第29話 現実
「久しぶりだね、みんな」
気がつくと俺は、というより俺たちは白い部屋に転送されていた。
目の前にはニッコリと微笑む自称神様のメアリがいた。
「おい、なんで今回は全員呼び出した?」
「君たちにお願いがあったからさ。アイガス教について説明しなければならないし」
「アイガス教? そりゃまたなんで? あいつらただのテロリスト集団だろ?」
なぜメアリがアイガス教について説明する必要があるのか、俺を含め魔法隊全員が分かっていないようだった。みんなで顔を見合わせて首を傾げてしまう。
「アイガス、っていう神は存在するんだよ」
「はあ? そもそも、アイガス教なんて最近出てきた宗教団体だぞ? 昔からいる神ならともかく、ぽっとでの宗教団体が崇める神がいるとは思えないんだが?」
「少なくとも、つい最近までアイガスの存在は君たちの世界で知られる可能性はゼロだったんだよ。邪神アイガス。それが彼の本当の名前だ」
メアリは深刻な表情を浮かべそう言った。
まさかアイガス教が実在する神を崇めていると思わなかったが……。
「すまない、邪神とはなんだ? 悪い神なのか?」
隊長がアイガスについて詳しい説明を求めた。それもそうだろう。そんな話をいきなりされて、すぐに理解なんてできるはずもなかった。
「人々の憎悪を喰らう悪魔のような奴だ。大昔、別の世界にアイガスは多くの犠牲の上で封印された。君たちの世界でいうと何千億年と昔の話さ。ただ、その封印が少しずつ解かれつつある。封印されている今でも別の世界に干渉できるほどの力を持つ、まさに化け物みたいな神、それが邪神アイガスだよ」
「アイガス教の強さの秘訣は邪神が絡んでいるとみて間違いないか?」
「おそらく、邪神がなんらかの力を与えている可能性は高いね。正直、ボクは邪神のことを甘く見ていた。邪神はあらゆる手を使って世界を滅ぼしに来る。人々の苦しみ、憎悪がアイガスのエネルギーになってしまうんだ」
「そんな……」
隊長はメアリから話を聞くと、血の気が引いたような青い顔をしていた。
俺たちは、モンスターだけでなく神まで相手にしなければならないのか……。
「君たちには本当のことを話しておこうと思う。地球にモンスターを出現させたのは、邪神を倒せる勇者を選別するためだったんだ」
◇◇◇
「それじゃあ俺たちはお前に騙されてたんだな……」
「本当にごめん。そうしないと、この世界だけじゃなく、他の世界までもが邪神に支配されてしまう」
メアリは俺たちに深々と頭を下げて謝った。
要するに、モンスターに対抗できる人材を異世界に送り飛ばす算段だったらしい。楽しい異世界旅行を楽しみにしていたやつが、邪神と戦うことになるなんて夢にも思わないだろう。
「ったく……最初からそう言えよ。結局、このままだとこっちの世界も滅ぶんだろう?」
「うん……。封印が完全に解かれたら手が付けられなくなる。その前に邪神を滅ぼして欲しいんだ」
「それで、その対抗手段は? お前ら神でも手がつけられないようなやつに、地球人の俺たちが対抗できるとは思えないけどな」
転移しました。あとはよろしくお願いします、なんて話は通用しないのだ。
「君たちの世界に作ったレベルシステムは、邪神が封印されている世界のシステムと共通のものなんだ。邪神に対抗するには、レベル10万を超える人材が最低でも100人は必要になる」
「10万? そんなの無理に決まってるだろう?」
「だからこそ、ボクは君たちの世界に強大なモンスターを送り、君たちはそれを討伐しなければならない」
無理ゲーすぎるだろ……。そんな難易度のゲームが実際にあったら、クソゲー扱いされて淘汰される。
「間に合うわけがない! あと何百年かかると思っているんだ!」
そこで隊長が珍しく声を荒げた。周りの隊員も驚いて隊長の方に注目した。
今まで、メアリの言う通りに行動してきた。もちろん、それでいくつもの命を救ってきたのだ。
ただ、だからこそメアリの言うことが本当なのだと実感させられてしまう。
そんな無惨な現実から逃れられないことが、隊長の精神状態を不安定なものにしてしまったのかもしれない。
「藤井ちゃんの言う通りだよ……。ただ、この無謀な挑戦が可能になる選択肢が一つだけある……多々良拓也くん、君の創造魔法を進化させるんだ」
「え? 俺が?」
まさか俺が指名されると思っていなかったので唖然としてしまう。
「『真・創造魔法』。君が作成する魔法具に、経験値ボーナスが付くように魔法を改良する」
「真・創造魔法……? 経験値ボーナスって……レベルがたくさん上がる、とか?」
「その通りさ。今までとは比べ物にならないほどのスピードでレベルを上げられるはずだよ。それなら、遅くてもあと2年以内には邪神を滅ぼす力が手に入るはずだ」
なんだよそのチート魔法! あるなら最初から出せってんだ。
「最初から本気出せよ……」
「ハハハ……耳が痛いね。他のみんなもそれでいいかな?」
「選択肢は無いもの。良いに決まってるでしょ。こいつの武器がメインになるのは癪だけどね」
「余計な一言が多いんだよ!黙って良いですの一言で済ませろよ!」
俺と鈴石はメアリの前でもいつも通り口論をしてしまった。しかし、ふと見たメアリの顔はとても嬉しそうで、とても悲しそうな、そんな複雑な表情を浮かべているようだった。
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