第10話
「そういえばスマ彦、お前知ってた? あれ双子なんだって」
昼飯時、勝手に俺の机に弁当を広げたクラスメイトにたずねる。
スマホ片手に箸を使っていたスマ彦は、俺の一言でぴたりと動きを止めた。なにか恐ろしいものでも見るかのような目をする。
「お、おい、やめろよ……言うなよそれ」
「なに? どういうこと?」
噂好きのこいつのことだ。口ぶりからするに知ってはいるらしい。
それにしても妙だ。これまで何度かタチバナミキの話をすることはあったが、一度も双子というワードが出てきた記憶がない。俺が適当に聞き流している可能性はあるが。
「言ってたっけ? 双子のことなんて」
「や、やめろお前、それ以上は……」
ふざけているのか変なノリで返してくる。
俺は購買で買ったパンのゴミを手元で丸めた。振りかぶって投げつける仕草をする。
「なんなんだよそれうぜえな、ゴミぶつけんぞ」
「待て待てキレんなよノリわりいなお前。いや実はオレもよく知らないんだけど、なんかそういうネタ? あの双子の片割れには触れてはいけないっていう」
「なんで?」
「いやだから知らないって」
詳しい理由はわからないがそういう扱いらしい。嫌われているのか。
スマ彦の口ぶりからするに、あの変な集まりが実は公になっていてタブー視されている、とかそういうわけでもないらしい。
「そんなんでいいのか自称事情通のスマ彦くん」
「あのお姫様の周辺って、結構血の気の多い奴らいるじゃん? 変に嗅ぎ回って、お前も狙ってんのかよみたいになるとめんどいなって」
ミキ姫の取り巻き同士でピリピリしているのは俺もよく知るところだ。あっちもあっちでうかつなことをすると危険。
スマ彦情報によると、俺たちより一学年上の二年生。姉が立華美姫(たちばなみき)。妹が立華優姫(たちばなゆき)。それで姫だ姫だと周りがもてはやしているらしい。
「中学時代から有名だったらしいけどな。ふたりともソフトテニス? やってて、双子ダブルスでかなり強かったとか」
「へー。相手はまぎらわしいだろうな。今もやってんの?」
「やってない。それどころか今は仲悪いらしいが」
学校で話したり一緒にいるところを誰も見たことがないという。
仲良しでいつも一緒、とかなら、俺も変な思い違いをしないですんだのだが。
「名前も似てるしややこしいわ」
「まぁ一年は双子だって知らんやついるかもなぁ。てか急にどうしたんだよ、もしかして本物のほうが無理だからってそっちいこうとしてる? やめといたほうがいいぞ」
「本物ってなんだよ。そうは言うけど見た目はほとんどかわらんだろ」
「いやほら、妹は負のオーラ発してて、声かけづらい感じ? あの姉と比較すると、なんかヤバそうってなるんじゃねーの。よくしらんけど闇深そう」
実際周りも「よく知らんけどなんかヤバそう」という評価なのかもしれない。
よくよく思えば普段からあんな調子なら嫌われるか。男女問わず。同性にも敵が多そう。
昼飯を終えた俺は、ゴミを捨てに席を立つ。
スマ彦は半分スマホ半分飯で食うのがやたら遅い。俺が席に戻ると、片手でスマホに指を這わせながら、机の横にかかった俺のカバンに箸の先を向けた。
「お前カバンの中にケータイ入ってる? ブーブーいってたぞ」
カバンからスマホを取り出す。
ポップアップした通知を見ると、相手はYuki。また着信があったようだ。
その矢先に手元でスマホが震えて、メッセージを受け取った。
『中庭きて』
『いますぐ』
このちょびちょび短文で送ってくるやつは苦手だ。
リアルタイムでせかされている感がすごい。
「なんなんだよ……」
「ん? どうした?」
「ちょっと出てくる」
不思議そうな顔をしたスマ彦を置いて、俺は教室を出た。
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