第36話 必勝

「やばそうだなー」


 俺は現れた超巨大モンスターを見てそう呟いた。まるで恐竜である。


「たくや、どうする?」


「氷結魔法でこの辺に大きい壁作ってくれるか? なるべく分厚くて硬い奴。射撃の穴も忘れるなよ?」


「わかったー」


 沙織はそうして氷結魔法の発動を始めた。


「他の部隊はどうなってる?」


「他の部隊も幹部クラスを倒した後に現れた大型モンスターの討伐にあたっているそうです」


 俺の問いかけに、南さんはそう即答した。すでに他の部隊と連絡を取り合っていたみたいだ。仕事が早くて助かる。


「じゃあ、これも俺たちだけで討伐か……堅そうだよな」


「たくや、できたよー」


「おっけー。移動されるだけで大災害だから、パパっと仕留めちゃおう」


 そうして、俺は空間魔法を発動しスナイパーライフル型の魔法具とマガジンを人数分取り出す。


「よし、各員配置に着け―。向かって右側の脚を集中攻撃するからな」


「「了解!」」


 そうして俺も配置に着く。うつ伏せになり、スコープを覗き込む。

 図体がでかいおかげで、ただの的にしか見えないな……。


「……よし、撃て!!!」


 俺のその合図で、隊員たちは引き金を引いた。

 まるで爆弾が爆発したかのような銃撃音と共に、モンスターの脚に銃弾が向かう。

 着弾と同時に、周囲は真昼間のように明るくなる。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアンン!!!


「すっげえ爆風……」


 いやあ、沙織に壁を作ってもらわないと厳しかったなあ。

 

『グオオオオオオオオォォォォォ!!!』


 攻撃を受けた大型モンスターは断末魔のような咆哮を上げる。

 すでに左脚の先は消し飛んでおり、体勢を大きく崩している。


「次、反対の脚!!」


 再び隊員たちは引き金を引く。

 そこからは一方的な戦況だった。俺たちはマガジンを交換しつつ、攻撃の手を止めることは無かった。


 5分後、モンスターはピクリとも動かなくなった。しかし、様子がおかしい。普通のモンスターであればドロップアイテムを落として消えるはずなのに、いつまで経ってもそこに存在し続けた。


「里沙ー? もしかしてこれ、まだ生きてるー?」


「いえ……生命反応は無くなっています……。これ、このまま消えないとなったら厄介ですよ?」


 一応探知魔法で確認してもらったが死んでいるらしい。なのに消えない。なんでだよ!


 そこで、隊長から連絡が入る。


『多々良くん、無事か?』


「ええ、ピンピンしてます。ところで隊長、そっちのモンスター消えました?」


『それが、いつまで経っても……って、そっちもか?』


「そうなんですよー。ちょっとしたビルが道路に倒れてるみたいなものですよ、これ」


『まあ、消えないなら喜んで回収する奴がいるだろう?』


 え? いたかなそんな変わり者……あ。


「神宮司財閥、大喜びですね」


『そういうことだ。まあ、その手配は私がやっておく。アイガス教の幹部は全部殲滅が終わったみたいだが、一応近日中は厳戒態勢になる。気を付けてくれよ?』


「了解です」


 そこで俺は電話を切る。


「他も同じ状況だそうだが、神宮司財閥が後日回収に来るそうだ」


 俺は隊員に状況を説明し、その場から撤収しようとした。

 その時、俺を激しいめまいが襲い、徐々に目の前が真っ暗になっていく。あ、これ、懐かしい奴だ……。


 俺の意識は、闇に沈んでいった。



  ◇◇◇




「久しぶりね、多々良くん」


「フランソワさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」


 俺は真っ白な部屋にやってきていた。天界というところだ。


「誰かさんのせいでとっても忙しいんだから。それは置いといて……あなたにいい話があるのよ」


「良い話?」


「ほら、さっきアイガスの息がかかった奴らをぼっこぼこにしてくれたでしょう? それに怯えたのか、あなたの世界からアイガスが手を引いたのよ」


 俺はその話を聞いて目を見開いた。アイガスが手を引いた? 邪神とも呼ばれる奴が?


「それって……?」


「あなたたちは確実に、力を付けている。邪神を倒せるような力が手に入るのも、もうすぐよ」


「仇を、討てますね……」


 俺はそうして、メアリの顔を思い浮かべる。お前の置き土産は確実に役に立ってるぞ。


「今、邪神の世界は人類滅亡の危機に直面しているわ。ただ、あなたたちのおかげで慎重になっている。他の世界でも勇者を選別しているし、あと半年もすれば準備が整う」


「まあ、俺たちは今までと変わらずレベルを上げますよ。それしかできないですし」


「期待しているわ。あなたたち魔法隊は、全世界の希望だからね」


 そう言ってフランソワさんはにっこり微笑んだ。


「笑ってたほうが綺麗ですよ」


「ば、馬鹿にしないでさっさと帰って! 私、こう見えて忙しいんだから!」


 そうして、周りは黒い煙に包まれる。最後にみえたフランソワさんはやっぱり笑っていた。




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