第28話 余剰

 東京で起こったテロは、魔法の脅威を再認識させるものとなった。

 アイガス教と名乗っていた者たちは、探索者ギルドの記録上ダンジョンに入ったことは一度もなかったらしい。

 おそらく彼らは、世間に公表されていないダンジョンで力を蓄えてきたのだろう。


 そして、問題となったのが魔力ポーションだ。

 話を聞くと、多くの探索者が魔力ポーションを使う瞬間を目撃していたらしい。

 魔力が無制限になるチートアイテムの存在が分かり、当然ポーションの独占販売を行っている神宮司財閥に白羽の矢が立った。


 しかし、財閥は知らぬ存ぜぬの一点張り。魔力ポーションの真相は闇に葬られてしまった。


「なんだったんだろうな、アイガス教ってのは……」


「未だに生き残ったアイガス教のやつらは消息不明。捕えられたやつらも全員死んだみたいだからね」


 警察が捜査にあたっているらしいが、アイガス教の行方は掴めていない。

 目的は探索者の殲滅と謳っていたが、彼らは同じタイミングで一斉に姿を消してしまった。

 奴らがいつ行動し始めるか分からない今、探索者は気が気じゃないだろう。


「絶望の日まで日にちも無いっていうのに……余計なことしやがって」


「けが人も多かったみたいだからね。東京のダンジョンは人の出入りが少なくなったみたいだよ。中には探索者を引退した人もいるし」


「最初の内は忙しくなるだろうな」


 俺と王子はバラエティ番組を眺めながらそんなことを話していた。




  ◇◇◇




 

 しばらくの間、テロを警戒して日本中に厳戒態勢が敷かれていたが、絶望の日が訪れても彼らが再び姿を現すことは無かった。





  ◇◇◇



 絶望の日が訪れてから1か月が経った。

 探索者が力を蓄えていたおかげか、現れるモンスターに後れを取ることはほとんどなかった。


 メアリの話だと、モンスターのレベルはどんどん上がっていく、ということなので油断はできないが、探索者たちは着々とレベルを上げている。


 白銀の騎士団では、ダンジョンで効率的にレベルを上げる部隊と地上のモンスターを殲滅する部隊に分けているらしい。騎士団の規模も大きくなっており、日本の探索者の8割が騎士団所属という驚くべきデータがある。


 現在、地上のモンスターは騎士団が対応しているので、俺たち魔法隊は基地にあるダンジョンの攻略をメインに進めていた。


「いやあ、あいつ見るの久しぶりだね?」


「前は死にかけたけどな。今回は起きる前にさっさと仕留めよう」


 俺たち魔法隊はすでに何度かダンジョンを攻略していた。その度に出現するモンスターのレベルも上がっていたが、すでに俺たちが苦戦するようなことは無くなっていた。


 そして、久しぶりにボスの階層にたどり着いた俺たちの目の前には、以前死に物狂いで戦った深紅の鱗に身を包むドラゴンが2体眠っていた。つがいだろうか?


「さて、みんな構えてくれ」


「「了解」」


 そして、俺たちは巨大なスナイパーライフル型の魔法具を構える。


「余裕かましすぎたな」


 ぐっすりと眠っている2体のドラゴンに向けて、俺たちは引き金を引いた。

 ドガアアアン、という激しい銃撃音と共に弾が発射されあっという間に着弾したかと思うと、銃弾は紙に針を通すように鱗を貫通する。


 数秒後、ドラゴンの体は大きな爆発に包まれる。


『グギャアアアアアァァァァ!!!』


 2体のドラゴンは断末魔のような咆哮を上げ一度は起き上がったが、すぐにその巨体を地面に伏し塵となって消えてしまった。

 その場には、以前と同じく数枚の赤い鱗と魔石が残るのみだった。


「あっという間だな」


「こんなに簡単だと物足りないわよ。最近、苦戦したことなくない?」


 鈴石はあまりにも呆気ない討伐につまらなそうな表情を浮かべた。


「そういうな早紀。それだけ私たちが強くなっているということだ。むしろいい兆候だろう」


 隊長の言う通りだ。俺たちはダンジョンに挑み続け、前とは比べ物にならないほど強くなっていた。

 ステータスは以下の通りである。


多々良 拓也

レベル:217

魔 法:創造魔法 合成魔法 空間魔法


藤井 菊乃(隊長)

レベル:221

魔 法:火炎魔法 疾風魔法 迅雷魔法 


鈴石 早紀

レベル:232

魔 法:爆炎魔法 身体強化魔法 闇魔法


凪 沙織

レベル:212

魔 法:水魔法 氷結魔法 神聖魔法


永田 ヒカル(王子)

レベル:219

魔 法:大地魔法 探知魔法 召喚魔法 精霊魔法


立花 武志

レベル:220

魔 法:身体強化魔法 転移魔法 


 すでにレベルは200台まで上がっている。新たな魔法を覚えた隊員もいるし、戦術の幅も広がった。

 ただ、俺が作成する魔法具も日に日に威力を増し、今ではドラゴンをワンパンできるほど高性能になっていた。


 普通のライフルでさえ、モンスター相手に一方的な攻撃を仕掛けられるので、最近では攻撃を受けることも無い。

 いつ現れるか分からないアイガス教を殲滅するためにも、俺たちは強くならなければならないのだ。


 そうして、地上に戻ろうとした時、俺たちの周りが目も開けられないほど眩しく輝き始めた。


「なんだ!? 王子、何が起きてる!?」


「探知魔法には何も感じられない!」


 何が起きたか分からないまま、俺の意識は闇に沈んでいった。


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