第37話 希望

「たくや? 大丈夫?」


 目を覚ますと、沙織がしゃがんでいる俺の背中をさすりながら声を掛けていた。


「ああ、大丈夫だ。フランソワさんに呼ばれててさ」


「……誰だっけ?」


「神様だよ。忘れちゃダメだろ……」


 沙織は少し忘れっぽい節がある。せめて神様の名前くらいは憶えていて欲しい。


「隊長、何かありましたか」


 俺の様子を見て、南さんが心配そうにそう尋ねてきた。傍から見たら、めまいで体調を崩した人だからな。心配するのも無理はない。


「ああ、大丈夫だ。例の神様に呼び出しされてたんだよ」


「何か悪い事でも……?」


「いいや。むしろいいことだよ。ま、帰って話すよ」


 こうして、アイガス教との戦いは魔法隊の圧倒的な勝利で幕を閉じた。

 アイガス、お前に会うのももうすぐだ。




  ◇◇◇




「……ということで、アイガスは一旦手を引きましたとさ、チャンチャン」


「ま、そういうことらしい。これで私たちはダンジョン攻略に集中できるというわけだ」


 魔法隊の事務所で、俺はフランソワさんから聞いた話を説明した。

 魔法隊に入隊するのは、異世界に行くことも了承している人たちなので神様の話をしても問題ない。もちろん、世に出回ることのない秘密情報ではあるが。


「白銀の騎士団も力をつけ、地上のモンスターは彼らに任せていても今のところ心配はない。私たちは私たちの仕事をしよう。とりあえず今日の午前中は休養を挟む。その後、ダンジョンボスの討伐までは帰ってこれないと考えてくれ。以上」


「「「了解!」」」


 さすがに攻略から帰ってきた後にアイガス教の殲滅はしんどかった。帰りの移送車の中でみんな寝てたもん。


 そうして、俺たち魔法隊は昼までぐっすり休むことになった。

 

 俺は出発1時間前に起き、食材や魔法具の素材を空間魔法で収納する作業に明け暮れていた。

 基地の倉庫内で寝起きの体に鞭を討つように働いていると、倉庫の入口に人影があるのが見えた。


 第二部隊隊長、鈴石である。


「どうした? 何か用か?」


「まだ作業終わらない? ちょっと見てほしいものがあって」


「ああ、ちょっと待っててくれ。あと2、3分で終わる」


 用があるという鈴石を待たせるのも悪いので、俺は速攻で作業を終わらせる。ちんたらやってたら何を言われるか分かったものじゃないからな。


 そうして作業を終わらせると、見せたいのは情報番組だということだったので、俺たちは事務所へと歩いて向かった。

 事務所に入ると、すでに隊員の何人かが情報番組の映し出されるモニターに釘付けだった。


『今まで多くが謎に包まれていた魔法隊ですが、昨日起きたアイガス教によるテロを瞬時に制圧したことが話題となっており……』


 情報番組は昨日の事件の特集で魔法隊を取り上げていた。なぜか超巨大モンスターとの戦闘も映像が残っており、しっかり俺の顔も映っている。


『ここで魔法隊に対する都民の声を聞いていきましょう』


『――俺、探索者として活動しているんですけど、前にアイガス教に襲われた時にもすぐに助けてくれて……そこから、魔法隊が俺の希望です』


『騎士団が危ない時に助けてくれる……真のヒーローは魔法隊なんだな、と思いました』


『一部の探索者は利益を優先していますが、彼らは違う。そう思える不思議なカリスマ性があるんだと思います』


 その他諸々、魔法隊に対する応援メッセージが届いていた。中には騎士団の探索者のコメントも見受けられた。正直、世間からは地上のモンスター討伐に参加しない臆病者などと毛嫌いされていると思っていたが、そうではないらしい。


「騎士団の探索者を助けてるのも大きいんじゃない?」


「そうかもな……でも、なんでこれを俺に?」


 いちいち俺に見せる報道ではないと感じてしまった。世間によく思われているって口頭で説明してくれても良かったと思うんだが。


 その俺の考えを読んだように、鈴石は俺に向き合って話し始めた。


「あんた、邪神はメアリちゃんの仇だー、とか思ってるんでしょ? それが一番大事なのは変えなくてもいい。それでも、こうやって応援してくれる人たちのためにも戦ってる……そう考えるのも、悪くはないんじゃない?」


「そう、だな。それも大事か」


「あんた、どっかで無理しそうで心配なのよ……私たちの荷物持ち担当だし」


「心配してくれて嬉しいと思った俺の純粋な気持ちを返せ!!」


 結局荷物持ちの心配かよ! 最後の一言がすごく余計だよ!


「ハハハ! 拓也たちはいつになっても変わらないね」


「「こいつのせい(よ)だ!」」


 俺と鈴石のやり取りをみて、王子は大笑いしていた。


 俺と鈴石は怒ってプイっと外を向いたが、事務所にいた隊員たちは楽しそうに笑っていた。

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