話の通じない人
尾八原ジュージ
話の通じない人
深夜、無人のトンネルで写真を撮った。
誰もいなかったはずのトンネルの真ん中に、コートを着た長い髪の女が写った。あまりにくっきりと、ごく普通の人間のように写っているので、誰に見せても心霊写真だと思わない。むしろ「よく撮れている」などと褒められて、うっかりいい気分になった。
普通の写真の体でSNSに投稿すると、思いがけないほど好評である。やはり悪い気はしない。
浮かれていると、知らないアカウントからリプライが届いた。
『写っている女性が、行方不明になった私の母によく似ています。母をご存知なのですか?』
まさか。
仮にこの人の話が本当だとして、そんな人物など知るよしもない。しかし今更「実はこれは心霊写真で、写っているのは幽霊なんです」と真実を伝えたところで到底信用されないだろう。バカにされたと思うかもしれない。
『この女性には、お子さんはいないそうです。他人の空似ではないでしょうか?』
そう返信した。しかし、話が通じない。
『そんなことを言って、母を隠しているんじゃないですか? 母を返してください』
そう言い出して、まるで話が通じなくなった。
何を言っても『母を返してください』の一点張り。ブロックしても新しいアカウントを作って絡んでくる。
例の写真の投稿を削除し、自分のアカウントに鍵をかけてみる。すると突然『母を返してください』と電話がかかってきた。
すぐに切ったが背筋が凍った。一体どうやって電話番号を知ったのだろう。
怖くなってアカウント自体を削除したが、残念ながら手遅れだったらしい。今日はベッドの下から「母を返してください」と延々繰り返す声を聞きながら、この文章を書いている。
話の通じない人 尾八原ジュージ @zi-yon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます