第35話 再会
「今回も疲れたな……」
ダンジョン攻略が終わり、最近改装された魔法隊の事務所で俺はそう呟いた。
最初の新入隊員が入隊してから2か月が経った。その後も少しずつではあるが新入隊員が現れている。隊長が根気よくスカウトしているようだった。
「はい、どうぞ」
「ん? ああ、ありがとう」
俺がソファに浅く腰を掛けて、姿勢悪く座っていると沙織がクッキーの詰め合わせを持ってきた。
「疲れてるときは甘いもの」
「それだと沙織は常に疲れていることにならないか……?」
お前、お菓子食べていないときの方が少ないだろ。
そんなことを考えつつ、ぼーっとダンジョン攻略の疲れを癒していると、事務所内に『ビー!ビー!』という警報がけたたましく鳴り響いた。
「おいおい……帰って休めないのか?」
「わたしも帰りたい……」
警報の原因が分からないのでそのまま待っていると、事務所中央のモニターにとある映像が映し出された。
それは情報番組のようなものだったが、アナウンサーが焦った表情で紹介しているのはモンスターではなかった。
真っ黒なローブに身を包み、深くフードをかぶっていて顔が見えないが間違いなくアイガス教のやつらだった。
「最悪だよ……」
情報番組によるとすでにアイガス教のやつらは探索者に攻撃を仕掛けているらしい。休んでる暇はなさそうだな。
「総員戦闘準備! 3部隊に分かれてアイガス教の対応にあたる!」
事務所の2階から下りてきた隊長のその言葉で、俺たち魔法隊は緊急出動の準備をした。
今度こそ、完全に殲滅してやる。
◇◇◇
「本来魔法や魔法具の攻撃は人に向けてはいけないんだが、今回は特別だ。やらなきゃ殺されると思って戦闘に臨んでくれ」
俺は現場に移動する移送車の中で、隊員たちにそう説明した。
俺のその言葉を聞き、隊員たちに一層緊張が走るのを感じられた。
以前の戦いでは、アイガス教の幹部がなぜか撤退していった。正直、あのまま戦っていては誰かがやられていたかもしれない。今回はそのリベンジも兼ねている。
そうして俺たちの移送車が走ること20分。基地から30キロメートルほど離れた現場に到着した。
ここは白銀の騎士団が対応にあたっているようだったが、その戦況はかなり悪い。
すでに何人かは地面に伏しており、救助活動も必要そうだった。
「くそっ……! 大当たりかよ……!」
俺は移送車を降りたとき、悪態をつくようにそう呟いた。
目の前で騎士団を相手取っていたのは、飛翔魔法を器用に操るアイガス教の少女だったからだ。
「転移魔法に注意しろ! 里沙! 常に探知魔法でやつの存在を追っておけ!」
「了解!」
「他の隊員は総攻撃だ!」
俺のその言葉を合図に、魔法隊の攻撃は始まった。
魔法隊が戦い始めて隙が出来たため、騎士団は自分たちでケガ人を戦場から移動させていた。
「……! 後ろです!」
「よいしょっと……!」
里沙が転移魔法で移動してきた少女を察知し、沙織が氷結魔法を全力で放つ。
5メートルを超える氷の刃がすごいスピードで地面からせり上がり、アイガス教の少女の顔には焦りが見えた。
「え? うそ?」
戦場で焦りは隙につながる。氷の刃を避けるのに体勢を大きく崩した少女に向け、俺は落ち着いてライフルの引き金を引いた。
ドドドド、というけたたましい銃声と共に発射されるのは雷属性の弾だ。
彼女の体へと吸い込まれるように飛んでいった弾は、着弾と同時に電撃を走らせる。
「ギャアアアアアアァァァ!!」
断末魔のような叫びをあげた少女は、一旦距離を取るためか転移魔法を使った。
離れた場所で蹲る少女の両足は火傷のようにただれている。
しかし、俺は今更情けを掛けるつもりもない。以前、彼女によって奪い去られた命もある。
「逃がすな! 攻撃を続けろ!」
俺は再び少女に向けて引き金を引く。少女は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら飛翔魔法で飛び上がったが、そこには先ほどまでの機敏さが見て取れない。
「井田、行け」
「了解」
入隊当初後衛だった井田は、現在前衛に配置転換になった。
その理由は新たに取得した魔法にある。
今まで横にいたはずの井田は、飛翔魔法で逃げ惑う少女の後ろに現れる。
「転移魔法はお前の専売特許じゃないんだよ」
レベルを上げまくっている魔法隊は、魔力も増えたことから魔法が使いたい放題になっていた。
そうして、井田の迅雷魔法が放たれる。
まるで落雷のような激しい音と共に放たれた魔法は、少女の命を刈り取るには十分だった。
ドサ、と地面に叩きつけられた少女はピクリとも動かない。
「井田、よくやった! よし、次の現場に行くぞ」
俺は大仕事を終えた井足労いの言葉を掛けて、移送車に向けて歩き始めた。
しかし、探知魔法の使い手である里沙の言葉が俺の足を止めた。
「多々良隊長! 何か変です!」
里沙のその言葉と共に、アイガス教の少女の体から黒い靄のようなものが現れる。
その靄はあたりを埋め尽くすほど大きくなっていき、何か良からぬことが起きるのが想像できる。
そうして、靄が一瞬にして晴れたとき俺は目を見開いた。
そこには高さ30メートルはありそうなほどの超巨大モンスターが現れたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます