第20話 補給

 ダンジョンが世界中に現れてから1か月が経った。

 すでに人類は順応しており、ダンジョンに潜って生計を立てている人たちは『探索者』と呼ばれていた。

 神宮司財閥がドロップアイテムを高額で買い取ることが功を奏したのか、ダンジョンには毎日多くの探索者が訪れていた。こればかりは神宮司財閥のおかげと言うほかない。


 絶望の日に向けて、多くの探索者を集めることに国も財閥も躍起になっていた。

 国としては、国民を守ることになる探索者を多く確保したいし、財閥としては多くのドロップアイテムを確保したいということらしい。


 そんな中、俺たち魔法隊も新たなダンジョンへと足を運んでいた。

 最近、ボスが攻略され生まれ変わったダンジョンだ。

 

「いらっしゃいませ。Eランクダンジョン、アリュール砂漠へようこそ。探索ですか?」


「はい、これを」


 隊長はそう言ってパーティカードを受付に渡す。このパーティカードを渡すことで、ダンジョンに誰が入ったのか確認するシステムらしい。


「……はい。確認が取れました。探索にポーションや装備はいかがですか?」


「いえ、間に合ってますので。では」

 

 受付嬢の営業も軽くあしらい、隊長は行くぞ、と声を掛けダンジョンへと進んでいく。


「あのポーションぼったくりだよなあ」


「絶対探索者の足元を見てるわよね……。私たちは凪ちゃんがいるからあまり必要ないけど……」


 財閥が経営するダンジョン管理会社、通称『探索者ギルド』で販売されているポーションは1つ15万円。探索者が一度に稼ぐ金額が大きいとはいえ、一度の探索で稼ぐ金が飛んでいくような価格設定はどうかと思う。


 一部ダンジョンでドロップする薬草からポーションを作成できる『薬学魔法』の使い手は財閥が抱え込んでいるらしい。稼ぐ気満々だな。


「さあ、今日もみんなでジャンジャン魔石を集めてくれ。生まれ変わったダンジョンだが、モンスターもそんなに手強くないらしい」


「了解です」


「正直、うちの基地にあるダンジョンと比べたら簡単すぎるとは思うが、油断は絶対しないように気を引き締めていこう」


 そうして、俺たち魔法隊はダンジョンの攻略を進めることにした。

 今回の目的は赤い火属性の魔石だ。基地にあるダンジョンの攻略を進めていた俺たちだったが、火属性が弱点のモンスターが多い氷雪地帯の階層だったため、魔石の消費が著しかったのだ。


 ダンジョンに潜り始めて3時間ほどが経ち、魔石を十分に集め終わったところで、俺たちはいったん休憩をはさむことにした。


「ここ、あつい……」


「そりゃあ砂漠フィールドだからな……。ちょっと水魔法で体を冷やしてくれないか?」


「わかった」


 かなり高温の階層なので、全身から汗が噴き出ていた。それなら水浸しになったほうが綺麗になるだろうと考えたのだ。沙織は俺に向けて水魔法を発動した。


 ザッバアアアアン!!


 まるで滝のような大量の水が俺の体に叩きつけられる。


「ゴホッゴホッ!! こんな威力いらねえだろうが!」


「ごめん。しっぱい」


「次からはシャワーくらいの水量で頼むぞ……?」


 毎回こんなんだったら間違いなくむち打ちになる。


 そうして、15分ほど休憩した頃だろうか。近くを移動する探索者の一団が目に留まった。

 探索者は全員真っ白な装備に身を包んでおり、所々金色の刺繡が施された高級そうな見た目だった。


「白銀の騎士団か……」


 白銀の騎士団。例の神宮司財閥直属の探索者パーティだ。

 バックに神宮司財閥が付いているので、装備に関しては現状最高級のものを使用しているみたいだ。当然、俺が作る装備よりは性能が低いけどな。


「あいつら、狩場の占領とか平気でするらしいわよ」


「まじで? 一応財閥直属のパーティだろ?」


 世間体などは気にしないんだろうか? 俺がそんなことを考えているのが分かったのか、隊長が説明してくれた。


「まあ、一応天下の神宮司財閥だからな。狩場が豊富にあるのに、わざわざ突っかかってトラブルを起こす馬鹿はいないだろう?」


「確かに……。一応あいつら、ダンジョン攻略数トップでしたよね?」


「探索者の数が違うからな。あまり先走ってダンジョンのレベルが上がりすぎてしまうことは避けて欲しいがな」


 白銀の騎士団の目的はこの階層では無かったらしく、足早にダンジョンを進んでいった。ダンジョンボスを狙っているのかもしれないな。


「私たちの目的はこのダンジョンの攻略ではないから、ここは彼らに任せておこう」


 そうして俺たちは休憩を終えて、魔法隊の基地へと戻ることになった。

 


  ◇◇◇



「さて、さっさと作るかね」


 仮眠を終え、事務所に戻ってきた俺の目の前には山ほど積みあがった魔石とあるものが置いてある。


 以前、魔法具を改良し威力重視にした結果、魔石を交換する頻度が増えてしまい正直効率が悪いと考えていた。


 それを解消するために、俺はあるものを開発した。

 

 マガジン、弾倉である。

 創造魔法で作ったマガジンをベースに、合成魔法でたくさんの魔石を組み合わせるとあら不思議。長時間撃ち続けられる拡張マガジンの完成!


 合成魔法を使えば、再補充も可能という優れものなのだ。

 そうして、俺がひたすら作業を繰り返し1時間が経った頃だろうか。事務所の扉をバアン!と勢いよく開けて隊長が駆け込んできた。


「ど、どうしたんですか、そんなに慌てて」


「まずいことになった! 白銀の騎士団が……帰還していないそうだ……!」


「それって……死んだってことですか?」


 隊長の報告を聞き、ほのぼのとした平和な空気が流れていた事務所内に戦慄が走る。

 隊長は続けて、詳しい状況の説明を始めた。


「事態が判明したのはつい先ほどだ。騎士団の探索者がなんとか逃げ帰ってきたらしい」


 どうやら、最悪の事態が起こってしまったようだ。

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