第40話 基地
「さあ、ここが事務所になるよ」
「……広すぎじゃないか? それになんで平屋?」
俺の目の前にはだだっ広い平屋の建物が建っている。東京の基地の事務所は2階建てに改装したくせに、ここににて平家にする理由がよくわからなかった。
「この辺にビルが建ってたんだけど、老朽化が酷かったんだ。それに、せっかく自然が豊かな場所なのに高いビルが建ってたら台無しでしょ?」
「その辺もお前の好みなんだな……」
自分の立場を利用して好き放題してやがるな、こいつ。
「その分他の老朽化した建物も取り壊すよう隊長に言われちゃったんだよね。僕、しばらく休めそうにないかも」
「好き放題する分きっちり働けってことだろ。環境保全に尽力できて良かったな」
さすがにこのバカ王子を放っておくほど隊長は甘くなかったようだ。ざまあみろ。
「まあ、自然は好きだから頑張るよ。そしたらとりあえず倉庫の搬入作業やっちゃう? 宿舎はあとで紹介しようと思ってたんだけど」
「そうだな……早めにやらないと終わらないし気合い入れるか」
そうして、俺と王子は赤レンガで作られた倉庫に物資の搬入をすることにした。
倉庫に向かい、空間魔法に収容していた物資を丁寧に搬入し、それぞれ食料や備品ごとに分けていく。
その作業が完全に終わったのは4時間が経った頃だった。
「づかれだあああああ」
作業を終えた俺は倉庫の床に大の字で倒れ込んだ。
物を収納するのには何も考えずポイポイ空間魔法に突っ込んでいけば良いのだが、逆に物を出すのはそうもいかない。出した後、棚などに手作業でしまっていく必要があるからだ。
肉体的には全然平気なのだが、精神的にかなり疲れる。
「拓也、疲れてるところ悪いんだけどさ……何か忘れてない?」
「銭湯だろ? 分かってるって……」
王子には一応搬入作業を手伝ってもらったし、俺も今は風呂に浸かりたい。
そうして、俺は足りない魔法具を新たに作り銭湯の整備に向かうのだった。
◇◇◇
「はあ……癒される……」
「風呂って最高だね……」
銭湯に魔法具を設置し、俺たちは一足先に浴槽に浸っていた。魔法具の試運転という名目である。
「今日の夜から本格的にモンスターの討伐だよな?」
「そうだね。モンスターの量はどうなの?」
「量は尋常じゃないな。ただ、全然強くないから適当にライフルをぶっ放せば良いだけだ」
「……やっぱり世界中のモンスターを北海道だけにっていうのは厳しかったんじゃない? 日本だけとかにした方が良かったでしょ」
モンスターの量が多いことを聞いた王子は呆れた表情を浮かべそう言った。
しかし、俺は考えを改める気などさらさら無い。魔法隊が独占できる戦場なのだ。
それに、他の探索者はダンジョンだけでも生活できる。地上のモンスターくらい頂戴してもそれほど文句は言われまい。
「魔法隊はレベルを上げまくらないといけないからな。むしろモンスターがいればいるほどありがたい」
「まあ、モンスターの取り合いになることは無いだろうね」
「量が多い分、毎日マガジンを大量生産しないといけないんだけどな」
俺たちがそんなことを話していると、脱衣所の方がなんだか騒がしくなってきた。
どうやら他の隊員も、モンスター討伐から帰ってきたようだ。
「おい、多々良! 俺を先置いてひと風呂浴びるとはいい度胸だな!」
先頭を切って素っ裸で歩いてきたのは、筋肉隆々の暑苦しい大男、立花さんだった。
「俺は倉庫に物資の搬入をしてたんですよ。この銭湯も魔法具の試運転ですから」
「それは建前だろう?」
「あ、バレました?」
そうして、大浴場はすぐに多くの隊員で埋め尽くされることになった。
意外とサウナが大好評で、俺も何度か入ったがかなり凝った内装になっていた。そこまで張り切らなくても良かったんじゃないかと思うんだけどな。
あまり長風呂をするとのぼせてしまうので、俺は先に上がって魔法具の作成をすることにした。
王子も一旦宿舎に戻るということだったので、俺は自室で作業することにした。
外に出ると、丁度同じタイミングで銭湯から鈴石と妹の千詠が出てきた。
「あ、お兄ちゃん」
「おう、お疲れ。お前らの討伐っていつからなんだ?」
「深夜0時の討伐に割り振られているんだよね。これから部屋に戻って休むところ」
鈴石を隊長とする部隊は、今日の深夜から駆り出されるらしい。ご愁傷さまだな。俺の部隊は明日の6時から討伐に参加するから、ゆっくり休める。
「じゃあ、みんなで一緒に宿舎に行こうか」
王子は俺たちにそう声を掛けて、宿舎の方へ歩いて行った。
「そういや宿舎ってもう見に行ったか?」
「外観だけしか見てないわ。ただ……王子が張り切ったんだな、って一目で分かったわよ」
「そりゃ……楽しみってより心配の方が勝つんだが」
とんでもない宿舎を作ってしまったのではないかと、俺は一抹の不安を抱えて王子についていった。
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