押し倒された。お、重い。


 「承芳さん、一旦退いて」


 覆いかぶさる承芳さんを横に退かすと、直ぐに抱き着いてきた。なんだこの状況、カップルか。


 「ちょっ、承芳さん。なんかこう膝枕的な感じの方が」


 「いいではないか、一緒に寝よう!」


 「えぇ~、それは気持ち悪いですよ」


 苦い表情で断ろうとすると、顔をこちらに向けてきた。そんな駄々っ子みたいな顔してもだめ。


 「なら関介は実は女子で、私に求婚を迫ってきたという嘘を家中にばら撒く」


 「はぁ~、分かりましたよ。少しだけ、少しだけですよ」


 ぱあっと笑顔になると、悪戯っぽく笑いかけてきた。


 「本当に私の初を奪っても良いのだぞ?」


 「元気なら出てけ」


 この人本当にショックを受けているのだろうか。ただまぁ、心の傷が少しでも癒えてくれたのならいいけど。そのまま僕らは眠りに落ちた。部屋の様子を見た人はさぞ驚いたろう。なんせ外から見たら、女性と寝る承芳さんの姿に映るのだから。


 しかし今川家を襲う悲劇はこれだけに終わらなかった。

 その日の夕方。一人の武士さんが血相を変えて部屋に飛び込んできた。真っ青の唇をわなわなと震わせ、信じられない言葉を口にした。


 「承芳様、落ち着いてお聞きくだされ。先程、彦五郎様がお部屋でお亡くなりになられました」


 「何だと!? 彦五郎兄さんまでもが……まさか同じ日に病気で」


 「いえ、死因は未だ確定していないのですが、噂には他殺ではないかとの事に御座います」


 他殺……話がすごく物騒になってきた。他殺と言う事は、誰かが彦五郎さんに恨みを抱いていたか、若しくは……


 「彦五郎兄さんが死んで利を得る人物の仕業か。そんな輩、一人しか思いつかん」


 ぎりっと爪を噛み、承芳さんの双眸に燃え滾る炎が映った。

 多分僕も彼と同じ人物に思い至った。でもまさかこんな手段に出るなんて思いもしない。ふと気が付いたときには、承芳さんは今まさに部屋を飛び出そうとしていた。僕も慌ててその後ろを追いかけた。


 「承芳さん、憶測だけで動いては危険です。先ずは雪斎さんに報告を!」


 「そんな事言ってる場合か! 部屋の近くに、未だ兄上を殺した輩がいるかもしれないんだぞ!」


 「だからっ! ちょっと待って下さいって!」


 話を聞いてるのかこの人。僕らが聞いたのは、あくまで言伝に広まった他殺という噂だけで、確たる証拠は何も無いのだ。にもかかわらず、承芳さんは長い廊下を彦五郎さんの部屋に向けて全速力で走っていく。声を掛けても一向に止まる気配が無いので、仕方なく後ろを追走した。

 部屋の前に着くと、既に多くの人だかりで埋め尽くされていた。中の慌てふためく様子から、想定外の出来事だったことは疑いないようだ。病死ならば予兆があってもいいはずだ。それが無く突然、それも氏輝さんと同じタイミングと言う事は、そう言う事なのかもしれない。


 「退け! 中の様子を見せろ!」


 「いけませぬ承芳様!」


 「うるさい! 私の兄上が死んでいるのだ、何故私が入れないのだ!」


 承芳さんが強く迫っても、護衛兵は頑なに譲らなかった。恐らく承芳さんにお兄さんの御遺体を見せないための配慮だろう。暫く押し問答が続いていると、廊下の角から雪斎さんが現れた。神妙な面持ちで僕らの前に立ち顎で合図を送った。こちらに来いと言う事だろう。振り返る雪斎さんの背中を、薄暗い廊下の角まで追いかけた。


 「和尚どうなってる。何故彦五郎兄さんまでもが死なねばならんのだ」


 「やはり福島が動いてきおったか。此度の彦五郎様の件は、間違いなく福島勢の仕業だろう」


 やっぱりか。正成さん、こんな事するような人に見えなかったけど。やはり戦国時代だ、気を許してはいけなかった。雪斎さんの言うことが、皮肉にも現実になってしまったというわけか。

 ただ僕は、今の雪斎さんの台詞の一つに違和感を覚えた。


 「今やはりって言いました? もしかして雪斎さん、彦五郎さんが殺されることを知っていたんですか?」


 僕の疑問に続いて、承芳さんは今にも飛び掛かりそうな勢いで雪斎さんに詰め寄る。雪斎さんの胸倉を掴んで、鼻がくっつきそうな距離まで顔を近づけて怒鳴り散らした。


 「気が付いておったのだな和尚! ならば何故、何故彦五郎兄さんを救わなかった!」


 「そう興奮するな。浮足立っては相手の思う壺だ。いいか? むしろこれは好機なのだ。これで大義はこちらにある。いくら恵探当主の正統性を主張しようと、求心力を失ってはどうすることもできん。いずれお前を排斥しようと戦を起こすが、武田の後ろ盾のある我らが圧倒的に有利なのだ」


 「ふざけるな! そんなものただの欺瞞だ! その上今度は恵探兄さんを討てと言うのだろ? 和尚はどれだけ今川の血を見れば気が済むのだ!」


 「反対勢力を全て抹殺するまでだ。承芳、あまり身内に肩入れするな。そうでもしないと生き残れない。乱世に生まれ家の当主になる以上、死屍累々の道の上を進む外無いのだ。肝に銘じておけ」


 雪斎さんは身体を翻すと、直ぐに廊下の奥に消えていった。反論するどころか、後ろ姿を歯を食いしばって睨みつける事しか出来なかった。

 

 「血を見なければ当主になれないのか。だが、私に兄上の屍の上を進む覚悟など……」


 膝から崩れ落ちる承芳さんは、床に向かってぽつりと呟いた。その姿が痛々しく直視できなかった。目を瞑り壁に寄りかかった。自分の体がすごく重く感じた。承芳さんの隣に居続けてあげることが今の僕の限界だった。

 昨日の恵探さんの言葉を反芻する。僕は何にもぶつけられないもどかしさを覚えて、自分の太ももを目一杯叩いた。


 1536年 3月 24日

 

 僕が想像していた以上に、氏輝さんと彦五郎さんの死は、今川家に大きな衝撃を与えていた。部屋の前の廊下をひっきりなしに人が走り、承芳さんに声を掛けにくる人もいっぱいいた。ただ承芳さんはそれらを全て断った。このタイミングでやって来るのが敵かも分からないためだ。一切気の休まる事のない日々が続き、僕も承芳さんも疲労でいっぱいだった。


 数日の間自身の部屋で待機を言い渡された。その間どんな会話をしたかも覚えていない。この一週間、部屋の中にはずっとどんよりとした空気が流れていて、それに耐え切れず僕は殆どの時間稽古していた。竹刀を振っている時だけは全てを忘れられると思ったから。だけどお兄さん二人の死、そして雪斎さんの言葉。それらが頭の中をぐるぐるとかき乱し、稽古には全く身が入らなかった。

 やはりそのままでは何も進まないと思い、以前道場で起きた出来事を話すことにした。恵探さんが話したこと、外で誰かに聞かれていたこと洗いざらい話した。

 聞きながら腕を組んでいた承芳さんは、僕が話し終えると薄く目を開いた。


 「そうか、恵探兄さんは私と争いたくないと」


 「あれが絶対と言い切るつもりは無いですが、僕にはあの喋り方が嘘を付いているとは思えませんでした」


 承芳さんはふっと鼻を鳴らして困ったように笑った。遠くを見るように目を細めながら囁く。言葉尻にかけて弱くなっていき、風が吹いたら消えてしまいそうなか細い声だった。

 二人のお兄さんが亡くなった事に相当堪えているのだろう。むしろ直ぐに立ち直れる方がどうかしているだろう。


 「複雑だな。私だって決して争いたくなどない。だが今川家の当主になるためには、この争いは避けられぬ。運命とは真に残酷だな」


 「承芳さん……」


 「大丈夫だ関介、そんな顔をしないでくれ。安心しろ、今更争いたくないなど言わないさ。覚悟は……出来てる」


 だったら僕を納得させる顔をしてくださいよ。承芳さんが今にも泣きそうな顔をしているから、僕も安心できないんです。やっぱりこの人は優しい、優しすぎる。自分の心を押し殺してまで、僕を安心させようとしている。今川家を継ぐために、無理やり覚悟を決めている。それじゃあ承芳さんの気持ちはどうするんだ。


 「それは、承芳さんの本意ですか?」


 「…………そうだ」


 「違いますよね?」


 弱弱しい承芳さんの言葉に被せるように返した。面食らったように何も返してこない。その姿だけで嘘だってバレバレだ。普段の承芳さんは、こんな見え透いた嘘を付くような人じゃない。


 「本意じゃなければ、覚悟なんてできませんよ」


 「だから覚悟はできてると……」


 「自分の心を騙しても! それは自分が傷つくだけです。そしてその傷は一生心を蝕み続けるんです。心を騙すのは……自分を殺すことと同じなんですよ」


 「自分を……殺す」


 自分に言い聞かせるように胸に手を置く。そうだ、自分の心臓にナイフを突きつけているのは、いつだって自分自身だ。そのくせ、傷が広がるまで自分では気づきにくい。だから傍に立つ人が言ってあげなきゃいけないんだ。


 「迷ったら僕が助けるって言ったじゃないですか! 今承芳さんは自分が進む道に迷っています。そんな時は一度立ち止まっていいんですよ」


 「だが! 私は今川家当主として、そんな弱気ではいけないんだ。己に嘘を付いても気丈に振舞ってでも、決断しなければならないんだ」


 「違う! 嘘を付くのは、自分の決めた道を進むためです!」


 「己の道を外れてでも、通すべき道があるのだ。関介、お前には決して分からないだろうがな」


 何だその言いぶりは。僕には分からないって、そんなの本当の気持ちを言わなきゃ分かんないだろ。貴方はこんな捻くれた人じゃなかっただろ。お兄さんが亡くなった悲しみは痛いぐらい分かる。だからこそ僕にしっかりと気持ちをぶつけて欲しいのに。


 「もう! 僕は承芳さんを励ましてるんですから! もっと僕を頼ってください!」


 「いらん励ましだな。別に私は気落ちしているわけではないし、今はお前の助けはいらない」


 「んなっ! 何ですかそれ! もう承芳さんなんて知りません! 勝手に独りで落ち込んでいればいいんですよ!」


 頭に血が上っていきつい喉の奥にある言葉が出てしまった。僕は承芳さんと目を合わせることなく部屋を飛び出した。あんな事言うつもりじゃなかったのに。どんな時でも承芳さんの味方でいたいと思っていたのに。自分の情けなさで、視界がぼんやりと霞んだ。


 僕らは今後どうなるのだろうか。結局後継者争いになってしまうのだろうか。廊下に出ると、いつの間にか空には無数の星が輝いていた。何億光年離れたあの星の光は、長い年月をかけて僕の元に届くのだろう。僕は一番綺麗に光る一つの星に注目した。天体の知識もなく名前なんて分からないけど、その小さな明かりに向かって手を合わせた。

 どうか承芳さんが進む道の先に希望がありますように。

 僕のこの願いが何億光年先に届くのは遥か先だ。だけど、それでも多くの人が星に願いをするのは、何かに縋らないと立ち上がれない弱い自分を慰めて欲しいからだろう。

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