第二章 北海道編
第39話 無人島
三か月が経った。
相変わらず俺たちはダンジョンの攻略を進めており、レベルも着実に上がっている。
魔法隊にも新入隊員が60人以上加入し、さらに賑やかになった。なんと海外の探索者もスカウトしていたようで、アメリカやヨーロッパ諸国から数人が入隊していた。日本語もペラペラの優秀な人材である。
だが、ダンジョン攻略も今日で終わりになる。
もちろん、異世界にはまだ行かない。ダンジョン攻略が今日で終わるには理由があった。
これ以上、強いモンスターが出せなくなったのだ。
フランソワさん曰く、魔法隊基地のダンジョンに割く魔素の量が多すぎて、他のダンジョンがモンスター不足に陥っているらしい。
それなら地上のモンスターの分をダンジョンに回してくれと伝えたが、ダンジョンと地上のモンスターは別物だという話だった。
ただ、レベルは可能な限り上げておきたい。そう考えた俺は現在環境保護地区に指定されている無人島、北海道に地上のモンスター全てを集めてくれと頼んだのだ。
ダンジョンで生計を立てている人たちがいる中で、魔法隊が独占するわけにはいかないからな。
フランソワさんもそれくらいなら出来るということで、俺たちはダンジョンから北海道に戦場を変えることになった。
ダンジョン攻略から帰ってきた俺たち魔法隊は基地を離れ、遠く離れた北海道で暮らす準備を進めているところだった。
「なんか旅行に行くみたいで楽しみだね」
王子は呑気にそんなことを口にした。
「そんな軽いノリで行くもんじゃないけどな。地上のモンスターは弱いけど相当な数のモンスターが北海道にいるはずだぞ」
「その分レベルが上げやすいってことでしょ? 良いことづくめだと思うけどなあ」
「大昔は人気の観光地だったらしいけどな。今はただの無人島だし、旅行というよりはキャンプだろ」
俺と王子はそんなことを話しながら物資を空間魔法に収納していく。
隊長の話によると今日の夜に飛行機で東北まで向かい、明日の朝には船で北海道に向かうとのことだった。
昔、函館と呼ばれていた地域に仮設基地を作るので、俺は基地内の物資をすべて運び出さなくてはならなかった。
レベルが上がって新魔法を習得する隊員が多いのに、未だに空間魔法使いは俺だけである。仕事の割合が絶対平等じゃない気がするんだよな……。
「よし、ひとまずここは終わりだね」
「あと倉庫3棟分もあるのか……? ドロップアイテムも結構余ってるよな?」
「みんな最新の素材で装備を作ってもらえるからね。古い素材はどうしても余っちゃうよ……財閥に売っちゃえば?」
「俺の独断で勝手に売れないだろ。そもそも俺、あいつら嫌いだし」
神宮司財閥はダンジョン関係の仕事で大幅な利益を出しているらしい。わざわざ儲かってるやつらに売ってやる義理も無い。
「じゃあ魔法隊モデルとして格安で販売したら? 素材を使わないのも勿体ないだろうし、探索者たちは喜ぶでしょ?」
「……それ、めっちゃいいな。防具くらいなら特に問題も起きないだろうし、なんせ隊員も増えて予算が足りないからな。隊長に相談してみるよ」
今までなんで思いつかなかったのか不思議なくらいだ。まあ、ダンジョン攻略以外に考えることも無かったから仕方ないかもしれないが……。
「急いで他の倉庫もやっちゃうか」
俺と王子は、その後1時間かけて物資の収納を終えたのだった。
◇◇◇
「おお! 意外と建物が残ってるんだね!」
場所は変わって北海道である。
船から見える景色に、王子はとても感激していた。
「でもあれ、全部廃墟だぞ?」
「大昔はあそこにたくさん人が住んでいたんでしょ? そう考えるとなんか感慨深いよね」
王子は昔函館と呼ばれていた町の景色に釘付けだった。
確かに今では見られない建築様式の建物が多い。東京は高さのあるビルばかりだが、函館はかなり低い建物が多かった。
「ありゃ? 港にモンスターが何体かいるな」
船をつけようとした港には、小型のモンスターが多くうろついている。
正直、魔法隊の敵ではないので問題は無いだろう。
「みんなー、もうすぐ到着するが近くのモンスターを早めに片付けてくれ。この辺りを魔法隊の基地にする」
隊長は船の放送を使い、そう指示をした。
「今度は王子たちの仕事が控えてるな」
「任せておいて。周りの景観に合うようなおしゃれな基地に仕上げてみせるよ!」
俺が物資を運ばなければならないのと同じように、王子のよう大地魔法や土魔法を使える隊員は基地の建築をしなければならない。
俺も基地が出来上がるまでは何もできないので、近くのモンスターの討伐に加わった。
そうして2時間が経った頃。基地の建築を担当していた隊員から一段落ついたと連絡が入り、討伐に参加していた俺は再び港の方に戻った。
港に戻ると、そこには驚きの光景が広がっていた。
「すげえ……あっという間に綺麗な町並みになったな……」
「すごいでしょ! せっかくレンガで作られた建物もあるし、それを再利用したんだ! もちろん、倒壊しないように補強も入れてるから心配しないで」
王子たち建築担当組は大昔の建物を再利用し、レトロな倉庫を作り出していた。
今どき、レンガで作られた建物なんてほとんど残っていないから希少である。世界が平和になったら観光地になりそうだな。
「倉庫の向かいにあるのはなんだ?」
俺は倉庫の向かいにある建物に目を向けた。赤レンガの倉庫とは違い、新品同様の素材で作られている。
「あれは銭湯だよ。元の建物は老朽化が酷かったから、あくまで形だけ再現ってレベルだけどね。まだ魔法具は設置してないからあとで設置しておいてよ」
「銭湯にしては大きすぎるんじゃないか?」
「魔石もたくさん余ってるしいいじゃないか。ダンジョン生活も終わったんだし、地上ならではの娯楽が欲しいじゃないか?」
「それもそうだが……」
銭湯用の魔法具作るの俺なんだぞ? この後倉庫の搬入作業も控えてるんだけど……?
一応内装を見に行ったが、浴槽が6つもあるしサウナのスペースまで作ってやがった。
仕事が早いのが逆に恨めしくなってくる。
「代わりにあとで搬入手伝えよな」
「もちろんさ! それじゃあ事務所に行こうか」
銭湯の内装を見終わり、俺と王子はようやく事務所に向かうことになった。
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