第21話 援護
戦闘準備を終えた俺たちは、すぐにEランクダンジョン、アリュール砂漠へやってきた。
その場には、白銀の騎士団の探索者たちが集まっていた。
俺たちが到着して移送車を降りると、すぐに一人の男が駆けつけてきた。
「夜分遅くすまない! 白銀の騎士団、十二番隊隊長の南だ」
「魔法隊隊長の藤井だ。状況は?」
「なんとか戻ってきた団員の話だと、すでに何人かは死んだようだ……。生き残っている団員も、重傷を負っている者が多いらしい」
男は悲痛な表情を浮かべてそう説明した。
「ポーションは? あれを使えば傷も治るんだろう?」
「……骨折や大きすぎる傷は治せないんだ」
「そうか……」
隊長もその話を聞いて、戦況が良くないと感じたのだろう。少し考え込むように俯いてしまった。
「あのポーション、あんな値段なのにしょぼい。わたしの回復魔法、もっと治せる」
「だろうな。多分、沙織は重症者の対応にまわされると思うぞ」
俺と沙織は小声でそんなことを話していた。財閥関係者に聞こえた場合何を言われるか分かったものじゃないからだ。
「では、魔法隊がそのボスの対処に当たろう。その間、騎士団にはケガ人の対応に当たってもらう」
「あ、あなたたちだけで!? うちの団員がなんとか逃げ帰ってきているほどの強敵だぞ!?」
隊長のその一言に、騎士団の男は驚愕した。まあ、一応世間では多くのダンジョンを攻略している白銀の騎士団が攻略のトップということになっているからな。
ただ、それは間違いだ。俺たちはもっと上の高難易度ダンジョンの攻略を進めているからだ。
隊長も俺と同じようなことを考えたのだろう。騎士団の男に向け表情を変えることなく宣言した。
「何を勘違いしているか知らないが、一つ教えておこう。この国を、この世界を救うのは我々魔法隊だ」
◇◇◇
ダンジョンを急いで移動すること3時間。現れるモンスターをバッタバッタと倒し、ドロップアイテムを拾うこともなく大至急でボスの階層に向かっていた。
「すげえ……」
後ろから付いてきている白銀の騎士団の探索者からは時々そんな言葉が聞こえてきた。
おそらく、彼らはこんなスピードでダンジョンを進むことなどできないだろう。
圧倒的な攻撃力を持つ魔法隊でないとできない所業だ。
「あった! この先!」
それに加え王子の探知魔法だ。最短距離で階層を突破していけるのは王子の力が無くてはならない。
そうして階段を下りると、なにやら爆発のような音が聞こえてきた。
「……まだ生きてる! みんな、急げ!」
戦闘音が聞こえる、ということは誰かがまだ生きていることを意味する。
俺たち魔法隊の中から飛び出したのは、前衛を担当する立花さんと鈴石だった。
二人に続くようにボスが待つ階層に入ると、そこには見るも無残な光景が広がっていた。
すでに死んでいるのが分かるほど体が傷ついた者や、すでに虫の息の者が地面に伏していた。
なんとかモンスターに対抗している探索者も、足が曲がってはいけない方向に向いている者もいた。
探索者が苦戦しているモンスター。それは5メートルをゆうに超える、背中から羽を生やした牛頭人身の悪魔のような見た目をしていた。
そんなモンスターに恐れることも無く、鈴石は近づきながら魔法を発動し始めた。鈴石の周りに、熱気が立ち込めていく。
「さっさとくたばりなさい!」
そう言って鈴石が爆炎魔法を放つと、ドガアアアン、という派手な爆発にモンスターは巻き込まれた。
『グモオオオオオォォォォォ!?』
モンスターは今までとレベルの違う一撃を受け、明らかに混乱していた。
そんな隙を放っておくほど、立花さんは甘くない。
「おらあああぁぁ!」
がら空きだった足元を掬うように、立花さんは大剣を叩きつけた。
一瞬で右足を両断され、モンスターはあっという間に体勢を崩す。
「今の内にケガ人を外に!!」
一瞬、呆気にとられていた白銀の騎士団の探索者たちだったが、自分の仕事を思い出したかのように動き始めた。
モンスターの方は二人に蹂躙され、1分も経たないうちに討伐されてしまった。
正直、二人の相手にならなかったようだ。
「沙織、ケガ人の救護を」
「りょうかいー」
モンスターも討伐されたことで、俺たちはケガ人の救助に取り掛かることになった。
沙織のおかげで、今まで動くことが出来なかった人たちも自力で歩けるまで回復することが出来た。
あっという間の救出劇に、白銀の騎士団の探索者たちは何度も頭を下げてきた。
そんな中、モンスターと最後まで戦闘を続けていた男が話しかけてきた。
「あの……あなた方は、何者ですか……?」
「ん? 魔法隊だよ」
「いえ、そういう意味じゃなくて……。なぜ、そんな力を持っていて、ダンジョンを攻略していないのですか?」
「いや、絶賛攻略中だぞ? このくらいのレベルのダンジョンは意図的に攻略していないだけだ。他の探索者が腕を磨けなくなるからな」
「このくらい、ですか……。ハハッ、確かにあなた方にとって、このダンジョンは取るに足らないものなんでしょうね」
そう言うと男の目からは涙が溢れ出てきてしまった。
自分の力不足に泣いているのか、仲間をなくした悲しみに涙したのかは分からなかった。
「まあ、こういう危険な目に遭ったことは俺たちもあるよ。そうならないために、レベルを上げて、準備している」
「準備、ですか?」
「俺たちは、ドロップアイテムに執着していない。それはあくまでレベルを上げる際の副産物だ。自分の身や仲間を守るためにレベルを上げる。その過程でアイテムが手に入るって考えだな」
俺のその話を、男は食い入るように聞いていた。
「レベルを上げて、絶望の日に備えなきゃならんだろ? 金を稼ぐことが悪いとは言わない。ただ、目的をはき違えるな。あんたも、この国の大事な戦力になるんだからな?」
「……騎士団はお金を稼げば稼ぐほど優秀だとされていますから。今回は功を焦った僕の判断ミスです。部下を殺してしまったと言われても弁明できません」
男はそう言って俯いてしまった。
そうか、この人がこの部隊の隊長だったのか……。
ただ、起きてしまったことは覆せない。時間は巻き戻せないからな。
慰めの言葉が上手く見つからなかった俺は、自分のステータスボードを男に見せることにした。
俺のステータスを見た男は目を見開き、なぜかクスクスと笑い出してしまった。
「どうした?」
「いや、今まで自分達が攻略の最前線だと思っていたんですけどね。この数字を見たら恥ずかしくなりました」
ステータスボードには、レベル:127 と表示されている。
「ああ、言っておくが……俺は魔法隊の中で一番レベルが低いからな?」
そんな俺の一言を聞いた男は、目を点にしてその場に立ち尽くすのであった。
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