第31話 改良
「夢じゃ無かったか」
早朝、俺は見慣れた天井を見ながら目を覚ました。
まだ朝も早いが、そのまま寝付くことができなかったので、俺は基地内を散歩することにした。
正直、メアリのことが頭を離れず夜中になってもあまり寝られなかったので寝不足である。
「休んでる暇は無いよな」
神とは言え、一人の女の子が魂を代償に授けてくれた魔法は時間を惜しまず使っていきたい。
そう考える俺の足は自然と事務所に向かっていた。
「あ、立花さん。おはようございます」
「おう、おはよう。珍しいな、お前がこんなに早い時間に出てくるとは」
事務所の一角で、立花さんはトレーニングを行っていた。朝早くからのトレーニングは立花さんの日課になっている。
「どうだ? お前も一緒に汗を流さんか?」
「ハハハ、遠慮しておきますよ。あまり寝られなかったので、装備の改良を行おうかと思って」
「まあ、お前の腕に人類の未来がかかってるようなものだしな。俺も今まで以上に技術を磨かなければならん」
立花さんはそう言いつつ、普段から愛用している大剣を俺の元に持ってきた。
「ところで立花さん……邪神に、アイガスに勝てると思いますか?」
「そんなこと戦ってみないと分からんだろう? ……まあ、その時後悔しないためにも己を鍛え続けることには変わらん。あの子の仇は絶対に討ってやりたいしな」
「そう……ですよね……」
そのためには俺も黙って見ているわけにはいかないよな。真・創造魔法はみんなのレベルを上げるのにも必要不可欠なものだ。
俺は一息深呼吸し、立花さんの大剣の改良に入った。
真・創造魔法を発動し、より威力の高い大剣を目指す。切れ味を上げる魔石式のストックを入れる部分は変えず、魔力の消費量を上げるイメージ。
すると、大剣は眩しくなるほどの輝きを放ち、光が収まるとそこには真っ白な美しい大剣が出来上がっていた。
「綺麗だな……」
「なんだか使うのがもったいなく感じるな。これで、経験値ボーナスとやらが付くようになるのか?」
「多分……? 一応、空間魔法に入れてみますか」
そうして、俺は空間魔法を発動する。
空間魔法で収納した大剣は、『大剣+』と表示されている。
「プラスっていう表示は今までなかったので、これが多分経験値ボーナスの証なんだと思います」
「おう、それならばっちりだな」
大剣を受け取った立花さんは嬉しそうにそう言った。強くなれるのが嬉しいのかもしれないな。
「よし、作業を続けるか」
俺は、隊員が使う武器から改良を進めていくことにした。
◇◇◇
「うわ……もしかして魔力切れか……?」
装備の改良も終わり、俺はライフル型魔法具を作成していた。しかし、2丁ほどライフルを作成したところで、まるで二日酔いのような気持ち悪さと激しいめまいに襲われた。
「たくや、大丈夫? 甘いもの食べる?」
すでに事務所には隊員が集まっていたので、俺の様子を見た沙織が心配そうに声を掛けてきた。だが、沙織。なんでも糖分で解決はできないんだぞ?
「ちょっと休ませてもらうわ。そもそも寝不足だしな」
「わかったー」
「ところで隊長は?」
沙織に聞いたが知らないようだったので、俺は外で召喚魔法の練習をしている王子に声を掛けた。
「隊長知らないか?」
「ああ、隊長ならどこかに出かけちゃったよ? 訓練も明日から再開するってさ」
「どこ行ったんだろうな……。まあいいや。俺、ちょっと家で仮眠を取ってくる。事務所に改良した魔法具置いておいたから、使用感を確かめておいてくれ」
王子にそう伝え、俺は家に戻ることになった。
家についてリビングに入ると、妹の千詠はすでに起きて朝食を食べていた。
「あれ、お兄ちゃん。ずいぶん早く出て行ったみたいだけど、なにか忘れ物?」
「いや、仮眠しに来ただけだ。今日は訓練もないそうだし」
「そうなんだ。ところでお兄ちゃん、ちょっと元気になった?」
「ん? 俺は元々元気だぞ?」
俺がそう伝えると、千詠は頬を膨らませて機嫌の悪そうな顔をした。
「なんで怒るんだよ……」
「お兄ちゃん、昨日死にそうな顔で帰ってきたから心配してあげたのに。昨日、隊長さんが会いに来た時もすごい落ち込んでたし……」
「は? 隊長がお前に会いに来たのか? なんで?」
隊長が千詠に会いに来る用件など思いつかない。千詠が何かやらかしたのだろうか?
そう考える俺の表情を汲み取ったのか、千詠は説明を始めた。
「お兄ちゃんには言ってなかったけど、私、魔法隊に入る予定なの」
「はあっ!? なんで今更?」
「声が大きいって……。元々隊長さんにも魔法隊に入りたいって言ってあったんだけど、昨日隊長さんが断りに来たんだよ。事情が変わったとか何とかで……何かあったの?」
そうか。隊長はアイガスの話を聞いて、危険だと判断したのかもしれない。そして、その辺はかなりぼかして伝えたようだ。
「別に。俺もお前に危ない目に遭ってほしくないから却下だな。万が一があり得る仕事だし、お前は平和になるまでのんびり暮らしておけばいいんだよ」
「ええー? なんか、私だけ仲間外れみたいじゃん」
「文句ばかり言うなよ。俺はもう寝るから、何かあれば起こしてくれ」
そうして、俺は布団に潜り込んだ。
千詠には入隊を諦めてもらうしかない。唯一の家族を目の前で失うことは考えたくも無いからな。
俺はその日、魔力切れの影響もあり夕方まで深い眠りにつくことになった。
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