第16話

 村に潜んでいた通報者(討伐隊が独自で金で雇った人たち。傀儡の情報を正しく通報し的確に処罰する場所を与えれば倍の報酬が支払われる。そのため討伐隊が遠征できない地域では数多く配属されている。)を殺し、主人公たちは先代の魔王の墓場となったマスカットの別荘地の底へと目指す。

 一方でミラたちもマスカットが残したといわれる別荘地へと目指していた。そこには先代の魔王の情報だけでなく、討伐士が魔王を倒す術もあるという。マスカットがどうして地上最強だったのか裏付ける理由がそこにあるのだ。主人公と遅れて先に別荘地へたどり着く。そこは表向きは別荘地だ。三階建ての大理石で作られた天然の建造物。人間が生活できるようにいくつか自動化された機械がいくつもあり、身体の疲れをとるにはうってつけの場所だ。主人公は容赦なく別荘を破壊し、木端微塵にしてしまう。マスカットが生涯大事にしていたであろう建物を躊躇せず壊したことは当の本人は激しく怒っているのだろうか。主人公がもし人間だったらきっと今の自分を激しく叱っていたのかもしれない。だけど、”人間が作ったもの”を壊す――その感情がすでに魔王として進行している証拠だった。

 遠くからミラは激しい怒りをこみ上げていた。尊敬していたマスカットリーダーの遺物をあろうことか副リーダーであった主人公の手によってあとがたもなく壊してしまったのだ。マスカットの意思を継いだミラは、主人公…魔王を打倒すことを一層増した。


 別荘の地下には先代の魔王が施した結果があった。三角形の模様が入った石扉だ。素手で壊そうとしたがビクともしない。そこに先ほど殺害した討伐士たちの肉片を口にくわえていると目が三角形の模様ができた。それに反応してかゴゴゴ…と音を立て、扉は開いた。

 階段を下っていくと、そこにあるのは先代の魔王が残した二つの巻物だった。一つは魔王としての力のこと、もうひとつはマスカットが偉大なる力を得た術が記されていた。主人公は二つとも手に入れようとした。そのとき、ミラが急接近して主人公の手からひとつを奪い取った。

「ミラか、懐かしいな」

 感動の再会に喜ぶかのように両手を広げる主人公を前にしてミラは身構える。

「魔王! あなたは変わってしまった」

 武器を取ることなく逃げる構え。心の声が主人公に届く。

(こいつは魔王なんだ! もう、主人公じゃない! 魔王は倒さなければいけない存在なんだ! だから、私の手によって殺さなければいけないんだ!)

 葛藤する声が聞こえてくる。ミラは、もう魔王を倒すために動いていることがわかるなり、主人公はこう答えた。

「キミが思うことはよくわかるよ。偉大なる師匠マスカットの遺物を壊し、討伐隊を指揮していた指揮官(上官)を殺し、あげくの果てには魔王となってしまい、多くの討伐士たちを殺した。だが、キミらだって非道なことをしているじゃないか。傀儡のことを何も考えずに怖し、罪もない人たちを傀儡だとかと言って殺している。これは何の替わりもないじゃないか」

「よくしゃべりますね。時間稼ぎのつもりですか」

「いや、人間だったころ、キミによく話していたなって。でも、魔王として覚醒してから君の考えは賛同できなくなってしまった…」

 主人公はミラに何もしないまま部屋を出た。ミラも「待て! いますぐここで――」と叫び止めようとするも声も速さも足りず取り逃してしまう。

 ミラは、どうしてこうなってしまったのだろうかと…昔のことを考えながら嘆くのであった。

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傀儡の王VS討伐隊 黒白 黎 @KurosihiroRei

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