第19話 遠征
場所は変わって、隣町。
俺たち魔法隊は、新たに出現したというダンジョンに足を運んでいた。
ダンジョンの周りには規制線が張られ、その周りを多くの野次馬が取り囲むような形になっていた。
「おいおい、すげえ人だな……」
思いのほか人が多く、魔法隊の移送車で外の様子を見ていた立花さんは呆れるようにそう言った。
「ダンジョンって魔法省で管理するんじゃないんですか?」
「ゆくゆくはそうするつもりらしい。ただ、私も一魔法隊員にすぎない。こればかりは上がさっさと行動してくれないと困るんだがな」
隊長の話によると、元々はすぐに魔法省で管理する話になっていたのだが、政治家の裏に構えている企業がそれにストップをかけているらしい。こんな非常時にも関わらず、自分の利益しか考えていないとは、世も末だな。
今のところ調査中だが、やはり各ダンジョンの1階層は難易度もかなり易しく調整されているようだ。
出来るだけ多くの挑戦者がいた方が、2か月後に対応できる人が増えると言うのに。
「まあ、このダンジョンはすでに我々が一足先に入れることになっている。民衆の反感を買わないとも限らないから、急いで中に入るぞ」
そう言うと隊長は移送車を降りて足早にダンジョンに向かっていく。
俺もその後に続くように急いで移動を始めた。
「おい、あれ魔法隊だ……」
「本当に中に入るのか……? おい、しかもあいつ、ライフルまで携帯しているぞ?」
俺らの姿を見た民衆の中からはそんな声が聞こえてきた。
中にはカメラを構えている人もいたので、おそらくこの情報も一瞬で出回ることになりそうだ。
そうして民衆に見られながら、俺たちは新たなダンジョンへの階段を下りて行った。
◇◇◇
「やっぱり、この辺りのモンスターはレベルが低いな」
「そうね。正直、拍子抜けだわ」
ダンジョンに潜り始めて3時間。俺たちはひたすらダンジョンの攻略を進め、すでに5階層まで到達していた。
ただ、出現するモンスターは魔法隊の基地にあるダンジョンと比べてかなり弱かった。いかにも初心者向けのダンジョンという感じだった。
「まあ、ここに来るのは魔石集めが主な目的になる。多々良くんの魔法具には魔石が必要不可欠だからな」
「それじゃあ、パパっと集めてとっとと帰りましょう。それに、これくらいの難易度であれば一般人が潜っても危険はほとんどないでしょうし」
「そうだな。これからはダンジョン攻略に勤しむ人間が増えるだろうし、今回はダンジョンの下見、ということにしておこう。明日にはこのダンジョンは一般開放するしな」
そうして俺たちはある程度魔石を集めてから地上に戻ることになった。
外に出てもなお、その野次馬の数は減っておらず、初めて見るダンジョンを一目見ようと多くの人が押し寄せていた。
中には、報道番組の記者らしき人もいた。どうやら、魔法隊がダンジョンに潜った情報を聞きつけたようだ。
「あ、あの! お話聞かせてもらえますか!?」
「無理。いそがしい」
沙織は記者に声を掛けられたが、切り捨てるようにそう言った。
あまりにも対応が冷たすぎないかと不安になり隊長に視線を向けたが、気にするなと言うように首を横に振った。
俺たちは民衆に声を掛けられつつも、逃げるように移送車に乗り込んでその場を後にした。
「なにあれ? 疲れる」
声を掛けられた沙織は不機嫌そうな表情を浮かべ、お菓子を食べ始めた。
「ハハハ、そりゃ今のところダンジョン攻略の最前線は私達だからな。注目されるのも無理はないさ」
その時、隊長の元へ電話がかかってきた。
「……うわ。大臣からだ……」
どうやら魔法大臣からの電話だったらしい。苦虫を嚙み潰したような表情を受かべ、はあ、と大きくため息をついてから隊長は電話に出た。
「はい、藤井です……ええ、ええ…………」
それから隊長は5分ほど話し込んでいた。電話を切ると、隊長は一際大きなため息をつくのだった。
「はあぁ……」
「ど、どうしました……?」
「予定が大幅に変わったらしい。ダンジョンを管理するのは……神宮司財閥だそうだ」
隊長は、頭を抱えて俺たちにそう伝えた。
「は……? どうしてここで財閥が出てくるんですか?」
「やつらの財政力は間違いなく日本一だ。正直、この国の法人税の6割がやつらの関連企業から納められるものなんだよ。そして、財閥の会長から直々に連絡があったらしい。ダンジョンを管理させなければ、関連企業を海外に売り渡す、とな」
「じゃあ、ダンジョン攻略はまんまとやつらの手に渡ったってことですか?」
「ああ、そうなる……。各ダンジョンには神宮司財閥から人員が派遣され、入場管理やドロップアイテムの換金業務を担当するらしい。財閥はダンジョンを独占することにしたようだ」
どうやら、魔法大臣を含め多くの政治家が彼らの手のひらで転がされているらしい。
「ただ、我々の活動内容は変わらない。無論、こうなった以上我々につく予算は少なくなるだろうがな」
「まんまとやられましたね……」
こうして、日本国内のダンジョンは実質的に神宮司財閥に乗っ取られてしまったのである。
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