第32話 我儘 

「新入隊員を集めることにした」


 外出から戻ってきた隊長は、俺たち隊員を全員を集めてそう言った。


「新入隊員って……やっぱり魔法具のことが関係するんですか?」


「ああ、もちろん。レベルを上げる人員をたくさん集めなけれべならないからね。ただ、そんな魔法具を世間に配るわけにもいかない。アイガス教のテロのこともあったしな」


「そうですよね……。もしかして今日の外出はその話で?」


「ああ、すでに何人か目星は付いている。口の堅い奴でなければならないからな」


 隊長はそう言って、隊員の携帯端末に情報ファイルを転送した。今のところ、8人ほどが隊長のお眼鏡にかなっているようだ。中には俺が見知った人物も選ばれていた。


「騎士団の南さんも入隊希望なんですか?」


 情報ファイルには白銀の騎士団の南さんも選ばれていた。しかし、彼は騎士団の探索者をまとめるような立ち位置だったはずだ。現在の待遇が気に入っていないのだろうか?


「ああ、南さんはほぼ入隊確実と言ってもいい。それに加えて彼が信頼を置いている騎士団の探索者も何人か連れてきてくれるそうだ」


「へえ……話がトントン進んでますね……」


 ここまで話がスムーズに進んでいるのは、隊長の努力の賜物だろう。しかも、世間から一目置かれている魔法隊からのスカウトなら飛びつく人が多いのかもしれない。


「隊員が増えることに合わせて、魔法隊の部隊は分けることになると思う。そのあたりは後日連絡するよ」


「了解です」


 そうして、その日は解散となった。

 ただ、俺には隊長に確認しなければならないことがあった。


「隊長、ちょっといいですか?」


「ん? どうした?」


「千詠のことで聞きたいことがあって」


 俺は千詠の入隊について聞いておかなければならなかった。隊長がどう思っているのかも含めてだ。 


「ああ、千詠ちゃんのことか……心配するな。昨日、入隊希望を断っておいた。多々良くんが許すわけがないと思ったからね……」


「……正直、俺は千詠に入隊してほしくは無いんです。状況が変わりすぎた……この先千詠が力を蓄えていったとしても、邪神との戦いは厳しいものになるはずですから」


「そうだな。私も危険だと判断して断ったんだ。君と意見が同じで安心したよ」


 隊長は胸に手を当てホッとした表情を浮かべた。


「……隊長の本心はどうなんですか?」


「え? 本心? さっきも言っただろう? 君の気持ちを優先したいと」


「魔法隊隊長としての本心を聞いているんです。新入隊員を確保しようとは思わなかったんですか?」


 正直、外部の人間よりも俺の家族である千詠の方が信頼に足る人物だと思う。

 俺は隊長が俺に気を遣いすぎて、正しい判断が出来ていないのではないかと考えたのだ。


「……フフ、そんな怖い顔をするな。そうだな、千詠ちゃんがいらないと言えば嘘になる。まだまだ人手不足だからな」


「じゃあ、千詠を入隊させないというのは俺のわがままになっちゃいますね」


「わがままの一つくらいは聞いて見せるよ。何と言ったって君は……人類の希望なんだから」


 その後、隊長から早めに休むように言われた俺は、事務所を後にして仮設住宅に向かった。

 歩いている最中、俺は千詠にどう言い訳したらいいかを考えていた。

 まさか、兄貴のわがままで入隊できないことになってるなんて知られたら、一生口をきいてもらえない可能性もある。


「……死んでほしくないからなあ」


 メアリの話だと、力のあるものは邪神の戦いに向けて異世界に召喚される。そこで邪神を滅ぼせば俺たちの世界は元に戻る。ダメだったら邪神の力に飲み込まれてみんな消えてなくなる。


 邪神を滅ぼせなければ千詠が死んでしまうことに変わりは無いのだが、俺は命に代えても邪神を滅ぼすという覚悟を決めている。


「黙って待ってろ、としか言いようが無いもんな……」


 仮設住宅に向かう間、良い言い訳を思いつくことなかった。

 俺は気持ちを切り替えて玄関のドアを開いた。リビングでは千詠がモニターに映し出されたバラエティ番組を見ていた。


「あ、おかえりお兄ちゃん。ご飯どうする?」


「家で食べるよ。千詠は食ったのか?」


「私もまだなんだよね。今準備しちゃうからちょっと待ってて」


 そう言って千詠は作り置きのおかずなどを温め始めた。魔石式で作り上げたシステムキッチンを千詠は愛用してくれている。

 千詠曰く、災害時には良いものらしい。


 すぐにリビングのテーブルには夕飯が並べられていく。今日は鮭の塩焼きをメインとした和食のメニューだった。


「ありがとう。いただきます」


 俺は用意してもらった夕飯をありがたくいただく。千詠と食卓を囲むのは結構久しぶりだった。


「……家族みんなで夕飯食べたのって、何年前だっけ?」


「どうしたのいきなり? うーんと、お父さんたちが亡くなったのが6年前だよ?」


 6年か。面倒を見てくれていた爺ちゃんも後を追うように1年後に亡くなってしまったし、こうして2人の食卓になってからは5年になるんだな。


 俺は夕飯を食べながら色々なことを考えた。家族のこと。世界のこと。魔法隊の仲間のこと。

 

 考え事をしながら食べる夕飯は味が薄く感じられた。











 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る