第6話 託される
「…裕太、魔法は使い方によって自分のみならず、周りの人も幸福にすることができる。我が家には代々伝わる『魔法の教書』がある。それをお前に授ける。またお前の魔法修練をサポートする先生も用意した。お前が魔法を学びたいと思うなら、この私からのメッセージが終わった後に「先生」と呼んでみろ。ただ…魔法は使い方を間違えると自分のみならず周りの人を不幸にする危険もある。また魔法を使うという事は、今、世界に魔法使いが何人いるか分からないが、他の魔法使いに自分の存在を知らせてしまう事にもなる。しかしそういった魔法使いとの接触が何をもたらすかも分からない。当然お前には魔法使いにはならないという選択肢もある。その場合はこのメッセージをお前の胸の中にしまってこの部屋を立ち去るがよい…」
じいちゃんの言葉が途切れた。見るとじいちゃんが鏡の中から手を差し伸べながら静かに微笑んでいた。
「…お前の肩に重い荷物を背負わせる事を許してくれ…」
「待ってくれじいちゃん!」そう言いながら僕も右手を差し出した。鏡面で二人の手が重なる。
「…ありがとう裕太、お前を心から愛している。」
鏡がまた青白く光ったと思うと、鏡はただ私だけを映していた。
しばらくはあまりに急な人生の展開に、頭が真っ白になって何も考えることが出来なかった。しかし時間が経つにつれて、じいちゃんのメッセージを頭の中で反芻し始めた。そして託された魔法を受け継ぐか絶やすかの選択に移った。
しかし判断するにもまだ自分が魔法を使えるわけじゃないので、じいちゃんの言った『魔法をどう使うか』という事は分からなかった。最後には自分が魔法を学びたいかそうじゃないかで判断するしかないと覚悟を決めた。そしてそうなると自分の中には魔法を学んでみたいという好奇心が大きく膨らんでいた。またじいちゃんの気持ちにも答えたかった。父の顔が一瞬頭に浮かんだが、僕は静かに決断した。
気が付くと既に外は真っ暗だった。僕は部屋の照明のスイッチを入れた。「ニャー」と猫の鳴き声がした。「わっ」と驚いて見ると、部屋の入り口に三毛猫が佇んでいた。よくよく考えると以前この家に遊びに来た時に時々現れた野良猫だった。じいちゃんは確か名前を付けて現れると構っていたはずだ。しばらくその猫を見ていたが、逃げるでもなく入ってくるでもなく入り口に佇み続けた。
僕はやらなければならないことがあった。魔法を学ぶ決心をした意思表示、誰が現れるか分からないが「先生」を呼ばなければならない。私は呼吸を整えると静かにその言葉を発した。
「先生」
「まずその優柔不断な性格を治さねばなるまい。」
僕は声のする方を見て後ずさった、明らかに三毛猫から声が発せられたと思えたからだ。
「賢司さんからあれだけ魔法の話をされて今更わたくしめが話すことに驚いているのですか?優柔不断な上に飲み込みも悪い。これは先が思いやられる。」
三毛猫はそう言いながら右手で顔を撫で回した。僕は恐る恐る三毛猫に話しかけた。
「あの…猫に魔法が教えられるのですか?…」
三毛猫は顔を撫でるのを止めるとこちらを睨んで言った。
「まず私に話しかける時は「先生」と呼びなさい。それにあなたは賢司さんの話を聞いていなかったのですか?「魔法の教書」があると言っていたろう?魔法はあくまでもお前が託された「魔法の教書」から独学で学ぶのだ。わたくしめの役目は家庭教師のようなものだ、お前が困った時にありがたい助言をくれてやる。」
私は猫に対してどう話を展開すればいいのか分からず口をぱくぱくするばかりだった。
「裕太、天井を見てみろ。」
僕は天井を見た。格子状に木の天井板が組み合わさった普通の天井だった。
「入口の上の角から右側に6枚め、手前側4枚めの天井板を上げてみろ。」
僕はどう考えても背が届かず、戸惑いながら天井と猫を交互に見た。
「魔法でもなんでもない、そこの机をその天井板の真下まで持っていって机の上に上がれば届くだろう!」
「先生」は人の言葉で指示した後〝フーッ〟と猫の動作で苛立ちを表した。僕はいそいそとじいちゃんの机を移動させると机の上に乗って「先生」に指示された天井板に手をかけると静かに押し上げた。天井板は押し上げるままずらすことが出来た。僕がぽっかり空いた天井に頭を突っ込むと、すぐに透明なビニールでピッチリと巻かれた本を見つけた。手を伸ばして持つとずっしりと重かった。足元にその本を置くと、僕はずらした天井板を戻して机から降りると天井裏から下ろした本をまじまじと見た。
この本が予想を遥かに越えた運命の激流の中に、私を
終わり
ワイナミョイネンの系譜 内藤 まさのり @masanori-1001
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